特集2020.08-09

平和運動の新展開戦場体験談から学ぶこととは
現代社会との共通点も

2020/08/17
日中戦争や太平洋戦争の戦場では何が起きていたのか。戦場の体験談を保存する市民団体に話を聞いた。過去の戦争と現代の日常がつなげることで見えるものとは?
中田 順子 戦場体験放映保存の会
事務局長

戦場体験談の保存

戦場体験放映保存の会」は、日中戦争や太平洋戦争などの戦場にいた元兵士、元軍属、民間人などをインタビューして、その体験談を保存し、インターネット上で公開している団体です。ボランティアで運営しています。

戦場というと弾丸が飛び交う最前線のイメージがありますが、それだけではなく満州からの引き揚げ者や、シベリアで抑留されていた人、軍隊の教育課程にいた人などの体験談も保存しています。これまで2800人の体験インタビュービデオや本人の手による手記を保存しています。

会は2004年に発足しました。元々は2003年に、インターネット放送局の番組の一つとして、戦場体験者にインタビューを行ったのが始まりです。その番組は、市井の声を届けることをコンセプトにしていて、その一環として戦場体験者の声を取り上げようということになったのです。

その番組で若手のメンバーが、サイパンから帰還した元下士官の方にインタビューしたときのことです。インタビュー後にその若手メンバーが、ベテランのメンバーから厳しい指摘を受けました。ベテランのメンバーは、インタビューした若者が戦争のことをあまりにも知らない、というのです。ベテランのメンバーからしても、若者たちに戦争のことを伝えられていないという反省が生まれたようです。そこで元兵士の体験談を継続して聞くことになりました。企画を続けるうちに体験談を後世に残すべきというメンバーの思いが強くなってきました。

体験談を語ってくれた人の思いもあります。当時の戦場を知っているのは自分しかいない。その体験を何かしらの形で後世に伝えたい。そう語ってくれた人とたくさん出会いました。

戦友の供養になったという人もいました。戦友が戦場でどのように死んだのか。そのことを語れるのは自分しかいない。その姿を語れてよかったという人もいました。

こうした話を聞いていると一過性の企画で終わらせるわけにもいかなくなり、2004年に「戦場体験放映保存の会」を設立することになりました。

体験談から学ぶこと

私が印象に残っている体験談は、サイパンから帰還した山内さんのお話です。山内さんは大学を卒業し入隊した後、下士官として同郷の兵士たちとサイパンの戦場に赴きました。

山内さんは反戦思想を持つ、当時としてはかなり珍しいタイプの兵士でした。しかし、そんな山内さんでも白兵戦の際に「突撃!」という号令を出した。部下とともに敵に向かったものの、自分は助かり、部下は死んでしまいました。山内さんは、「自分の無責任な令によって部下が死んでしまった。自分は卑怯者だ」と悔いていました。

私は、兵隊は自分とはかけ離れている人間だと思っていました。でも、体験談を聞くうちに共感することも増えてきました。

特に軍隊の中の「サラリーマン気質」のようなものは、現代にも通じる点があると思います。その一つは、「日本軍兵士の本分は要領である」という言い方です。要領が良ければ上長にかわいがられて、いい任務に就ける。一方、要領が悪いと目を付けられて見せしめのために暴力を振るわれる。要領の良さが軍隊生活を切り抜けるための処世術になっていたのです。

当時の日本軍兵士の大半は徴兵された人たちで、学生や職業人のマインドを持ったままでした。要領の良さが求められる当時の雰囲気と、現在の会社生活との共通点も見いだせると思います。

過去の戦争と日常をつなげる

もう一つ、印象に残っている体験談は、投降に関するものです。日本がポツダム宣言を受け入れた後に投降するのと、それ以前に投降するのではわけが違います。当時の兵士にとって後者の投降はそもそも選択肢として存在しませんでした。弾薬や食料がなくなっても、連隊が数人しか残らなくても自分が生きている限り戦争は続く。そういう思考回路の組織だったのです。今の価値観からすると考えづらいですよね。

でも、当時はそういう考え方が当たり前でした。それができたのも、日本が負けるなんてあり得ないという前提があったからだと思います。当時は、戦争が終わると考えられないくらい長い間戦争をしていました。戦争が日常だったのです。

そういう話を聞いていると、戦争が余計に怖くなりました。戦争が得体のしれないものではなくなり、自分も当たり前のこととして同じ行動をしてしまうかもしれないと思えるようになるからです。自分の日常と過去の戦争が結び付きました。そのことで「戦争はだめ」と素直に思えるようになりました。

今後の活動の進め方

戦後75年が経過して、今後の活動をどう進めるか検討しています。活動を発展させるためには、戦争体験を聞く側が、情報を受け取るだけではなく、一歩踏み込んで理解しようとするプロセスが欠かせません。そのプロセスの中から、当事者意識が生まれます。そこにどうつなげるかが課題です。

戦争体験者との直接の会話は参加者の当事者意識を高めます。そのため私たちは、戦争体験者と数人から最大でも十数人の参加者による「茶話会」を開いてきました。戦争体験者が高齢化する中で、講演会は難しいけれど、少人数の「茶話会」なら可能という人は少なくありません。こうした取り組みで体験者との交流を継続する予定でした。

ところが、そこで「コロナ」問題が起きました。これでは戦争体験者を囲む「茶話会」はできません。でも、それをしなければ、体験者の言葉を伝える機会がついえてしまいます。そこで「ウェブ茶話会」を開くことにしました。地方や海外在住の方も参加してくれたり、参加機会の確保につながりました。

とはいえ、「ウェブ茶話会」も戦争体験者がいるうちにしかできません。その人たちがいなくなった後の活動のあり方も検討しなければいけません。現在、試行的ですが、戦争体験談のビデオを見ながら感想を述べ合うイベントを開催しています。映像を1人で見ることもできますが、見た人同士で意見を述べ合う方が疑問の解消にもつながります。今後、こうした活動も展開していきます。

会社の歴史を知る

戦場に赴いた兵士の中で、会社員だった人は驚くほどたくさんいます。自分の会社のOB・OGにも戦争体験者がいるはずです。その人たちの手記を集めてもいいと思います。同じ会社に勤めていた人という前提で話を聞けば、見方も変わるはずです。同じ会社でも、同じ地域でもいいのですが、そのように聞く側との接点を見つけることが大切だと思います。会社は人生の中で多くの時間を過ごす場所です。その会社がかつてどのようなことをしていたのか、歴史を知ることは大切です。

戦争は決して人ごとではなく、私たち一人ひとりにかかわることです。戦争に行くのも、そのコストを払うのも私たち一人ひとりです。そのことが腹に落ちると平和運動の大切さも理解できると思います。平和運動の大切さを説く側が、自分の言葉でそのことを説得的に語れることが重要だと思います。

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