特集2019.05

参議院議員選挙前に考える 日本経済の現状と課題「アベノミクス」と「中年フリーター」
実態から見た経済情勢とは

2019/05/14
戦後最長の景気拡大期の一方で、厳しい状況に置かれ続けた人たちがいる。景気回復の実感が乏しい中、「中年フリーター」の視点から「アベノミクス」を眺めてみる。
小林 美希 労働経済ジャーナリスト
『ルポ 中年フリーター─「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書 566) 小林美希著

──「中年フリーター」の現状は?

10〜20年近く非正規雇用で働いたり、正社員の経験があっても過酷な労働で心身ともに疲弊して退職に追い込まれたり。学校卒業から20年近く。いくらがんばっても報われず、低賃金や雇い止めで疲れきり、心が完全に折れてしまっている人が多いです。

生活は、現状維持で精いっぱい。都心でも手取り月20万円のハードルは高いです。諦めと絶望の中で「このままでいいや」と諦める人が目立つようになりました。行政などの支援があっても、その流れに乗れません。

男性は独身が多く、実家や公営住宅、ルームシェアなどで家賃を抑えて生活している人が多いです。食費も切り詰めていて、500円のお総菜でも高いから、閉店間際のスーパーで5割引きの商品を買って200〜300円でやり過ごすという人もいます。目の前の生活がやっとという感じです。

手取りは月15万〜16万円。よくて22万、23万円。このくらいあると一人で暮らす分には何とかなりますが、結婚や家庭を持つことまでは考えられない。しばらくは現状維持できますが、何かのきっかけで職を失うと生活保護に転じてしまう人もたくさんいます。

女性の場合、独身の人もいますが、結婚が「隠れみの」になって、厳しい暮らしが外部から見えづらい構造もあります。結婚しているから安定している訳ではなく、パートナーの職が不安定・低賃金だったりして、生活は厳しい。その中で、家庭責任を負わされ、非正規雇用でやむなく働いている女性は数多くいます。こうした女性の非正規雇用も含めて「中年フリーター」問題を捉えるべきだと思います。

──将来に向けた思いは?

今でも半年後、1年後の仕事があるかどうかわかりません。どの人も「このまま50代、60代になったらどうなるのだろう」という思いを共通して抱えています。

貯蓄もない人が多いです。奨学金を受けて学校を卒業した人も結構いて、借金を抱えている状態です。住み込みの仕事を雇い止めされ、転居費用を消費者金融から借りたという人もいました。

民間保険に入っている人も少ないです。同居の親が持病を抱えていても、交通費や自己負担を気にして病院に連れていけないというケースも聞きます。厚生年金に加入していない人もいます。

総合研究開発機構の『就職氷河期世代のきわどさ』(2008年)という報告書では、就職氷河期世代が十分な年金を確保できないと、将来的に20兆円程度の追加的な財政負担が発生するという試算結果が示されています。報告書の後にリーマン・ショックが起きました。非正規雇用の数は増えています。現状は悪化していると思います。

──「中年フリーター」から見た「アベノミクス」とは?

「アベノミクス」が脚光を浴びた時点から見る目は冷めています。「大企業のごく一部のことで、自分たちには関係ない」と偶然にもみんなが同じことを言います。

安倍政権は「アベノミクス」で雇用が増えたと言いますが、「アベノミクス」が始まる前から、「団塊世代」の大量退職を受けて、求人の回復は始まっていました。雇用が増えたといっても、増えたのは非正規雇用で、質という意味では改善していません。「中年フリーター」はそのしわ寄せを受け、非正規雇用から脱することができません。

同時に「就職氷河期世代」は、親子で規制緩和の被害に遭っている世代でもあります。保育の規制緩和で、基準の緩い保育所が出てきたことで、その子どもも規制緩和の犠牲になっています。

──背景にある構造的問題をどう見ますか?

経済不況を背景にした雇用の規制緩和が就職氷河期問題にダイレクトに影響しました。規制緩和されるたびに非正規雇用が増えましたが、それとともに正社員の負荷も重くなりました。その構図は悪化し続けています。

経済界は「失われた30年」の中で規制緩和に頼り続けてきました。本来の成長をめざすことなく、「失業するよりまし」と論点をすり替えて、雇用の規制緩和を繰り返してきたのです。

結局、企業は人事や労務をアウトソーシングし、コストカットしたことで、「人を見る目」を失いました。それにより企業は力のある社員を雇えなくなり、人を育てる力も失いました。

すべての問題はここから出てきています。企業は人と人との関係を安易にしてしまったことで、成長力を失ったのです。資源の少ないこの国で、人の力こそが資源なのに、人に投資をしなくなった。人に投資をしないということは、成長を止めることと同じです。企業はコストカットによって成長する力を失ってしまったのです。このままでは衰退に向かう一方です。

──望まれる対策とは何でしょうか?

以前、国が主導して中小企業と専業主婦をマッチングさせる施策を実施しました。2週間から2カ月のインターンシップの間、インターンには1日数千円の日当が支払われます。企業にとっても負担がないので試しやすい制度でした。こうした仕組みを「中年フリーター」を対象に広げ、全国的に展開すれば、状況を改善させる手段の一つになると思います。

また、より高い賃金を得るために資格を取ることは有効な手段の一つですが、資格取得のための費用が高すぎます。受講費用を支援する仕組みがさらに広がるといいと思います。

また、住居の確保や最低賃金の引き上げも重要です。特に最低賃金は、非正規雇用の底上げという意味でも不可欠です。

過酷な労働環境から心身を疲弊させ、非正規雇用になってしまった「中年フリーター」の人は少なくありません。なぜ過酷な労働環境が生じるかというと、利益率の低いサービス業が、非正規従業員を大量に雇用しているからです。現場を取材しながら、高付加価値の製品を海外に輸出するような収益構造を変えていく必要性を感じています。産業構造を転換させ、製造業に原点回帰すべきです。中小企業でも製造業で「グローバルニッチトップ」の企業は国内に少なからずあります。こうした分野で働く人を増やしていくべきです。

やれることがあるうちに手を打たなければ、生活保護を受給する高齢者が将来的に大量に生じることは明らかです。政府が「就職氷河期世代」への集中支援を打ち出したことは評価できます。詳しい内容は明らかになっていませんが、介護や農業などの人手不足を解消しようとするなら、これまでの失敗を繰り返すことになると思います。単に人手不足で労働環境が厳しいところに就労させても長続きしません。

長い苦境の中で心が折れてしまった当事者の立場を踏まえれば、学びながら就労を続けられる体験。温かい人間関係の中で育ててくれる職場。そうしたことができる企業とのマッチングが鍵になると思います。

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