参議院議員選挙前に考える 日本経済の現状と課題「財源不足」に向き合わない安倍政権
将来を見通した財政・社会保障政策の提示を
安倍政権の財政・社会保障政策
安倍政権の下では税収が増え、一定の財源確保が進みました。一方、安倍政権は消費税率の引き上げを2回にわたり延期。その他の税の財源確保にも踏み込みませんでした。その結果、日本の財政・社会保障は、財源不足が社会保障の充実を妨げるという、安倍政権以前からの積年の課題から抜け出すことができていません。この点は残念です。
安倍政権は、子ども・子育て分野に取り組む姿勢を示し、他分野に比べれば積極的に予算を振り向けました。それでもなお、日本のGDPに占める家族関係社会支出の割合はOECD諸国の平均を大きく下回っています。主要先進国では最低レベルです。
日本の社会保障政策は、財源不足という大枠の制約があるため、大胆な施策が実行できないというジレンマに陥っています。例えば、幼児教育の無償化。就学前教育を負担なく受けられるという施策は評価できるものです。ただ、一方で待機児童の解消や保育士の待遇改善を求める声が上がっています。これらは同時に実行すればいい話なのですが、財源不足から思い切った予算の振り向けができていません。
医療・介護も同じです。例えば、介護サービスにおける利用者の自己負担額。近年引き上げが続いていますが、財源不足が抜本的に解消されない限り、その傾向は今後も続きます。
結局、財政の観点から見ると、安倍政権の社会保障政策は、財源が足りないために、いろいろな対策が中途半端になり、実質的な改善が進んでいかない現状があると言えます。
日銀と財政の関係
日銀の金融緩和は、「出口」に向けて緩やかに動いていると捉えています。物価や景気の動向をにらみながら、金融政策を少しずつ正常化させたいという判断は妥当だと思います。
一部ではインフレ目標を達成するまで大胆に金融緩和を継続すべきという声もありますが、日銀が保有する国債の量を膨張させ、マイナス金利を含む超低金利で金融機関の財務を圧迫すれば、その弊害は後に大きくのしかかってきます。「出口」に向けて、節度ある動きを取ることが妥当です。増税しないで、国債発行だけで財源を確保できるという意見もありますが、現実的ではありません。
一刻も早くモデルチェンジを
高齢化により医療・介護の給付は増加する一方、少子化により現役世代の人口は縮小していきます。少子高齢化で生産年齢人口が減少するため、かつてのような高い経済成長も期待できません。
安倍政権は、その中で「全世代型社会保障」を打ち出しました。子どもや現役世代も含めて社会保障を充実させるという政策の基本的な方向性は間違っていません。
ポイントは、子どもや現役世代に財源を振り向けること、高齢者の生活を支えながら、高齢者が活躍できる場を積極的につくりだしていくことでしょう。医療・介護、子育てなど、人々の暮らしのニーズは、今後も増えていきます。そのニーズに対応するために必要なことは、「自分の稼ぎで何とかする」モデルから、「税を出し合って、ニーズを満たし合う」モデルへの転換です。
戦後日本の生活モデルは、自分で稼いだお金を貯蓄して将来のリスクに備えるモデルでした。しかし、自分の貯蓄で生活できない高齢者が増え、生活保護受給者が拡大しています。加えて、「就職氷河期世代」が高齢化すれば、生活保護受給者がさらに増えることも想定されます。医療や介護、子育て、年金などの生活のニーズを満たす体制を今のうちに整えておかないと、たいへんな貧困・格差が生じ、生きづらさに拍車が掛かるでしょう。
そうしたシナリオを避けるためにも「税を出し合って、ニーズを満たし合う」モデルへの転換を急がなければいけません。支払う税金が多少高くても、それを財源にし、すべての人の生活のニーズを満たしていく社会。自分で貯蓄をするのではなく、社会に貯蓄し、自己責任では対応しきれないニーズをみんなで満たし合う社会です。
安倍政権は6年超の政権運営の中で、有権者の反発を恐れ、財源を増やす必要性を真剣に語ってきませんでした。威勢のいいキーワードで社会保障を語りながらも、財源の問題に向き合わなかったため、政策はパッチワーク的なものにとどまりました。しかし、こうしたその場しのぎの対策をいつまでも続ける余裕はありません。一刻も早く、国民に対し安心できる社会ビジョンを示し、そのために必要な分かち合いのあり方を語りかける必要があります。
10年、20年後を見通した政策を
そのためには、日本社会にある根深い「嫌税感」を克服しなければいけません。それは政治家の重要な仕事です。
消費税を上げればいいというのは間違いです。ただし、消費税を抜きにしてニーズを満たし合うための財源を確保するのは無理です。仮に年収1200万円以上の所得税率を引き上げても、十分な税収を得られません。所得税率の引き上げによって、ニーズを満たし合う社会をつくろうとすれば、数の多い中間層も含めた税率の引き上げは避けて通れません。法人税率の引き上げや内部留保課税なども検討の余地はありますが、十分な財源にはなりません。
財政や社会保障は、来年・再来年だけではなく、10年後、20年後までを見通した制度の構築が大切です。目先の人気取りで、増税の凍結や富裕層への増税を打ち出せば、選挙で勝てるかもしれません。でも、5〜10年後を見れば財源は足りません。短期的には良くても、長期的には何の解決にもならないのです。
富裕層やもうけている大企業からお金を取ってくればいいという言説が国民に浸透することはポピュリズム的で危険だと思います。
安倍政権だけではなく、それ以前の政権も含めて、日本の政治は税制・社会保障のあり方に関して、受益と負担の全体像を示して、国民と議論することを避けてきました。財政全体を巡る、市民と政府の対話のあり方を抜本的に変えていかなければなりません。
確かに20〜30年後を見通せば、負担は増えざるを得ません。しかし、そこに至るステップを、幅広い受益のシステムとセットで積み上げていくことで、国民の理解も少しずつ広がっていくのではないでしょうか。
持てる者から税を取って、持たざる者を救うという方法では、社会の分断は深まるだけです。税を通じて人々が支え合い、誰もが抱える生活保障のニーズを満たしていくことが大切です。生活が決定的に行き詰まることのない安心のシステムを、税を通じた支え合いによってつくらなければなりません。