介護に備える
介護を支える
「ビジネスケアラー」急増時代に向き合う介護離職を防ぐために
企業にできる両立支援とは
協会代表理事
仕事と介護の両立支援の必要性
仕事と介護の両立支援に関する企業の環境整備は、正直なところあまり進んでいないのが現状です。私たちが一般社団法人日本顧問介護士協会を立ち上げたのは2020年です。その後、企業に訪問活動などをする中で、仕事と介護の両立支援に関する企業の意識は少しずつ変わり始めているとは思います。ただ、それでも従業員の仕事と介護の両立支援に本格的に取り組もうとする企業はまだ少ないと感じています。
経営者の皆さまとの話の中でよく感じるのは、経営者ご自身が介護に直面した経験が少ないということです。その上、従業員の介護離職や従業員からの介護に関する相談も少ないので、介護をしている従業員がいないと考える経営者の方も多いです。
介護に直面するのは主に40〜60代の従業員です。その世代はスキルやノウハウ、人脈を持っている人も多く、そうした人材がある日突然、家族の介護で休みを取ったり、時短勤務になったり、離職したりすることになると企業にとっても大きな痛手になります。代替人員を確保できる大企業ならいいかもしれませんが、中小企業ではそうはいきません。仕事と介護の両立支援に取り組むことは、新しい人材の確保にも役立ちます。企業が持続的に成長するためにも、企業の両立支援が欠かせません。
「隠れ介護」の存在
私たちが企業に訪問活動をしていると、「自分の会社では介護に直面している人がいないから大丈夫」という話をよく聞きます。そのため、私たちは、企業と顧問契約を結ぶ前に従業員の皆さんを対象に介護に関する実態調査アンケートを実施することがあります。
その結果を見ると、今後5年間で介護に直面すると考えている従業員がかなりの割合でいることがわかります。また、介護に直面した場合、仕事を続けられるかという項目では、半数くらいが今の仕事を継続できないと回答します。このアンケート結果を見て、問題の重要性に気付く経営者の方が多いです。
実際、「隠れ介護」と呼ばれるように、会社に知らせないまま介護をしている人は大勢います。会社に知らせない理由は、職場に迷惑をかけられないとか、出世に響くとか、そういう理由が多いです。介護は、子育てと違ってポジティブに受け止められないから、自分から相談しづらいと感じる従業員も多いです。介護をしていることを相談しにくい職場環境も影響しています。
従業員が仕事を続けられないと考えるのは、介護休業等の制度が整備されていることを知らないとか、どこに相談していいかわからないとか、知識が十分備わっていないことが理由の一つです。また、上司に相談できる雰囲気がないとか、自分の会社ではサポートしてもらえないと考えている人もいます。
一方、実際に介護に直面した場合には、会社の制度や介護サービスなどを利用しながら仕事と介護を両立させたいと考える人がほとんどです。
介護はいつ終わるかの見通しが立ちづらいことから、介護を隠したまま働き続けることは困難です。高齢化が今後ますます進むことを踏まえると、「ビジネスケアラー」の問題はさらに顕在化していくと思います。「隠れ介護」を抱えた従業員の離職を防ぐためにも、両立支援の取り組みが欠かせなくなっています。
どんな準備が必要か
介護は、ある日突然やってきます。介護に直面した多くの人が、まさか自分がこんな事態に直面するとは思わなかったと言います。例えば、昨晩まで一緒に食事をしていたのに朝起きてこないとか、トイレに行くと行ったきり倒れていたとか、そういうことが本当によく起きるのです。
介護は身体的な介護だけではなく、親が認知症になった場合は財産管理や相続などの手続きも出てきます。事前に話し合ってルールを決めておけば、何かあったときの負担が軽くなります。
介護は、今直面していなくてもいつかはやって来ます。今のうちから準備をしておくことがとても重要です。
とはいえ、今直面してない介護について、自分から情報を集めることはあまりありません。日々の仕事や生活に追われ、将来の介護について考える余裕がないのも仕方ない面があります。
だからこそ、会社が半ば“強制的”であっても、従業員に介護について考える機会を提供することが大事です。具体的には、介護に関するセミナーを定期的に設けたり、会社として環境整備を従業員にアピールしたりする活動です。
私たち日本顧問介護士協会では、企業に介護コンシェルジュサービスを提供しています。企業に顧問弁護士や顧問税理士がいるように、介護についても相談できる専門家が必要だと考えています。
具体的には年1回介護セミナーを開催したり、介護に直面した従業員の個別相談を365日体制で受けたりするサービスなどを提供しています。個別相談では、従業員が適切な介護サービスを選択し、仕事と介護が両立できるように具体的なサポートを提案するなどしています。介護施設との手続きなどに同行することもあります。
顧問先の従業員の皆さんからはさまざまな質問を受けます。「親が遠方に住んでいるのだが、何をすればよいか」とか、「実家や財産の処分をどうすればよいか」といったことから、「現在、介護サービスを受けているのだが、要望どおりにならない」といったこともあります。そういう場合、セカンドオピニオン的に私たちから具体的なアドバイスをしています。ほかにも主治医やケアマネジャーとのやりとりのポイントなども具体的に伝えています。
このようなサービスを専門家にアウトソーシングすることで、人事や総務の負担を減らすこともできます。
このほか、日本顧問介護士協会では、仕事と介護の両立の環境整備に積極的に取り組む企業に対して、「介護支援推進企業 認定マーク」という独自の認定マークを付与しています。従業員の仕事と介護の両立支援に積極的に取り組む姿勢をアピールすることで、企業のイメージアップにもつながります。
社会全体で介護離職を防ぐ
介護サービスを利用するにはお金もかかります。離職して収入源がなくなると、自分で介護するしか道がなくなっていきます。適切な介護サービスを利用するためにも離職しないことが本当に重要です。
介護を周囲に相談できず1人で抱え込んでしまうと視野が狭くなり、支援を受けられる機会も少なくなることで、介護うつや虐待などの悲しい事態につながってしまいます。
こうした社会問題を解決するためにも、介護離職せず働ける環境を作ることが欠かせません。会社としてはまず従業員に環境整備の取り組みをアピールすることが第一歩です。それが従業員にとって安心感につながります。
一つの会社だけで解決が難しければ、地域の会社が連携して介護離職を防ぐなどの取り組みも必要になっていくと思います。私たちとしても、地域との連携に貢献していきたいと考えています。