特集2023.06

SOGIにかかわらず
働きやすい職場へ
ダイバーシティーを進めよう
職場のLGBT施策をどう展開する?
働く仲間としての視点が大切

2023/06/12
LGBT施策に取り組む企業が増えている。取り組みに当たって必要なポイントや、残された課題は何か。企業と連携しながら当事者支援の活動を展開するNPO法人虹色ダイバーシティの村木真紀さんに聞いた。
村木 真紀 認定NPO法人
虹色ダイバーシティ代表

LGBT施策の現状

虹色ダイバーシティは2013年から学術研究者と共同してLGBTに関するアンケート調査「niji VOICE」を実施しています。

結果を見ると、性的マイノリティーに対する研修や、差別禁止規定の整備、相談窓口の設置などのLGBT施策に取り組む企業の割合は徐々に増えています。

一方、同性パートナーを配偶者として扱うといった福利厚生制度や、トランスジェンダーの従業員への個別サポートといった施策に取り組んでいる企業は、大企業でもまだ少ないのが実態です。

中小企業は、大企業に比べて対策が遅れています。中小企業や取引先まで施策を広げていかないと、性的マイノリティーであることを理由に嫌な思いをせずに働ける環境は実現しません。

人権DDとしてのLGBT施策

中小企業では性的マイノリティーに関する予算は少なくなりがちです。そのため、先進的に取り組んでいる大企業には、グループ会社や取引先のサプライチェーンも含めた対応をお願いしたいと思います。具体的には、自社で製作した研修資材をグループ会社や取引先などにも広めていくことなどが挙げられます。

例えば、私たちのホームページでは、職場向けの啓発ポスターを公開していますが(https://nijiirodiversity.jp/5737/)、このポスターはもともと江崎グリコ社向けに制作したものです。それを同社の許可を得て一般に公開しています。

また、私たちは製薬会社のバイエルと協働して、医療とLGBTに関する動画をつくって公開しました。背景には、性的マイノリティーが医療に困難を抱えている現状があります。性的マイノリティーは、病院に行くと嫌な思いをすることが多いからです。動画と一緒にファシリテーター用の研修資料も作成しました。こうした資料を使ってランチタイムミーティングを行うこともできます。

こうした取り組みは、「ビジネスと人権」における人権デューディリジェンスに関連する取り組みでもあります。自社だけではなく、サプライチェーン全体で性的マイノリティーへの人権侵害が起きないよう活動を広げてほしいと思います。

企業が積極的に発信

LGBT施策に取り組んでいる企業であっても、「プライド月間」にサポートを表明して終わりではなく、通年で取り組んでほしいと思います。例えば、ディズニー社は、「プライド365」という運動を展開しています。

研修も一度やったら終わりではなく、さまざまな機会を捉えて繰り返し実施してほしいと思います。研修後、一定期間が経過した後に理解度テストを行ったり、中途採用者向けに学習会を行ったり、育児中の従業員向けのハンドブックに

LGBTに関する絵本を紹介するのもいいと思います。

研修の仕方にも工夫が必要です。ディスカッションの時間をつくるなど、アウトプットの機会を設けたり、当事者に登壇してもらったり、自分ごととして考えてもらえるような方法が有効です。

企業の最近の傾向として、経営者が同性婚の実現など、ダイバーシティー実現に向けて強いメッセージを発信するようになっています。企業活動をグローバルに展開する上で、日本の法整備の遅れが障害になっているからです。それに対して、労働組合のメッセージの打ち出し方は弱いように思います。働く者の代表としてもっと強いメッセージを出してほしいと思います。

私たちは、他の非営利団体と連携して、「Business for Marriage Equality」というキャンペーンを展開しています(https://bformarriageequality.net/)。KDDI社にも参加してもらっています。皆さんの企業も賛同してくれるよう、会社にぜひ働き掛けてほしいと思います。

また、経営層の多様性や意思決定におけるジェンダーバランスのチェックも進めてほしいと思います。

大阪初の常設LGBTQセンター「プライドセンター大阪」

残るハラスメントなどの課題

LGBT施策を実施する企業は増えつつありますが、アンケート結果では、当事者がハラスメントを受けた経験はそれほど減っていません。

ハラスメントがなくならないのは、「男らしさ」「女らしさ」に対する決め付けが残っているからだと思います。例えば、「ゲイだからセンスがいい」といった言葉は、言う側が褒め言葉だと思っても、相手が嫌な思いをすることがあります。これも性のあり方に対する決め付けだからです。また、アウティングの問題も依然残っています。

相談は受け付けているものの、相談があまり来ないという話を労働組合の担当者からよく聞きます。その理由の一つとして、当事者が労働組合に相談する際、自身の事情を詳しく説明しないといけないという負担があることが挙げられます。そのため、当事者は支援団体など、事情を理解してくれると思う団体に相談する傾向にあります。

労働組合が相談先として選ばれるためには、支援団体との連携が重要です。例えば、相談キャンペーンを支援団体と協力して実施すれば、当事者に安心感を与えることができます。また、具体的な相談事例を紹介することも有効だと思います。例えば、「髪型が男らしくないと言われた」といった事例を挙げることで、当事者がこのような問題でも相談できるというイメージを持てるようにすると、相談のハードルが下がると思います。

アライと当事者は対等

企業の取り組みの結果、LGBTの困難を知り、自分ごととして行動できる支援者・仲間である「アライ」(ALLY)も増えています。当事者から「味方をしてくれてうれしかった」という声を聞くことも増えてきました。

アライを増やす取り組みをする際には、アライと当事者は、対等な関係であることをぜひ忘れないでほしいと思います。アライと当事者の関係は、支援→被支援という上下関係ではありません。あくまで対等な存在です。例えば、異性愛者の従業員がパートナーの親が亡くなった場合に慶弔休暇を取れるのに、同性愛者は取れないというのは、同じ職場で働く仲間として不公平です。「同じ働く仲間なのにおかしい」という感覚が大切だと思います。

このように、アライを増やす取り組みをする際には、アライと当事者が対等であり、働く仲間として協力する姿勢を忘れないでほしいと思います。

原点を見つめる

固定的なジェンダー意識を乗り越えるためには、ジェンダー問題を自分ごととして考えることが大切だと思います。例えば、自分の「息子」が、キラキラの紫色の靴をほしがったときに、あなたならどうしますかと考えてみる。身近なところで起きそうなことについて、一緒に考えていくのが良いと思います。最近では、セイバンというランドセルメーカーがつくった動画がとても良かったです(【セイバン公式】ランドセル選びドキュメンタリー編)」)。こうした事例を通じながら、自分ごととして考える機会を増やしてほしいと思います。

最近、性的マイノリティーの権利が過剰に政治問題化され、インターネットでは不安をあおるような言説も見られます。そんな時には、この取り組みの原点を見つめ直してほしいと思います。それは、同じ職場で働く仲間が気持ちよく働けたり、お客さまが気持ちよく製品やサービスを利用できたりすることです。インターネット上の不安にあおられることなく、周りの人を幸せにするという観点で取り組みを進めてほしいと思います。

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