特集2020.07

新型コロナウイルスとICT労働運動とITツール
リモートやSNSをどう活用すべきか

2020/07/10
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請によって労働運動の活動の仕方も変化を迫られた。ITツールをどのように活用すべきか。労働組合のSNS活用講座などを実施してきた嶋㟢弁護士に聞いた。
嶋﨑 量 弁護士
日本労働弁護団常任幹事

政策実現ツールとしての活用法

労働組合によるITツールの活用には、いくつかの観点があります。

一つは、政策実現に向けたツールとしての活用法です。

最近では、検察庁法改正案に反対する運動がSNS上で大きな盛り上がりを見せたほか、新型コロナウイルス関連でも、SNS上で雇用調整助成金の拡充や妊婦の保護を求める声が高まり、実際の政策に反映されました。

従来の社会運動は、集会や街頭宣伝、街頭署名などの方法を用いて、政策実現をめざしてきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大という状況下で従来の方法を活用できない中、それに代わる方法としてSNSが活用されたことは注目すべき動きです。

ただ、厳しいことを言えば、こうした運動の中に既存の労働組合の姿があまり見えてこないのが残念です。SNSの活用は労働組合の社会的な認知度を高めることにもつながります。反響はすぐにないかもしれませんが、少しずつでも発信を続けていくことが大切です。

例えば、今回の新型コロナウイルスへの対応では、JAMの安河内会長が、一時帰休が生じた加盟組合のうち、80%以上の組合が8割以上の休業補償を得ていることをツイッターで発信していました。労働組合があるか、ないかによって休業補償など権利保障の度合いは大きく異なります。こうした労働組合の取り組みの発信は重要だと思います。

また、国の政策面でも、連合の組織内議員のがんばりによって、雇用調整助成金が拡充されたり、新たに「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」の制度が導入されたり、妊婦の保護や休業に関する制度が実施されたりすることになりました。労働組合は、その成果をもっとアピールしてもいいと思います。

組合内での交流ツール

ITツールのもう一つの活用法は、組合内での交流ツールとしての活用法です。SNSを使った情報発信は、外向きの情報発信ツールに見えますが、内側にいる組合員への情報発信ツールにもなります。特に組合員数が多い組合ほど、組合員一人ひとりに組合活動を伝えることが難しくなります。SNSを効果的に使えば、普段は組合活動に参加する機会がなかった組合員にも情報を届けられます。

私は、労働組合の活動は、就業時間外の交流がメインにならざるを得ず、夕方以降の懇親会に参加できない層が、組合活動の意思決定に参加しづらいことが課題だと認識しています。ITツールの活用はそうした問題を解消するための一つの選択肢になります。これまで、仕事や家庭責任の都合で組合の集まりに参加しづらかった人たちの声を拾い上げる機会にしてほしいと思います。

オンラインなら時間と場所の制約が少なくなります。ウェブ形式のセミナーなら自宅で家事や育児をしながら参加してもらうことも可能です。カメラをオフにして、音だけで参加してもらってもいい。実際、日本労働弁護団でもゴールデンウイーク中にウェブセミナーを開催したところ、当初の予定を上回り、300人が参加してくれました。その後も、ウェブ形式のセミナーを開催していますが、育児・家事をしながらの視聴も歓迎しますと案内しています。

「飲み会」の交流だけではコミュニケーションに参加できない人が大勢いたのも事実です。これを機会に新しいコミュニケーションのインフラを整備し、今まで拾い切れなかった声を集めることができれば、組合活動の強化にもつながるはずです。特に若い世代、子育て世代に参加してもらう方法を意識的に検討してみる価値があると思います。

場所の制約がなくなるので全国の意欲のあるメンバーの力を活用するチャンスにもなります。

リモート労働相談

今回の緊急事態の中で見えてきた課題もあります。今回は十分な議論をする時間がなく難しかった側面もありますが、労働組合の相談員が在宅で相談できる体制の整備に乗り遅れたのではないかと感じています。緊急事態宣言下で労働相談が十分に機能したか検証する必要があると思います。

リモートだからこそ相談しやすいという人もいます。これまでもLINE相談など新しい取り組みも始めてきましたが、リモートでの相談受付窓口もつくっておくべきでしょう。弁護士としてリモートの法律相談を受けてきましたが、問題なく対応できます。労働相談もできるはずですし、選択肢の一つとしてリモート団交を取り入れるなどの工夫もできると思います。

従来型のコミュニケーションがなくなるわけではありませんし、否定するわけでもありません。それは大事です。ただ、そうした活動と両立する形でITツールやSNSを活用する必要もあるということです。権限を渡さず若手に「丸投げ」するのではなく、新しい方策を組織の中にきちんと位置付けることが大事です。

リーマン・ショックの際は、「年越し派遣村」が問題を可視化しましたが、今回は同じ手法は使えませんでした。一方で、労働弁護団では、ITツールを使った集会を開催したことでマスコミでも取り上げられましたが、まだまだ道半ばとの認識です。今、さまざまな社会運動がSNSなどを活用して実績を積み重ねています。労働運動もその中の一つとして成果を発揮することを期待しています。

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