特集2022.10

「推し」の力を組合活動に生かす
組織開発・モチベーションの心理学と労働組合
労働組合活動のやりがいって何ですか?
組合役員のモチベーションを語り合う

2022/10/13
労働組合役員は、組合活動にどのようなやりがいを感じているのだろうか。組合活動にもっと貢献したいと思えるのはどのような時だろうか。現役組合役員の皆さんに集まってもらった。
長谷川 裕さん (通建連合日本コムシス労働組合) 岩本 寛香さん (NTT労働組合コミュニケーションズ本部) 萩原 啓介さん (小倉クラッチ労働組合) 村田 唯さん (KDDI労働組合)

組合活動のやりがい

長谷川日本コムシス労組の長谷川です。組合役員になって3年目です。仕事と組合役員を兼務しながら労働組合活動をしています。

岩本NTT労組コミュニケーションズ本部の岩本です。7年前、今の会社に中途入社しました。その後、職場委員や分会の事務局長などを経て、現在はコミュニケーションズ本部の執行委員を務めています。

萩原関東信越ブロック支部小倉クラッチ労組の萩原です。4年前から組合の執行委員になり昨年10月、委員長に選出されました。組合員数は約560人です。

村田KDDI労組の村田です。会社の総務部門で労使共催のイベントを担当したことがきっかけで労働組合の活動に参加することになりました。現在は、労組専従で職場会や研修、レクリエーションなどを担当しています。

──早速ですが、組合活動でやりがいを感じる場面はありますか?

長谷川私の職場は出張が多く、組合役員になる前から出張の条件や環境を良くしていきたいと思っていました。組合役員になってもそのことを第一に取り組んでいます。組合員から出張に関して困ったことや改善してほしいことを聞いて、その声を執行部で共有したり、会社に伝えたりしています。すべての課題を解決できるわけではありませんが、目標に向かって活動できることがやりがいになっています。

岩本コロナの流行から会社がリモートワーク中心になったので、組合員の皆さんと接する機会が減りました。そんな中でも、顔を合わせた組合員から「組合の研修がとても役に立った」と声を掛けられると、やりがいを感じます。組合は縁の下の力持ちで、やって当たり前、失敗したら怒られるようなところもありますが、それでも一般の組合員の方からそういう声を掛けてもらうと、「やっててよかったな」と感じます。研修では、仕事にも役に立ちそうだけど、会社は取り上げないようなテーマを意識して取り上げています。

萩原レクリエーションや研修会などを開いて組合員から楽しかったとか、ためになったと言われるとやりがいを感じます。ただ、コロナ禍になって地域のイベントや研修会ができなくなってしまい課題を感じています。

会社と交渉して労働条件や労働環境を改善できた時は、達成感が生まれます。ただ、そこは交渉ごとで、やり残す部分は必ずあるので100%の達成感というわけにもいきません。

委員長としてのやりがいは、幅広い組合員からの意見を聞けることです。会社には四つの工場がありますが、委員長の立場になると職場にいたときよりも、それぞれの工場の組合員からの意見が入ってきます。それを聞いて会社との交渉で伝えることもやりがいの一つになっています。

村田会社では、他部署との交流があまりありませんでしたが、労働組合の役員になって他部署との交流が生まれて、会社に行く楽しみが増えました。

イベントなどを主催して、組合員が楽しそうに参加してくれている様子を見るとやりがいを感じます。最近はオンラインイベントを増やしていますが、参加者が増えるようになってきました。組合員の家族やこれまで組合のイベントに参加したことのなかった人も参加してくれるようになりました。

貢献したい組織とは?

──自分の組合に所属していてよかった、自分の組合にもっと貢献したいと思えるのはどのようなときでしょうか。

長谷川私の組合の執行部はとてもフレンドリーで、ざっくばらんに意見を言い合えます。職場の人間関係とは違って、「友達感覚」みたいなところもあります。「友達感覚」といっても、もちろん立場をわきまえながらですが、会社では言いづらいことでも組合なら言えます。そういう関係があるのはとてもいいことだと思いますし、愛着も感じます。

岩本職場は互いに競争し合うようなところもありますが、組合活動にはそれがなく、お互いに助け合ったり高め合ったりする場所だと思っています。困っていれば誰かが声を掛けてくれるし、一緒に作業してくれる。そういうことは意外とできないし、できる組織は多くないと思います。そういう組織だからこそ愛着も湧きますし、自分も貢献したいと思います。

