特集2022.12

物価上昇に向き合う
賃上げから日本経済を回す
2023春闘へ連合はどう臨むか
将来へ向けた「人への投資」強調を

2022/12/14
円安・物価上昇に直面する中、連合は2023春季生活闘争にどのように臨むのか。 賃上げ方針や、価格転嫁に向けた方策などについて、連合の仁平総合政策推進局長に聞いた。
仁平 章 連合総合政策推進局長

23春闘の特徴点

2023春季生活闘争の特徴的な情勢は、円安と物価上昇です。日本は、円安・物価上昇に伴う急性インフレと、20年以上にわたり賃金が停滞するという慢性デフレという二つの課題を抱えています。賃金を上げなければ、スタグフレーションに陥りかねません。

連合は、賃上げ分を3%程度、定昇相当分を含む賃上げを5%程度にするという方針案を掲げました。1995年以来、28年ぶりの水準です。この目標をみんなで決めたことが重要です。

目標の引き上げについては、三つの視点から説明しています。

短期的には物価上昇への対応です。連合は、来年3月までの2022年度の物価上昇率は、2%台半ばになると見込んでいます。政府は、電気・ガス料金の抑制策でインフレ率を1.2ポイント程度押し下げるという試算を出しています。直近の消費者物価指数は3%を超えていますが、政府の対策を踏まえた結果、2%台半ばになるという見通しです。3%程度の賃上げはこれを超える水準です。

中期的には、「人への投資」をこれまで以上に推し進める必要があります。1990年代後半以降、日本の賃金水準は国際的にみて相対的に低下してきました。こうした状況を踏まえ、「人への投資」を強化する必要があります。

マクロ的には、20年来のデフレマインドを払拭して実質賃金が持続的に上がるステージに経済を変えていくことです。単年度だけではなく、賃金が持続的に上がり続けるステージへ変えていかなければいけません。

中小への波及効果

大企業だけが賃上げをすればこの局面を打開できるとは思っていません。働く人の7割を占める中小企業労働者の賃上げが進まなければ、これまでの流れは変わりません。適切な価格転嫁によるサプライチェーン全体でのコスト負担が必須です。働き方も含めた「取引の適正化」を確実に進める必要があります。

適正な価格転嫁のためには、(1)世論の醸成、(2)埼玉県が先行して実施している価格転嫁に向けた産官労金の連携協定の他の地域への横展開、(3)公正取引委員会が取り組む各種施策の周知、(4)「パートナーシップ構築宣言」の拡大と活用──などが重要です。労働組合としては、グループや産業レベル・業界レベルでの労使の意見交換を推進してほしいと思います。

個別労使の交渉では、将来へ向けた「人への投資」を強調してほしいと思います。「人への投資」をしなくなった結果、日本経済は活力を失っています。中長期的に生産性を高め、持続的に実質賃金が上がるステージへ変えていかなければいけません。

また、目先の帳尻合わせではなく、社会全体、将来を見て、会社に決断を促してほしいと思います。それぞれの企業・個人が短期的な自己利益を追求する「合成の誤謬」に陥れば、事態は打開できません。

政府の「構造的賃上げ」への対応

政府は「構造的な賃上げ」を実現するために、成長分野への労働移動や「ジョブ型」雇用への移行などを打ち出しています。

「構造的」という言葉の意味が、単年度の賃上げだけに済まされないということでは、連合と政府の見解は同じです。しかし、労働移動ができないから、年功序列型賃金だから賃上げができないということであるなら、政府は「構造的」の中身を取り違えています。中小企業が賃上げをできないのは、価格転嫁ができないからです。「構造的」というのならば、政府は価格転嫁ができる環境こそ整えるべきです。

労働組合が要求・交渉するから、労働組合のない職場にも、法定最低賃金などを通じて、賃上げ効果が波及していきます。2023春季生活闘争は、労働組合の存在価値を目に見える形で示す好機です。結果を出し、集団的労使関係を広げていくきっかけにしていきましょう。

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