特集2020.07

新型コロナウイルスとICT地方自治体のICT化を
進めるために何が必要か

2020/07/10
住民に近い位置で公共サービスを提供するのが地方自治体。ICT化を促進するためには何が必要だろうか。NTTデータグループ出身で台東区議会議員の本目さよ議員に寄稿してもらった。
本目 さよ 台東区議会議員

地方自治体の四つの課題

新型コロナウイルスの影響により、地方自治体でもICT技術の重要度が今まで以上に高まってきました。しかしながら自治体によってそのスピードはまったく異なります。どんな課題があるのか現場を見た上でこれからの未来に必要なことを考えてみたいと思います。

地方自治体のICT化には、大きく分けて四つの課題があります。

まず一つ目は、市民サービスのICT化の遅れです。行政手続きでICTを活用する際、使い勝手が非常に悪いということは、「特別定額給付金」のマイナンバーを利用した申請のやりづらさや難しさからも経験的にもご理解いただけると思います。

そこで近年注目されているのが「ガブテック(Govtech)」です。ガブテックとは、Government(行政)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、行政が民間企業のテクノロジーを活用してICT化を進める取り組みを意味します。民間と協働することでより使いやすい行政手続きのICT化を進めていくことが可能になります。

ICTに詳しい議員が必要

二つ目は、役所内部の課題です。役所内部のシステムをインターネットにつなげない自治体はいまだ少なくありません。これがどのような課題を生み出すかというと、対面業務以外の業務であっても個人情報などの関係から役所のシステムに外部からアクセスできず、在宅勤務ができないという課題を生み出します。

行政においても、働き方改革や業務の効率化などは早急に望まれます。そのためにはテレワークの活用や、役所内部での業務の切り分けが必要になりますが、内部のシステム整備が進んでいません。

一方、テレワークを進める上で費用も多くかかるのではないかとの懸念もあります。また、国や都道府県とは異なり最前線にいる基礎自治体、基礎的自治体においては対面業務も非常に多く、在宅勤務が進まない一つの要因ともなっています。

三つ目は議会や議員の対応の遅れです。民間会社に勤めながら議員として活動する人は非常に少ないため、民間のスピードについていけていない可能性があります。ただし、議会は行政よりは柔軟に動ける場合もあるため、議会からICT化を進めていくという動きも起きています。私自身が主催することもありますが、議員向けのオンライン勉強会なども行われています。

しかし、本会議については議場にいることが重要とされ、地方自治法ではオンラインでの議決が想定がされていません。これは出産前後の女性議員の仕事の仕方にも関係します。今後見直していく必要があると考えています。

重要なことは、ICTに対する学習意欲がある人が国会議員や地方議員になることです。情報労連をはじめ情報通信に携わる皆さんには、議員に対して最先端のICT技術などのレクチャーもお願いしたいところです。

遅れたオンライン授業

そして四つ目が教育についてです。3月からの休校によって、子どもたちは授業を受けられず、友達とも会えないという期間が4カ月近く続きました。

にもかかわらず、その中でオンライン授業などに踏み切る自治体は多くありませんでした。私が所属する会派で小中学校のオンライン教育に関するアンケートを保護者向けに実施したところ10日間前後でなんと1400件以上の回答が集まりました。さらに各自治体で保護者が同じようなアンケートを実施し、教育委員会へ届けるという動きも出てきています。そこには「トライアンドエラーでも良いからまずは学びの場を止めないでほしい」という保護者の皆さんの思いがありました。

実はこの2020年の4月から学習指導要領が変更され、英語やプログラミング教育が授業に盛り込まれています。これらは、これからの社会に対応するために必要なカリキュラムですが、今回の新型コロナウイルスの影響による休校により、授業の遅れを取り戻すことが優先され、これらのカリキュラムが後回しになってしまうのではないかと懸念しています。保護者や地域の皆さんからの学校への働き掛けをぜひお願いしたいと思います。

「アジャイル」を地方行政に

そして最後にすべてに通じることですが、「アジャイル」という考え方を地方自治体の中でも導入をしていく必要があると思います。「アジャイル」とは、「俊敏な」「素早い」という意味の英単語で、要求・仕様の変更などに対して、機敏かつ柔軟に対応するためのソフトウエア開発手法のことです。「アジャイル」では、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進めていき、徐々にすり合わせや検証を重ねていくというアプローチを取ります。

失敗すればたたかれてしまうので失敗しないように計画をガチガチに固めて、その通りに実施する──。これまでは、そんな自治体運営がなされてきましたが、これからは違います。現状の課題に素早く、柔軟に対応するための「アジャイル」の考え方を取り込んだ組織づくりが自治体運営においても重要だと考えます。

市民からの評価、良い社会をつくり上げていくという協働の心意気が自治体にも市民にも何よりも必要なのではないでしょうか。

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