特集2020.08-09

平和運動の新展開北方領土問題の現状と課題
「取り巻く環境は厳しいが諦めない」

2020/08/17
情報労連は平和四行動の一つとして、「北方領土返還要求平和行動IN根室」を実施している。北方領土問題の現状と課題について、石橋みちひろ参議院議員に聞いた。

7年間で劇的に変化

石橋みちひろ参議院議員は2012年と2019年、北方領土を訪問する「ビザなし交流」に参加。7年間で現地は劇的な変化を遂げていたと振り返る。

「2012年の訪問時には、現地の住民と領土問題について意見を交わすことができました。例えば、北方領土の歴史をどう思うか住民に聞いたり、返還を求める日本の立場を伝えたりすることもできたのです。しかし、2019年の訪問時はそうした住民との意見交換の場がなく、領土問題については話題すら出せませんでした」と石橋議員は振り返る。

背景にあるのはロシア政府の北方領土に対するアプローチの変化だ。かつては「忘れられた島々」とまで言われ、開発が滞ってきた北方領土だが、ロシア政府が方針を転換。空港や学校、病院などのインフラ開発が急速に進んでいる。

石橋議員は「インフラをはじめとしたハード面だけではなく、定住化や人口増加というソフト面での開発も急速に進んでいます。こうした劇的な変化を受けて、ロシア人島民の意識も変化しています。ロシア側の開発計画が進み、暮らしが上向くことで、日本の経済協力に対する島民の関心も下がり、それが『ビザなし交流』や領土問題に対する島民の意識の低下につながっているのではないかと思います」と説明する。

安倍外交の課題

こうした変化に対して石橋議員は、「北方領土問題を取り巻く環境はいっそう厳しくなっていると受け止めざるを得ない」と危機感を隠さない。

安倍政権は、領土問題の解消を優先する従来の政府の方針を転換し、経済協力を領土問題の解決につなげる路線をとってきた。しかし、日ロの共同経済活動そのものも進展していない。

安倍首相はプーチン大統領との首脳会談を繰り返してきたことを自慢げに言い立てているが当のプーチン大統領は昨年6月に北方領土について「日本に引き渡す計画はない」と発言。交渉が進展していないどころか後退していることが露見している。

石橋議員は、交渉が進展しない背景の一つに、日米同盟が関連していると指摘する。「仮に北方領土が返還されたとして、ロシアはそこに米軍が基地を置かないよう日本に確約を要求してきます。しかし日米安保と地位協定があるために日本はそれを確約できないのです。日米同盟が北方領土問題にも影響していることも理解して議論しなければいけません」と話す。

諦めるわけにはいかない

今年7月、追い打ちをかけるようにロシアは憲法を改正し、領土の割譲を禁止する条項を盛り込んだ。石橋議員も「深刻に受け止めるべき事態です。私も日本政府としての受け止めを問いただしていますが、政府は『引き続き粘り強く交渉する』の一点張り。元島民や関係団体も前提条件が大きく変わってしまったのではないかと深く憂慮しています。そうした中で政府が何も発信せず、何も変わっていないかのように装って従来の姿勢をとり続けるのは問題」と指摘する。

このように厳しさが増す北方領土問題だが、「それでも諦めるわけにはいかない」と石橋議員は強調する。

「北方領土は日本固有の領土であり、返還を訴え続けなければいけません。そのために大切なのは国民の強い意志と運動です。戦後75年が経過し、元島民の方たちが高齢化する中で若い世代では北方領土問題を知らないという人も増えてきています。学校教育などでもしっかりと教えて、広げていってほしいです」

「沖縄で辺野古新基地建設に反対する皆さんから教えていただいたのは、『勝つためには諦めないこと』です。労働組合の皆さんが先頭に立って諦めずに運動を続け、広げてくれることを期待しています」

戦後75年。北方領土問題はまだ解決していない。

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