萩原組合員の視点からすれば、組合が自分たちの労働条件や労働環境を改善してくれたり、楽しめるイベントなどを開いてくれたりすると、愛着が湧くのだと思います。ただ、コロナ禍になって、組合員とのつながりが弱くなったと肌身で感じています。今年になってようやく地域のイベントが少しずつ再開されるようになりました。小倉クラッチ労組としてオンラインを活用した活動ができていないので検討していきたいと考えています。

村田労働組合には固いイメージがあるかもしれませんが、それを少しでも楽しいものにしていきたいです。働く上で悩みを抱えたときに頼りにされる組織にしたいですね。

労働組合の専従になってから、組合の機関紙をウェブ化したり、LINEのアカウントをつくって情報発信をしたり、新しい取り組みを始めました。組織の中で合意形成をしながら、自分のやりたいことができたのは、いい経験になりました。主体的に取り組めるのが組合活動の良いところだと思います。

発言しやすい環境づくり

──コロナ禍になって組合員とのつながりが希薄化しているようです。どのような工夫が必要になるでしょうか。

長谷川組合役員になってから、組合員との交流を積極的に増やしています。特に1対1で話をする機会を意識的に設けるようにしています。電話やZoomも活用して組合員と対話しています。そういう機会を設けると、「この人になら何でも話してもいいな」という意識付けができて、結果的に組合と組合員のつながりを強くするのではないかと思います。実際、声を掛けられることも増えてきました。

岩本コロナ禍になってイベントを開催しづらくなり、組合員に「お願い」することが多くなったと感じています。組合側からの一方的な発信ではなく、双方向のやりとりが大切だと思います。

とはいえ、職場の環境はリモート中心に変化しているので従来と同じというわけにはいきません。オンラインの良さを生かして対話を増やす必要があります。

実際、オンラインで対話会を始めたところ、都市部の参加率はかなり上がりました。今まで対話会に一度も出たことのない人が出てくれるようになっただけでも一歩前進だと思っています。

萩原まずは執行委員会で組合役員が発言しやすいように心がけています。執行委員会ではみんなが意見を言えるようにブレーンストーミングをしています。そうした関係を一般の組合員にも広げていきたいと考えています。

──発言しやすい環境をどのようにつくっていますか?

岩本オンラインの対話会では、組合役員がカメラを必ずオンにしています。どんな人が話しているかわからないと組合員も不安になるので。顔を覚えてもらうことも必要だと思っています。また、対話会の案内は、組合員の身近にいる職場委員などからしてもらうようにしています。トップダウンで情報を流すより、身近な人から声を掛けてもらった方が参加しやすくなるためです。

村田執行部内でファシリテーションの研修を受けて、対話のスキルを上げる取り組みをしています。オンラインの対話会でも、参加者にはなるべく発言してもらえるようにしたり、チャットを活用して質問を受けたりしています。

仕事と組合活動のバランス

──組合役員がやりがいを感じながら活動を続けるためには、組合活動と仕事のバランスなども考慮する必要があると思います。

長谷川重要な課題だと思います。私は今のところバランスは何とか取れていますが、仕事が忙しすぎて組合活動が難しい人もいます。結果的には、組合活動ができる人が組合役員になっている感じです。

岩本仕事との兼務だと組合活動はどうしても就業時間後になるので夜にやらざるを得ない人もいます。「そんなに大変ならやりたくない」となってしまえば、次のなり手がいなくなってしまうので、対策が必要です。活動を続けるには会社の理解も求められると思います。

萩原委員長になってから、自分の業務とバランスを取るのが難しくなりました。組合活動は会社にとっても有益なので、会社と一緒に考えていけたらと思っています。

村田専従でも女性が組合役員を続ける難しさがあります。労働組合でも役員のライフイベントに対するフォローアップ体制を整える必要があると思います。

──今後に向けて最後に一言ずつお願いします。

長谷川組合活動の悩みは共通していると思いました。皆さんの活動を参考にして、自分の組織にも取り入れていきたいです。

岩本組合役員の仕事は大変という印象が強くなってしまうと次のなり手がいなくなってしまうので、自分の仕事の仕方も見直しています。他方、組合役員だからこそできる経験とか、出会える人がいます。組合員の皆さんは、組合活動のそういうメリットを意外と知りません。組合活動の良さを知ってもらって次代を担うリーダーにつないでいきたいです。

萩原組合員のために何ができるのかを主軸においてこれからも活動を続けたいと思っています。それができれば組合の一体感も自然と高まると思います。頑張ります。

村田皆さんのお話を聞いて、自分のやりがいを振り返るきっかけになりました。自分のやりたいことを組合活動の中で実現できるようにこれからも取り組んでいきたいです。

──ありがとうございました。

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