特集2023.06

SOGIにかかわらず
働きやすい職場へ
ダイバーシティーを進めよう
労組は今も男性中心の組織
「クミジョ」の存在に光を当て組織変革を

2023/06/12
労働組合活動におけるジェンダー平等を実現するために何が必要か。労働組合で活躍する女性たちの調査を続けている本田一成・武庫川女子大学教授に、彼女たちが直面する困難や組織変革の必要性などについて聞いた。
本田 一成 武庫川女子大学教授

「クミジョ」の本音

労働界でがんばっている女性のことを「クミジョ」と呼んで調査活動を行っています。これまで約40人の「クミジョ」にインタビュー調査をしたほか、自由記述を含むアンケート調査も行いました。学習会や懇親会などを通じて意見交換をしたり、メールのやりとりをしたりしています。

そこで集めた「クミジョ」の声は、大きく三つに集約されます。

一つ目は、男性組合役員(「クミダン」)への「悪口」です。「悪口」にもいろいろな種類があります。例えば、「『クミダン』は『クミジョ』の気持ちを全然わかっていない」とか、「組合活動の内容が旧態依然」とか、「お金の使い方がおかしい」というもの。さらには、セクシュアルハラスメントも現実にはたくさん起きていて、人としてどうかという声もたくさん聞いています。

二つ目は、労働組合活動に対する危機感です。労働組合活動が従来の活動のルーティンになってしまっていることに、多くの「クミジョ」は危機感を抱いています。

三つ目は、ふたをしているのに開けてしまうから、目の上のたんこぶなのでしょう。「クミダン」から私への悪口です(笑)。

参画阻む「壁」と「崖」

「クミジョ」の本音と労働組合の建前には大きなギャップがあります。

連合は「ジェンダー平等推進計画」を掲げ、「女性組合役員の選出」などを構成組織に呼びかけています。

実際、女性組合役員は徐々に増えています。ただ、長い目で見るとその歩みは遅いと言わざるを得ません。このままでは、女性組合役員比率を大幅に増やすのも難しいと思います。なぜ難しいのかは、「クミジョ」の声を聞けばわかります。

「クミジョ」の話を聞くと、女性が組合活動に参加したがらない理由が見えてきます。そこには、「クミジョ」の組合活動を阻む「壁」と「崖」があります。

「壁」とは、「クミジョ」が組合活動に入ることを妨げる壁です。日本は、職場や家庭におけるジェンダーギャップが大きい社会です。女性は、仕事と家事・育児を両立させるだけで精いっぱいなのに労働組合活動までやる余裕がありません。「クミダン」がそれを理解しないことが、「クミジョ」の不満の要因の一つになっています。「あなたたちもやってみろ」と。

このほか、組合活動でも女性を排除する壁があります。例えば、「このポストは女性には無理」とか、「クミジョ」本人はやる気でも「大変そうだから男性に任せよう」とか、そういうふうに女性を排斥する壁です。これは、思い込みや差別です。

こうした「壁」を乗り越えて、組合活動に参加しても、その後に「崖」があります。「崖」とは、組合活動に参加したものの嫌なことばかりでモチベーションが下がってしまう現象です。最初はやる気が100%だったのに、やってみたらマイナス200%になってしまったという「クミジョ」の声もあります。

モチベーションが下がる理由には、嫌気と過労があります。嫌気の要因の一つは、男性中心の仕事の仕方です。飲み会で物事が決まったり、仕事の仕方を教えてくれなかったり。せっかく意見を出しても、「クミジョ」は少数派なので無視されることも少なくありません。そういう中で、「クミジョ」は組合活動に嫌気が差していきます。

過労は、少ない女性役員に多くの仕事が押し付けられることで「クミジョ」が疲弊してしまうことです。

「クミダン」は、こうした実態に気付いていません。だから、「クミジョ」の不満が大きくなっていき、「クミジョ」を増やすのが難しくなっていきます。

組織変革ができない労組

こうした現状を変えるためには、労働組合の組織のあり方を見直さなければいけません。しかし、労働組合は、変革が難しいという組織特性を持っています。

それには次の五つの要因があります。(1)会社のようにはつぶれない、(2)組合役員の任期制、(3)組織合意が優先される組織性、(4)自組織の改革を後回しにする性質、(5)男性型組織(保守性、前例主義など)──の五つです。

ジェンダー平等とは、組織変革のことです。組織変革を実現しなければ、ジェンダー平等は達成できません。

一方、労働組合は、三つの危機に瀕しています。一つ目は、リアル組織率の低さです。ユニオンショップの組合が、オープンショップになったときにどれだけの組合員が残っているか。それがリアル組織率です。二つ目が、競合です。企業は、人的資本経営などの流れの中で、労働組合に先んじてダイバーシティーの取り組みを進めています。労働組合の存在意義が問われています。三つ目が、ジェンダーギャップです。「クミダン」は、労働組合がいかに男性型組織なのかということに気付いていません。

このように労働組合は、三つの危機にひんしつつも、組織変革の難しさに直面しています。ジェンダー平等の必要性は、五つの特性と三つの危機を踏まえて考えるべきです。リアル組織率を測った時に、ジェンダー平等に力を入れていなかったら、どれだけの女性組合員が組合に残ってくれるでしょうか。

なぜ「クミジョ」と呼ぶのか

労働組合は、いまだ男性中心の組織です。ジェンダー平等が実現できているとはとても言えません。

私が、「クミジョ」という言葉を使う理由もそこにあります。「クミダン」や、一部の男性に同化した「クミジョ」の中にも、この言葉を批判する人がいます。「女性を特別扱いしている」とか、「男性も女性もない」とか。しかし、「クミジョ」は労働組合活動の中でマイノリティーであることは間違いありません。そこにはマイノリティー特有の困難があります。男性も女性も同じというのは、彼女たちが直面する特有の困難を見えなくすることにつながります。そこに光を当て、その困難を解消していかなければ、労働組合活動におけるジェンダー平等は実現できません。だから私は、「クミジョ」「クミダン」という言葉をあえて使っています。

男女のすれ違いを超えて

労働組合がジェンダー平等を実現することは、労働運動のあり方そのものが変わっていくことを意味します。

具体的に求められる行動の一つは、教育研修体制の見直しです。「クミダン」に対して、「クミジョ」が直面する「壁」や「崖」がどのようなものかを知ってもらい、組織のあり方を見直していく必要があります。

また、「クミジョ」の横のつながりをさらに強めるための女性オルグ研修の機会をもっと増やしていくべきです。

その意味では、財政のあり方も見直す必要があります。労働組合はジェンダー平等に力を入れるといっている割に、その活動に資金を投入していません。ジェンダー平等に本気で取り組むのなら、相応の予算を割く必要があります。

ジェンダーギャップの大きい国は、男女対立が激しい国でもあります。同じ構造が、労働組合の中にもあります。労働組合の内部にある男女のすれ違いを克服できなければ、そのほかの運動も前に進めないはずです。「クミジョ」の存在に光を当て、彼女たちが直面する特有の困難を解消しなければ、労働組合活動の前進は望めません。

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