家族の視点から働き方を見直す「仕事」と「家族」「ワンオペ育児」で疲弊する母親たち
家事・育児の分担をどうする?
専門は社会学。著書に『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』(毎日新聞出版)など
「ワンオペ育児」で疲弊する母親
「イクメン」という言葉が広がり、週末には子ども連れの若い父親の姿を見掛けるようになりました。家事・育児分担が進んでいる印象がありますが、統計データを見るとまだまだです。
6歳未満の子どもがいる家庭で、平日に家事・育児をしている男性の割合は2~3割で、残りのおよそ7割は「0分」と回答しています(総務省「社会生活基本調査」)。多くの男性が平日に家事・育児をしていません。
私が行っている聞き取り調査でも、母親に家事・育児の負担が偏っている状況がわかります。夫婦がともにフルタイムで働いている場合でも、夫に残業のない日はほとんどありません。未就学児を持つ父親の平均帰宅時間は夜9時前後です(同前)。未就学児は夜9時くらいに寝かしつけるのが一般的なので、その間の食事やお風呂などは妻がすべて担っています。
育児を一人で行う「ワンオペ育児」は、大半の母親にとって平日の問題です。けれども、多くの男性は、「ワンオペ育児」の過酷さがよくわかりません。パートで働く母親の場合、仕事と家事・育児の合計時間は、男性の労働時間とほぼ同じです。フルタイムで働く女性だと、仕事と家事・育児の合計時間は、男性の労働時間より長くなります。職場でミスをしないよう注意を払いながら、家では家事・育児をすべて一人でこなさないといけません。さらに、子育ての心配に加えて、職場では早退などで頭を下げる場面も多く、精神的にも疲れます。子どもが小さく手のかかる時期だけでも、父親が早く帰って平日に家事・育児をやらないと、母親は精神的・肉体的に疲弊してしまいます。
家事・育児スキルの夫婦間格差
男女間の家事・育児スキル格差は若い頃からあるわけではありません。最近は料理をしない女子学生も多いですし、実家から通学し自炊を経験していない学生もたくさんいます。三世代同居も減少し、子どもの頃に家事を教えられた学生も少なくなっています。学生時代では男女の家事スキル格差は小さいと思います。
結婚や出産後に家事・育児に本格的に取り組み始める女性も多いはずです。特に、出産後に仕事を休むのは圧倒的に女性です。意識の高い女性ほど、自分が家事・育児をやらなければいけないと思い込み、抱え込んでしまいがちです。夫婦間の家事・育児スキル格差はこうした場面で生まれます。
その結果、夫は「指示待ち態勢」になってしまいます。夫は自分が何をすべきか把握していないので妻の指示がないと動けない。そのため妻は、夫に何かをしてもらうたびに指示をしなければならず、負担が減った感じがしません。
聞き取り調査でよく耳にするのは、夫は自分が家事をやっているつもりでも、その前準備と後片付けは妻が全部やっているという事例です。例えば、「食べ残しを冷蔵庫にしまう」「ごみ袋をセットする」「トイレットペーパーを補充する」「洗剤を詰め替える」─。こうした名前の付いていない家事、「名もなき家事」を夫たちはしていません。家事の項目を分解すると妻の負担の方が多くなっています。家事負担に対する夫婦間の意識のズレはこうしたところでも生まれます。男性が育児休業を取得し、当初から家事・育児の分担にかかわることが大切です。
家事の水準を下げる
家事・育児スキルの格差がすでに生まれてしまった場合でも、妻が諦めずに夫に言い続けるしかありません。夫に言ってもやってくれないとか、言うとケンカになるという声を聞き取り調査ではよく聞きます。先行研究では、妻が諦めてしまうと夫はもっとやらなくなるというデータもあります。諦めずに言い続けるしかありません。
夫が家事を始めたとき、夫のやり方が気に入らないという人もいます。しかし、妻側も任せるべきところは夫に任せることが大切です。そうしないと分担は進みません。例えば、部下に任せるべき業務は任せないと、相手は成長できません。仕事と同じです。夫の役割は洗濯だと決めたら、洗濯物が山盛りになっても妻は手を出さない。そのくらい徹底してもいいと思います。
女性の中には、「私は家事や子育てがちゃんとできていない」と言う人がたくさんいます。でも、よく話を聞くと「家が汚れている」とか「片付けられない」とかその程度です。「そこまでやらなくても大丈夫ですよ」と講演などで話すと「目からうろこ」だったと話す女性もたくさんいます。専業主婦全盛の時代にホームメーキングが「アート」の域に達するほどの基準になったことで、家事の水準がいまだに高くなっています。
共働きをしながらその域に達するのは無理です。働くというこれまでの男性的な役割と、専業主婦の役割を同時にこなすのは、時間的にも体力的にも無理です。家事の水準を下げてもいいということに気付いてほしいです。また、経済的に余裕があれば、家事代行サービスを利用することも解決策の一つです。
近年は、家庭における教育機能も高まっています。習い事や家庭教育に割く時間が増え、家族の負担が増えていることにも留意が必要です。
求められる対策
「ワンオペ育児」で苦しむ妻の負担を軽減するために企業ができることは、父親を早く帰すことに尽きます。ライフステージに沿って働き方を変えるのは当たり前の時代です。残業ありきの働き方を何十年も続けるのではなく、子どもが小さいうちは早く帰れるようにするなどの柔軟な働き方が必要です。休業してもその後のキャリアに影響しないようにしないと休みを取る人は増えません。
テレワークやフレックスタイムのような働き方の促進も重要だと思います。共働き先進国で導入されている仕組みを取り入れていかないと、企業は優秀な女性を採用できないし、引き留めておくこともできません。
労働組合は女性の働き方にあまり興味を持っていない、というのが私の労働組合に対するイメージです。労働組合の会議に子育て中の女性が出てくることは少ないでしょうし、「ワンオペ育児」のような問題が労働組合の中で表面化することはあまりないのではないでしょうか。働くことの問題には、女性や子育ての問題も含まれているはずです。
当事者の声を聞かなければ、どのような方向に働き方を見直すべきかわからないと思います。子育て中の女性同士が集まる場所では、さまざまな意見が出ていますが、それが意思決定の場に伝わっていない現状があります。その声を聞く工夫をして、運動に反映してほしいと思います。