特集2022.10

「推し」の力を組合活動に生かす
組織開発・モチベーションの心理学と労働組合
心理的安全性がチームを強くし
新たな価値を生み出す

2022/10/13
近年、注目を集めているテーマである「心理的安全性」。労働組合の活動にどのように生かせるだろうか。心理的安全性の考え方や実践のポイントなどを識者に聞いた。
青島 未佳 一般社団法人チーム力
開発研究所 理事

心理的安全性とは?

心理的安全性とは、対人リスクのある行動をとっても、組織の中で疎外されず安全であるという信念をチームのメンバーが共有している状態のことを指します。メンバーがそのことを意識せずとも自由に発言できるようなチームが、心理的安全性が高いチームだといわれます。

対人リスクのある行動とは、率直な意見を言うとか、質問するとか、相手の間違いを指摘するとか、そうしたことに加えて、自分のミスやエラーを伝えたり、相手に支援や協力を求めたり、新しいアイデアを提案したり──こうした行動のことを指します。

心理的安全性の高いチームとは、単なる「仲良しチーム」とは違います。心理的安全性には、組織として達成したい目的があり、その達成のために言うべきことは言う、言える環境をつくるという狙いがあります。そのため、相手と異なる意見を言ったり、相手のミスやエラーを指摘したりすることも起こり得ます。そうであっても、対人関係が悪くならなかったり、マイナスの評価をされるリスクがなかったりすることが心理的安全性のポイントです。

安心・安全は大切な要素ですが、それだけでは単なる「ぬるま湯」になってしまいかねません。心理的安全性の観点では、挑戦したり、目標に向かって進んだりという要素が重要になります。

心理的安全性が生み出す効果

心理的安全性という言葉が注目されるようになったきっかけには、グーグルが2016年に「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という研究結果を発表したことがあります。

現代は、環境がハイスピードで変化し、不確実性が高い「VUCA」(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代だといわれています。企業がそうした環境を生き抜くためには、時代の変化に合わせた新しいアイデアや創造性の高いチームづくりが求められます。現代は「文化」の時代、「共創」の時代ともいわれますが、そうした中にあってチーム学習を促進するために心理的安全性への注目が集まっています。

「VUCA」の時代において、価値を生み出すのは、チームワークやネットワークをはじめとした人的資本です。心理的安全性は、人材や働き方が多様化する中で、さまざまな人材が集まって、新しい付加価値を生み出すために重要な考え方になっています。

また、心理的安全性は、現場から質の高い情報が経営層に伝わることで、意思決定の質を上げることにもつながります。加えて、仕事のミスやエラーがきちんと報告されることで、労働安全にもつながります。このように心理的安全性には、さまざまな場面での効果が期待されています。

アイデアはどこにあるか?

心理的安全性を高めるためのポイントとは何でしょうか。例えばこれまで上意下達だった上司が、突然「部下の話を聞く」と言い始めてもすんなり受け入れられないでしょう。

まずは、心理的安全性という言葉の意味や重要性について、組織のメンバーと共通認識を持つことが大切です。心理的安全性とはどういう概念なのか、なぜそれが大切だと思ったのか、そういうメッセージを繰り返し発信しながら、共通認識を醸成する必要があります。

心理的安全性を高めるためのポイントの一つは、相手の話を途中でさえぎらないこと。上司は、部下の話を聞くときに自分の持つ答えに合っているかどうかを考えながら話を聞きがちです。そうではなく、自分の持つ答えが間違っているかもしれない、部下の話の中に何かヒントがあるかもしれないという姿勢で話を聞くことが大切です。上司が常に正しい選択をすることが難しいからこそ、メンバーの意見やアイデアが大切になっているのです。

一方、部下の側も、上司が答えを持っていると思いがちです。しかし、上司の知識にも限界はあるし、意見が間違っているかもしれません。だからこそ、部下の発言やアイデアが大切です。

お互いを認め合う

心理的安全性を高めるためには、発言してもらったことに対して、それがどのような内容であれ、まずは発言という行為に対して感謝を示すことが重要です。アメリカでは、どのような発言や質問でもまずは「グッドアイデア」とほめてくれます。そういうコミュニケーションを増やすと良いでしょう。

このようなことを言うと、上司が部下に遠慮して意見を言えなくなると思われがちですが、それも違います。上司も自分の意見があれば部下にそれを伝えるべきですし、意見が違うのであればそれも伝えるべきです。

その際に大切なのは、自分の考えをきちんと説明するのと同時に、相手がなぜそう思っているのかを聞くこと。相手の言葉の裏にある理由を深掘りしながら対話を進めることで、チームにとって何が最善なのかを検討していきます。その場合も、誰の発言なのかをあまり気にせずに、発言の内容がチームにとって合理的なのかという思考で意思決定ができるといいでしょう。

心理的安全性を高めるためには、上司と部下の関係だけではなく、メンバー相互の信頼関係も大切です。そのためには、まず相手を知ることです。最近はリモートワークが増え、メンバー間の交流の機会が減っている職場もあります。会議の前に雑談の機会を意識的に設けるなど、互いのことを知る時間をつくることが重要です。それが共感性を高めることにつながります。

とはいえ、チームのメンバーと意見がいつも同じであるとは限りません。多くの場合、意見が違うことの方が多いでしょう。大切なのは、価値観や考え方が異なっていても、互いを認め合い、相手を人間として尊重すること。意見は違っていても人間性は否定せず、意見と人格を切り分けてコミュニケーションするよう心掛けてください。

労働組合活動にどう生かす?

労働組合の活動に心理的安全性をどう生かせるでしょうか。まずは、労働組合という組織の中に心理的安全性があることが大切です。ただし、労働組合の中には、専従の組合役員もいれば、会社業務と兼務の役員がいたり、一般の組合員もいたりします。働き方が多様化する中で一体的なチームをつくる難しさはあるかもしれません。身近なチームの心理的安全性を高めることから始めると良いのではないでしょうか。

労働組合の行う対話会は、職場よりも意見が比較的出やすい環境にあるといえるかもしれません。対話会の心理的安全性を高めれば、それが企業全体の心理的安全性を高めることにもつながるはずです。

人的資本経営が求められる中、心理的安全性という考え方は、今後も注目されていくと思います。労働組合でも積極的に取り入れてください。

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