新型コロナウイルスとICTITやデータを活用し感染拡大防止
行政のデジタル化に向け集中投資へ
(政府CIO)
IT総合戦略本部の取り組み
政府は4月22日、IT総合戦略本部の会議を開催し、「IT新戦略策定に向けた方針」を確認した。新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するためITやデータを総動員した取り組みが必要としたほか、感染拡大の抑制後にはデジタル化を社会変革の原動力として強力に推進することなどを確認した。
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長でもある内閣情報通信政策監(政府CIO)の三輪昭尚氏は、政府の取り組みとして直近と中長期の取り組みがあると説明する。
直近の取り組みは、政府が4月6日に設置した「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」によるITやデータを活用した感染拡大防止策だ。具体的には、民間の通信事業者・IT事業者などと協力し、人の移動減少率等を位置情報を用いて把握・公表したり、接触確認アプリを開発したり(6月19日にリリース)、病院の医療提供体制を「見える化」したりする取り組みを展開してきた。
同時に、政府のテレワーク環境の整備も進めてきた。三輪CIOは、「これまで省庁をまたいだウェブ会議などのシステムが整っていませんでした。政府のシステムを一元管理する取り組みを早急に進めています」と話す。
一方、中長期的な取り組みでは、デジタル化を通じた社会構造の変革をめざす。テレワークやオンライン授業への対応や、デジタル・ガバメントのような社会基盤の整備や規制の見直しなどを行うとしている。三輪CIOは「中小事業者や高齢者、障害者など誰一人取り残さないデジタル・インクルーシブ社会を実現することが大切」と強調する。
デジタル化への集中投資
政府の2019年のIT戦略の基本的な考え方は「国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できるデジタル社会の実現」だ。そうした基本的な考え方の下、5GやAIの活用、人材育成、デジタル格差対策などに取り組むとしてきた。三輪CIOは「IT戦略をもっと進めていれば、今回のコロナショックの中でも役に立つことはたくさんありました。デジタル化をもっと進め、いざという時に活用できるようにしたい」と説明する。
政府は6月22日に開いた経済財政諮問会議で、デジタル化への集中投資とその環境整備などを含む成長戦略の骨子案を確認した。次世代型行政サービスの推進や変化を加速するための制度や慣行の見直しなどを進めるとしている。
デジタル化の遅れへの対応
新型コロナウイルス対策の10万円給付では、オンライン申請を導入することなどにより、2008年度の定額給付金と比較すると各段に早期の給付を実現した一方、電子申請データを効率的に処理することができず、紙で印刷して処理する自治体が多く、オンライン申請を取りやめる自治体もあった。三輪CIOは、「政府のデジタル化は十分に進んできませんでした。他の先進国と比べても遅れているのは事実です」と話す。
例えば、デジタル社会のインフラとなるマイナンバーカード。その普及率は17%程度にとどまる。「マイナンバーカードおよびマイナンバーの利活用の促進を推進し、遠隔でも対面でもデジタルで完結できるデジタル社会の実現に取り組んでいきたい」と三輪CIOは話す。
日本社会のデジタル化の遅れの要因としては、押印や紙の書類、対面の営業などの日本の経営慣行が挙げられてきた。ただ、そうした慣行も見直しの動きが出ている。内閣府と法務省、経済産業省は6月19日、押印についてのQ&Aを公表。「書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない」との見解を示した。IT総合戦略室としてもこうした動きへの対応を強化していくことになる。
さらに、行政のデジタル化を進めるためには、地方自治体のデジタル化が欠かせない。自治体によってバラバラのシステムを標準化するために、国は基幹的な業務の情報システムの標準仕様書の作成に向けた取り組みを始めている。
「IT総合戦略室では、総務省とともに、すべての自治体の状況を『見える化』する取り組みを進めています。自治体によってデジタル化が進んでいるところとそうでないところの格差があります。地域情報化アドバイザーを派遣したり、ガイドラインを示したりして、サポートに力を入れています」と三輪CIOは説明する。
デジタル化のメリットの説明
三輪CIOは民間企業の出身。大手建設会社の情報システム担当などを務めてきた。その経験から、社会全体のデジタル化を進めるためには、民間企業の取り組みも欠かせないと強調する。「新しいビジネスモデルを生み出すのは民間企業の役割。政府に任せるだけでは、次のビジネスは出てきません」と話す。
さらに「民間企業から政府に来て感じているのは、政府は自分たちの取り組みを国民にもっと知らせないといけないということ。さまざまな取り組みを発信していきたい」と訴える。
また、デジタル化の促進のためには、データの収集に関する国民的な合意が欠かせない。
「個人情報保護は大切です。本人の了承を得ることは大前提です。ただ、その一方でデータ連携を進めて、そのデータを誰がどう使うかをコントロールする議論にシフトした方がデジタル化は進みます。政府もデジタル化のメリットをもっと説明しなければいけませんが、デジタル化のメリットをどう享受するかの議論をしてもいいと思います」(三輪CIO)
シンガポールや韓国などは、日本より多くのデータを国民から収集している。国民がデジタル化のメリットをどのように捉えるのか、政府に対する信頼をどう確保するかなどが問われている。