特集2022.12

物価上昇に向き合う
賃上げから日本経済を回す
価格転嫁をどう実現する?
労働組合がすべき取り組みのポイントを解説

2022/12/14
賃上げのためには、人件費・原材料費等の上昇を適切に価格転嫁することが重要だ。
労働組合にできることは何か。ポイントを解説する。
浦 早苗 情報労連政策局長

親事業者の労使のかかわりが重要

中小企業を中心に原材料価格等の高騰分を取引価格に転嫁できないことが大きな課題となっています。価格転嫁は、賃上げにもかかわる課題であり、労働組合としても会社任せにはできません。

価格転嫁には、自社の製品・サービスについて価格転嫁を実現する「受注側(下請け側)」の視点と、相手の製品・サービスについて価格転嫁を実現する「発注側(親事業者側)」の2つの視点があります。独占禁止法や下請法、下請中小企業振興法「振興基準」(以下「振興基準」)の記載は、いずれも親事業者を規制する、もしくは親事業者が行うべき(または行うことが望ましい)取り組みについてのものが大半です。一つの企業が発注側にも受注側になり得るので、双方の視点での取り組みが必要ですが、下請け側の価格転嫁を実現するには、親事業者側となる企業の労使が主導し、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配を意識した取引の適正化を推進することがとても重要です。

法令などの周知浸透を

発注側も受注側も、価格交渉の担当や価格決定者が必ずしも独占禁止法や下請法などのルールを理解しているとは限りません。実際の買いたたきや不当な費用負担の事例をみると、担当者が違法行為を認識していなかったケースが多数あります。受注側も長年の取引関係の中で「相手のために」と受け入れてしまっていたケースもあります。まずは、労働組合から法令の周知・理解の浸透に向けた取り組みを会社に求める、あるいは自社の営業や取引にかかわる組合員に向けて情報を発信することも重要です。

とりわけ、2022年7月に改定された「振興基準」では、親事業者に対し求められる取り組みとして、(1)毎年9月および3月の「価格交渉促進月間」の機会を捉え、少なくとも年に1回以上の価格協議を行うこと、(2)労務費、原材料費、エネルギー価格等が上昇した下請事業者からの申し出があった場合、遅滞なく協議を行うこと、(3)下請事業者における賃金の引き上げが可能となるよう、十分に協議して取引対価を決定すること──が追加されました。価格転嫁ができないことが賃金引き上げ困難の一因となっている労働組合は、この改正内容を会社と共有し、価格協議を発注側に申し込むよう、会社に働き掛けを行いましょう。

製品・サービスの価値を伝える

価格交渉に当たっては、原材料や部品の市場価格動向などを把握し、自分たちの製品・サービスの理想的な価格を決めることも重要です。コスト上昇分だけを要請するのではなく、工程の見直しや材料変更等の提案などと合わせた価格見直し交渉など、現場からの情報や提案を交渉する立場の人に届けることも労働組合ができることの一つです。経営者をはじめ営業や価格交渉担当者が、自分たちで生み出した製品・サービスの価値をしっかり発注側に伝えられるよう、労使で連携した取り組みが必要です。

また、前述の「振興基準」改正におけるその他の追加事項の一つに「パートナーシップ構築宣言」の実施と、社内担当者・取引先への浸透という項目があります。「パートナーシップ構築宣言」は、企業がサプライチェーンの取引先などと共存共栄する関係を築くこと、取引先とのパートナーシップ構築の妨げとなる取引慣行や商慣行の是正に積極的に取り組むことを宣言・公表する取り組みです。

発注側に立つ労働組合も、「パートナーシップ構築宣言」の実施や、年1回以上・もしくは取引先から申し出があった場合の協議実施等について会社に適切な対応を求めていくことが、社会全体での適正取引の推進の観点からとても重要です。宣言済みの企業では、宣言の具体的な実行状況や「振興基準」の遵守状況などを継続的に労使で点検していきましょう。

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