特集2020.07

新型コロナウイルスとICT問われる教育のICT化
日本の教育現場の課題とは?

2020/07/10
新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に長期にわたって学校が休校する中で、オンライン授業をはじめ教育のICT化の遅れも指摘された。教育のICT化に詳しい堀田教授に聞いた。
堀田 龍也 東北大学
大学院情報科学研究科教授

ICT化が遅れる背景

日本は社会基盤としての情報化が極めて遅れています。政府の一律10万円給付も、オンライン申請でトラブルが続出しました。個人情報の問題は慎重に進めなければいけませんが、他の先進国では当たり前のように行われている行政のオンライン化ができていません。社会基盤の情報化が遅れていることで、社会コストが必要以上にかかっています。教育現場でもこれと同じことが起きています。

全国の学校がこれほど長期に休校したことはこれまでありません。そこに至って、教育現場にも、行政と同様、その基盤整備となる情報化に予算を割いてこなかったことが露呈しました。

学校を含めた行政のICT化が進まない背景には、「セキュリティーが不安」「これまでの教え方がいい」などの意見が常に上がることもありますが、「できない方に合わせる」という日本社会の慣行もあると思います。例えば、インターネット申請を前提にした仕組みをつくると、「インターネットを使えない人はどうするんだ」という意見が上がります。一見、さまざまな人に配慮した意見のように思えますが、他の国であれば、すべての人がインターネットを使えるような対策を講じるはずです。できない状態をそのままにしていれば、社会コストはいつまでもかかり続けます。

市民の情報リテラシーの向上は、社会コストの低減につながります。諸外国はそうした前提でICT教育を進めています。グローバルスタンダードという観点でも日本は乗り遅れています。

問われた学校側の意欲

教育を受ける権利は、すべての子どもに平等にあります。ただ、ここでいう平等は、教育を受ける機会の平等であり、緊急事態宣言下ですべての子どもがオンライン授業を受けるべきだったという手段の平等の話ではありません。むしろ、「学びを止めない」というスローガンの下で、いかに教育の機会を提供し続けられたかという話です。

こうした前提に立てば、8割の子どもが在宅でオンライン授業を受けることができるのなら、残りの2割の子どもたちがどうにか授業を受けられるようにすれば、学びを止めずに済みます。

問題はICTの環境だけではありません。子どもたちに学びを与え続けようとする意欲が本当にあったのかが問われています。オンライン授業の活用を訴える現場の先生はたくさんいましたが、「自分の学校だけやるわけにはいかない」「一部の学校だけ許可するわけにはいかない」という悪い横並び意識が働いてしまったという事例もありました。

現代は価値観や家庭のあり方が多様化し、一人の教員がたくさんの生徒を見るのが難しくなっています。ICTやときにはAIを活用しなければ、今後立ち行かなくなることは自明です。

子どもたちはいずれ社会を支える側に回ります。今後、情報化社会がますます進む中で、ICTを使って情報を収集し、自分で考えたり、伝えたりする能力はさらに重要になります。学校教育で子どもたちの情報リテラシーを高めておくことは、子どもたちの将来のためにも、社会コストの低減のためにも欠かせません。

ICT格差が学習格差に

学校のICT環境を整備するのは、学校の「設置者」です。義務教育は市区町村、高校は都道府県の場合が多いです。国による一定の基準はあるものの、地方交付税などの予算を使って、具体的な整備などを実施するのは、こうした設置者の役割です。

そのため、自治体によって学校のICT化の進み具合が違います。これまで学校のICT化に力を入れてきた自治体の学校では、オンライン授業を使って授業を続けられました。一方、整備してこなかった自治体は壁に直面しました。その中でも、苦労してオンライン授業に取り組んだ自治体もありますが、多くの自治体は休校が長期にわたったにもかかわらず、オンライン授業に取り組むことができませんでした。今後、新型コロナウイルスの第二波も懸念される中で、授業を止めずにどうやって学びを提供するのでしょうか。

この差は、いずれ子どもたちの学力格差につながります。オンライン授業を受けた子どもたちは、情報リテラシーを高め、困難な時でもICTを使って問題解決に挑む経験をし、それは将来就く仕事にも影響します。一方、プリント学習のノルマだけが課せられた子どもたちは、テレビでオンライン授業のニュースを見て、大人たちが挑戦しない姿勢から先送りすればいいという間違ったメッセージを受け取るでしょう。3〜6月の3カ月の経験は、ICT環境整備と教育に対するパッションの格差として、今後じわじわ表れてくると思います。

地方議員・企業が果たす役割

現状を変えるために地方議会議員の果たす役割は小さくありません。ICTに詳しい議員が地方自治体や教育委員会に強く働き掛けを強めてほしいと思います。

また、民間事業者の皆さんには、行政や教育の現場にICTのトレンドを吹き込み、刺激を与えてほしいと思います。

労働力人口が激減し、高齢化で手続きをする人も増え、公共サービスは今まで以上に負担が増えます。テクノロジーを活用しなければ、人的リソースが不足することは明らかです。その前提に立てば、すべての人の情報リテラシーを高める教育をする必要があります。情報通信分野で働く皆さんは、会社や自治体議員などを通じて、行政や教育のICT化を働き掛けてほしいと思います。

特集 2020.07新型コロナウイルスとICT
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー