特集2022.12

物価上昇に向き合う
賃上げから日本経済を回す
団体行動やストライキを展開
賃上げや緊急支援を要求する欧州労組

2022/12/14
物価上昇に対して欧州の労働組合はどのように対応しているのだろうか。団体交渉やストライキをはじめとした労働組合運動の現状をリポートしてもらった。
上田 智亮 UNI日本加盟組織連絡協議会
事務局長

ベルギーではゼネスト

「もはや生活費を捻出することができない」

2022年11月9日、ベルギーの労働者と労働組合は、ゼネラル・ストライキを実施した。ベルギーでは特にエネルギー価格が高騰し、たった1年でガス130%、電気85%、燃料は57%も上昇している。政府は組合からの圧力で部分的な緩和策を講じたが、十分な支援とはなっていない。

ベルギーの賃上げは「競争力法」によって物価スライド方式を採用しており、物価上昇分を超える賃上げに上限が設けられている。さらに石油燃料等を除外した特殊な物価指数を採用しているため、状況の悪化に拍車をかけている。

労働組合は「このまま何も対策を講じなければ、約85万人の労働者はただ待つしかなくなる。2022年第2四半期のベルギー企業の利益率は過去最高の46%を記録した。2009年以降、ベルギーでは物価スライドを上回る賃上げが行われておらず、企業は利益を労働者に正当に分配するべきだ」と訴えている。(写真1)

欧州全土での取り組み

欧州労働組合連合(ETUC)は、世界中を席巻する物価上昇に対応するため、欧州各国の労働組合に団結して立ち上がるよう呼び掛けている。「この危機は、われわれの賃金によって引き起こされたものではなく、過剰な利益の追求によってもたらされたものだ。食料をはじめとした生活必需品の価格が高騰したことで、実質的に賃金の価値が下がっている。この危機はこれまでの格差や不平等を拡大し、低賃金労働者や弱い立場の人々が最も打撃を受けている。使用者、各国政府、欧州連合(EU)には、賃上げの確保、困窮家庭への緊急支援、物価の上限設定、過剰な利益への課税と富の再分配によって、生活費の危機を乗り越えるための緊急措置をとる責任がある。だからこそ、全欧州の労働者と労働組合は、この危機に対処し、労働者に恩恵をもたらす経済を構築するための6項目を要求する」と訴えている(参照1)。

ETUCは「賃金を上げ、利益には課税せよ」をスローガンに、9月5日から11月26日まで欧州全土で延べ120回以上の団体行動を実施した。

参照1 ETUC 6項目の要求

1. 生活費の増加に見合った賃上げと、生産性上昇分の公正な配分を労働者が享受できるようにすること。公正な賃金と持続可能な経済を実現する最善の方法としての団体交渉を促進する措置が必要である。

2. エネルギー料金の支払い、食事の確保、家賃の支払いに苦労している人々を対象とした経済的支援を行うこと。

3. 特にエネルギー価格に上限を設け、エネルギー企業等の過剰利益には水際で課税し、この危機に乗じての投機を許さないこと、配当抑制など利益供与を阻止し、食料価格への投機を阻止すること。

4. 製造業、サービス業、公共部門の所得と雇用を守るための欧州および各国の危機管理支援策を実施すること。

5. EUのエネルギー市場の機能を改革すること。エネルギーは公共財であることを認識し、グリーンエネルギーへの過少投資や民営化の結果など危機の根本原因に取り組むための投資を行うこと。

6. 労働組合が社会対話を通じて危機対策を立案し、実施するための席を設けること。

欧州各地で賃上げの動き

7月6日、スペインの大手小売業者リドルは、2025年までの最大4年間有効な労働協約を更新した。今回の労働協約には、スペインの1万5500人以上の従業員に対して4年間で少なくとも16.5%の賃上げが予定されており、さらに同社は消費者物価指数に基づく給与改定条項を初めて導入し、4年間で最大19%の昇給が可能となった。

