SOGIにかかわらず
働きやすい職場へ
ダイバーシティーを進めよう社員の声を聞き制度づくりにつなげる
自分の思いが実現できる会社へ
きっかけは社員の相談
KDDIは2020年7月、同性パートナーの子を社内制度上「家族」として扱う「ファミリーシップ申請」を開始した。同社には同性パートナーを配偶者として扱う規定はすでにあったが、対象を子にまで広げた。この施策は、その年の「work with PRIDE」のベストプラクティスに選ばれた。
KDDIは、この取り組みに見られるように早い段階からLGBT施策に取り組んできた。2013年に人事部門などを対象にセミナーを開催、翌年には全社員を対象にしたeラーニングを実施した。2019年には社内の服装基準の見直し、2020年にはハラスメントを禁止する労働協約を労働組合と締結した。
KDDIがダイバーシティーに積極的に取り組む背景には、同社が掲げる「KDDIフィロソフィ」がある。これは従業員が持つべき考え方や価値観、行動規範を示すもので、この中で、めざす姿として、ダイバーシティーを挙げている。
同社は、中期経営戦略で、この考え方をさらに進化させた。
「2023年度からは、ダイバーシティー&インクルージョンに加えて、『エクイティ(Equity)』の概念を入れて、『DE&I』として再定義し、多様な人たちが活躍できる風土に取り組んでいくことにしました」
こう話すのは、同社の人事企画部副部長でDE&I推進担当の内海かなめさん。エクイティとは公平性のこと。従業員の抱える事情はそれぞれ異なる中で、それぞれの事情に合わせたサポートを提供することを意味する。
内海さんは、「DE&Iには、一人ひとりを尊重する風土づくりの意味が込められています。例えば、ファミリーシップ申請もマジョリティーの社員にとっては利用しない制度かもしれません。でも、それを必要とする人が1人でもいるなら、その声を聞いて、会社として必要だと判断したら支援していくということです」と説明する。
実際、KDDIのこれまでの取り組みは、こうした理念を実践するものだった。社員向け研修や、制度づくりのどちらも、きっかけは社員からの相談だったと内海さんは明かす。
「性にかかわることを人事部に相談するのはハードルが高いこと。それでも社員は相談に来てくれました。その声を放っておけないという思いが会社を動かしました」と内海さんは強調する。
偏見や思い込みを取り払う
このようにさまざまな施策を展開してきたKDDI。ただ、課題がすべて解消したわけではない。今後について内海さんは、「社内の風土改革に力を入れたい」と話す。
その一環として同社では、昨年3月から本部長層を対象に「アンコンシャス・バイアス」に関する研修を始めた。
内海さんは「多数派にとっての『当たり前』が全員にとってそうとは限らない。自分が少数派になったケースを思い出してもらい、マイノリティーの気持ちに思いをはせてほしい」と研修の狙いを説明する。今後は対象を広げて実施する。
さらにデータに基づく施策も計画している。具体的には、DE&Iに関する従業員エンゲージメントを調べ、定点観測できる仕組みの導入を計画している。
同社が2030年に向けて掲げるビジョンは、「誰もが自分の思いを実現できる社会を作る」こと。「そのためには、KDDIの社員が自分の思いをこの会社で実現できるようにしなければいけません。偏見や思い込みによってそれらが阻害されているなら、それらを取り払わなければいけません。自分の思いがこの会社で実現できる。そんな会社にしていきたい」と内海さんは語る。
「ファミリーシップ申請」などの制度導入に当たっては、労使で念入りに議論を重ねた。KDDI労働組合の長谷川強副委員長は、「制度ができた後、当事者から感謝の言葉をもらったことがあります。会社と議論して制度をつくったことの成果を感じました。会社は社員の声に耳を傾け、かつ先進的な取り組みを継続しており、今後も続けてほしい」と話す。