特集2019.05

参議院議員選挙前に考える 日本経済の現状と課題統計不正で実態ごまかし
有権者が取るべき態度は?

2019/05/14
統計に不正があれば日本経済の現状を正確に把握することすらできない。GDPや勤労統計の「ごまかし」を指摘する明石弁護士に、問題の所在と有権者が取るべき態度について聞いた。
明石 順平 あかし じゅんぺい 弁護士。
ブラック企業被害対策弁護団所属。
著書『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(ともにインターナショナル新書)で日本経済を分析。
『データが語る日本財政の未来』(インターナショナル新書)明石順平著

GDPをかさ上げ?

2016年12月、内閣府はGDPの算出方法を変更し、1994年以降のGDPをすべて改定して公表しました。国際的な算出基準である2008SNAに対応した結果、算出項目に研究開発費等が加わったことでGDPは20兆円ほど上積みされました。

ところが、GDPの上振れで重要なのは、研究開発費等の上積みではなく、算出方法で変更された「その他」の部分です。「その他」の数値は、「アベノミクス」以降だけが大きくプラスになり、1990年代の数値は逆に大きくマイナスになっているのです。「アベノミクス」以降の「その他」の平均額は5兆6000億円のプラスでしたが、1990年代の「その他」は平均3兆8000億円のマイナス。その結果、2015年度の名目GDPは、過去最高だった1997年度の数字にほぼ追い付くという現象が起きました。1997年度と2015年度の「その他」の額の差は、13兆4000億円に上ります。そのため、改定前の算出方法では20兆円ほど差があったにもかかわらず、「その他」で調整された結果、2015年度の水準が過去最高の1997年度と同水準にまで引き上げられました。その上、2016年度と2017年度の名目GDPは過去最高を更新しました。端的に言うと、GDPの算出方法が変わったことで歴史が変わってしまったのです。

消費が低迷

「その他」は、どのようにかさ上げされたのでしょうか。内閣府は改定1年後に「その他」の詳細に近い内訳を公表しましたが、内訳表の数字を合計しても「その他」の合計と一致しません。内閣府は表以外にも項目があると説明しているため、これでは実態がわかりません。

私が注目しているのは、消費に関する数字です。GDPの算出に用いられる家計最終消費支出の傾向と、総務省の家計消費支出指数の傾向が全然一致しないからです。おそらく、消費の推計方法を変更して消費の項目をかさ上げした、というのが私の考えです。

「アベノミクス」の肝は、日本経済の成長を大きく左右する消費の活性化にありますが、「アベノミクス」は、それに失敗しています。2014〜16年にかけて実質民間最終消費は3年連続でマイナス。これは戦後初。2017年はプラスに転じましたが、それでも2013年度より低い。これも戦後初。2つの戦後初が同時に起きるほど消費が低迷しています。「ソノタノミクス」で消費をかさ上げしているのに、その数字は低迷しているのです。

実質賃金のごまかし

GDPのかさ上げなど簡単にはできません。普通なら自制が働くからです。しかし、安倍政権は、立憲民主党の小川淳也議員が指摘したように、基幹統計の統計手法について53件も見直し、そのうち38件がGDPに影響するものでした。安倍政権は成長戦略の中に統計の見直しを盛り込み、多くの統計の取り方を変えています。

毎月勤労統計も同じです。この統計の不正問題に関しては、2004年から東京都の500人以上の事業所を勝手に抽出調査していたことに世間の目が向けられていますが、問題の本質は別にあります。主に、▼2018年1月に、サンプル対象を総入れ替えから部分入れ替えにしたこと▼ベンチマークを数値が高く出やすいように更新したこと▼常用労働者から賃金の低い日雇い労働者を外したこと▼このように賃金が上振れする変更をしたにもかかわらず、過去にさかのぼって遡及改定しなかったこと─です。この点を見なければ、問題の本質を見誤ります。

「アベノミクス」は、物価を上げれば賃金も上がるという前提に立った政策ですが、その前提は間違っています。結果は、物価ばかり先に上がってしまい、賃上げが追い付かず、実質賃金が低下し、消費も低迷、GDPも停滞というのが実態です。物価と賃金、消費の推移を並べれば、「アベノミクス」が失敗したことは明らかです。安倍政権はそれを覆い隠すために、こんなことをしているのです。

生活実感を信じる

統計に不正があると、有権者は、選挙の際に候補者を選ぶための判断要素が正しく提供されません。その結果、正しい情報が提供されていれば、選ばれないはずの候補者が当選することも起こり得ます。

有権者の皆さんは、まず自分の生活実感を信じてください。皆さんの生活実感は正しいです。現実的に、実質賃金は低下し、実質消費も落ち込んでいます。この二つの事実が有権者の皆さんにとって一番重要です。

有権者の皆さんは、ヒーローが現れて、この国を劇的に変えてくれるという幻想を持っていないでしょうか。でも、そんなヒーローは現れません。日銀が国債を買い続ければ景気が良くなるということもありません。

日銀の物価上昇目標は、賃金の推移を無視した目標でした。異次元の金融緩和は、その場しのぎの施策でしかなく、これを止めると大きな副作用が生じます。副作用というのは、端的に言うと円が信用されなくなり、円安インフレが進行することです(この点のメカニズムは複雑なので詳しく知りたい方は拙著をお読みください)。仮にそのような事態になれば、そのしわ寄せを最も受けるのは、高齢者です。老後のために蓄えておいた貯蓄の価値も一気に吹き飛びます。日本人は戦後直後に猛烈なインフレを経験し、たいへんな思いをしているはずなのに、そのことを忘れてしまったかのようです。

厳しいかもしれませんが、日本はいばらの道を歩むほかありません。甘いことばかり言う政治家は信用できません。耳が痛いことでも言い、国民のためにがんばる人こそ信用できるのだと思います。

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