2022年8月末、英国のUNI加盟組織である通信労働者組合(CWU)は、英国全土で17万人以上の労働者によるストライキを実施した。大手通信会社BT、オープンリーチ、郵便局およびロイヤルメール・グループの労働者は、団体行動への圧倒的支持を示し、生活必需品の価格高騰の中、まともな生活を維持できる賃金を求めた(写真2)。その結果、例えば郵便局は賃上げ率を当初の3%から5%に引き上げたが、組合はさらなる引き上げが必要であるとして交渉を続けている。

9月24日、フランスの大手小売業者カルフールは、労働組合との第3回賃金交渉において、今年11月から2.5%の賃上げを提示した。これは2021年8月比で8.3%の賃上げとなるが、労働組合は、この提案には、10月の100ユーロの追加支給と従業員が店内で購入する際の12%優待が含まれており、これから組合員と話し合うと述べた。フランス企業は、従業員の購買力を維持するための支援を行うよう圧力を受けており、エールフランスやルノーなどの大企業は、今年中に賃上げや賞与の追加支給を行うと発表している。

(写真2) ピケットラインのCWU組合員(出所:CWU HP)

EU理事会が新しい指令を承認

10月4日、EUは欧州における適切な法定最低賃金を促進し、欧州の従業員の労働・生活条件の改善に寄与する新たなEU規則を採択した(参照2)。マリアン・ユレチュカ・チェコ共和国副首相兼労働社会問題大臣は「エネルギー危機によって人々が苦しんでいる中、この法律は希望のメッセージとなる。最低賃金と団体交渉による賃金は、すべての労働者がまともな生活水準を確保するための強力な手段である」と述べた。

参照2 適正な最低賃金に関するEU指令の概要

1. 加盟国は、団体交渉を通じた賃金決定を重視すること。各国は業種別または業種横断的労使交渉による賃金決定に関する団体交渉を促進することが求められる。団体協約の適用率が労働者の80%を下回る加盟国は、労使協議の上、行動計画等を策定すること。

2. 法定最低賃金を定めている加盟国は、各国の慣行を尊重しつつ、基準(税引前賃金の中央値60%、平均値50%等)に従って最低賃金を設定し、少なくとも2年ごとの更新手続きを行うこと。

3. 加盟国は、労働者が法定最低賃金の保護を受けやすくするため、労使協力し、労働基準監督官等による管理、違反事業者の捕捉等に取り組むこと。

日本でも労使で取り組みを

コロナ禍、ウクライナ問題、急激な為替の変動等によって格差が拡大し、社会が不安定になりかねないとの懸念がある中、格差の是正や低所得者層の生活水準の向上に取り組むのは、世界的な潮流となっている。日本もこの潮流に取り残されることなく労使で協力して取り組む必要がある。

column 情報労連加盟組合の現場から

材料費は毎月の値上げ要請
価格転嫁の実態は?

円安・物価上昇は製造現場にどのような影響を及ぼしているのだろうか。情報労連に加盟する製造業の組合役員に話を聞いた。

値上げの相談が材料メーカーから毎月のように舞い込んできます。値上げに応えなければ材料を調達できないので、材料分の値上げには応じています。

私たち部品メーカーは納品先のメーカーからコスト削減を要請されます。ただ、このままではあまりに不採算が広がるので、会社としてもプロジェクトを組んで、納品先のメーカーと値上げ交渉をするようになりました。その結果、価格転嫁は少しずつできるようになってきています。

とはいえ、材料メーカーからは月を追うごとに値上げの要請がきます。一方、私たちは納品先のメーカーと毎月交渉できるわけではありません。当初の想定より値上げが進めば価格転嫁の効果もなくなってしまいます。

現場は、材料費の値上げをカバーするため、生産工程を一つ減らすのに血のにじむような努力をしています。とはいえ、現場での工夫にも限界があります。個別企業の対応にも限界があるので、国レベルの対応が必要だと思います。「高い材料を買って、安く売らないといけない」という状態が一番つらいですよね。

物価上昇という要因は、賃上げ交渉につなげやすいと捉えています。従業員のモチベーションが製品の品質にもかかわってきます。従業員が安心して働く環境を確保するために、物価上昇を踏まえた賃上げが必要です。

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