特集2020.07

新型コロナウイルスとICTコロナ禍のテレワークの今とこれから
不自由で硬直的にならないために何が必要?

2020/07/10
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請で日本社会に一気に広まったテレワーク。日本の働き方にどのような問いを投げ掛けているのか。働き方のこれからをどう変えるのか。
常見 陽平 千葉商科大学准教授

テレワークの功罪

この数カ月間のテレワークの経験は、大変だけれど有益なものでした。私自身、オンライン講義やオンライン教授会を実際に体験し、妻も在宅勤務。テレワークの功罪を感じました。世の中においても、テレワークの功罪が明らかになりました。その一つは、テレワークは労働者を必ずしも助けてくれないということ。それは働き方の問題を解決する「万能のつえ」ではありません。

テレワークを導入するには本来、業務プロセスの見直しが欠かせません。どんな業務がテレワークに向いているか、どんな業務には導入できないか、導入することでどんな業務が減らせるのか──。そうした検討を経た上でルールやツールを決めて導入し、徐々に普及させながら、組織のあり方を変革していきます。

ところが今回、企業によっては検討・導入のプロセスをすっ飛ばしてテレワークを始めました。しかもそれは、本来のテレワークとも違う「強制在宅勤務」と言えるものでした。本来のテレワークには「直行直帰型」「サテライトオフィス型」などの選択肢がありますが、今回はそれすらできませんでした。

しかも今回は、学校や保育園が休校したり、制限されたりしたことで、子どもに勉強を教えながらのテレワークも続出しました。実際、私も育児をしながら大学の授業などをこなしましたが、この数カ月は本当に修羅場でした。

テレワークが導入されれば、満員電車に乗らずに済むし、人にも会わずに済むし、夢のような働き方が待っているかと思いきや、実際は通勤時間を減らすだけで、労働時間は必ずしも減らさないことが明らかになりました。連合の調査では、テレワークをした人のうち51.5%が通常勤務よりも長時間労働になったと答えました。外資系企業で働く私の妻は、外出自粛の期間、入社してから最も忙しくしていました。テレワークが導入されたことで、いつでも、どこでも仕事ができるのでかえって長時間労働になってしまったのです。

自由で柔軟だったか?

テレワークは自由で柔軟な働き方だと思われてきましたが、実際は不自由で硬直的な働き方であることも見えてきました。例えば、テレワークで上司からのチェックが厳しくなり、監視社会化が進んだという職場もありました。

私も数多くのオンライン会議や授業をやってみてわかりましたが、それらは一言でいうと疲れます。学生からも疲れるという声が聞こえてきます。オンラインでは常に全員が最前線。ずっと見張られている状況で気が抜けません。

また、職場からも監視が強まったという声もあります。システムにアクセスしているかどうかログが常にチェックされたり、逐一報告を求められたり。テレワークが、これまで思い描いていたように自由で柔軟な働き方かというとそうではない側面も明らかになりました。

また、労働者の立場として気にしておきたいのは労働時間法制です。自由で柔軟な働き方というスローガンの下、「定額働かせ放題」の働き方が誘発される可能性があります。例えば、午前中に資料を仕上げたら、午後は夕食の買い物に出て、食後にまた仕事をするといえば、聞こえはいいかもしれませんが、労働時間の線引きがあいまいになり、長時間労働や不払い残業を助長する懸念があります。労働時間をどう把握するか、テレワークの労災をどうするか、「つながらない権利」をどう保障するかなど課題は山積しています。

問われるコミュニケーション

コミュニケーションを巡る課題も明らかになりました。リアルな場の時間の共有が競争力の源泉だと考える上司がいる会社では、テレワークをさせてもらえないという問題も起こりました。

家庭の通信環境が不十分で生産性が下がったというアンケート調査結果もあります。快適なオフィス環境が人材の確保や生産性の向上につながるという観点で、オフィスの整備に取り組んできた会社も少なくありません。テレワークが広がれば、自宅の作業環境まで視野に入れる必要があります。オフィスがあればできた雑談もテレワークではしづらくなることから、チャットツールなどを使って雑談を推奨している会社もあります。

新型コロナウイルスの感染拡大は、人と人との距離を変えてしまいました。大学でも学生同士の交流が課題になっています。オンライン上で懇親会を開くなどしていますが、会ったこともない人とオンラインだけで仲良くなるのは難しく、LINEのアカウントを誰も交換しないという懇親会すらありました。人と人との距離が変わる中で、新しい結び付きを模索しないといけません。

労働組合としても職場の声を集めるのが難しくなるはずです。懇親会のようなインフォーマルなコミュニケーションをどう見直して、つながりをつくっていくのかも今後の課題です。

「ジョブ型」への警戒

テレワークの導入拡大に伴って、経団連や日本経済新聞が「ジョブ型」への移行を盛んにアピールしていますが、労働組合としてはその裏の意図にも気付くべきです。そこにあるのは、仕事のモジュール化と解雇自由の世界観です。要するに、働く人を取り替え可能な部品化する懸念があります。

そもそも、経団連や日本経済新聞の言う「ジョブ型」を素直に信用してはいけません。「ジョブ型」には、働く側にジョブを選択する権利があり、今の日本のように会社が強大な人事権を握って、従業員をどこにでも異動させるようなことはできません。会社が強大な人事権を手放さないままの「ジョブ型」は、労働者の立場をますます弱くする可能性があります。

一方で、「無限定正社員」を中心とした「メンバーシップ型」雇用のままテレワークが導入されると、過度な一体感が重視された結果、労働強化になり得ることに注意が必要です。テレワークが広がる中、「仕事がモジュール化するからジョブ型になる」くらいの論理で働き方が語られることに強い違和感を覚えます。労働者の立場が弱いまま導入される「ジョブ型」に労働組合は警戒するべきです。

さらに仕事のモジュール化について言えば、そこには「一億総フリーランス化」という意図も見え隠れします。政府はこの間、「雇用によらない働き方」を促進してきました。そこにも労働組合は注意を向けるべきでしょう。

自由で柔軟な働き方の象徴として語られてきたフリーランスの働き方が、決してそうではないことが明らかになったのも、今回の教訓の一つだと思います。働く人たちの自由に働きたいというニーズと雇用の安定をどうマッチさせるのか。さらには、キャリア権をどう保障するのか。日本社会として世界にどのような働き方を示せるのかが問われています。テレワークそのものより、それを巡る日本社会の労使関係が問われていると言えるでしょう。

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