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「ビジネスケアラー」急増時代に向き合う人手不足の一方で処遇改善難しく
介護現場の組合員の声を聞く
人手不足の実態
特別養護老人ホーム・あいハート須磨に入居する高齢者は約70人、ショートステイの利用者は約20人。その生活を約50人の介護士、看護師の職員とその他の補助を担うパート職員約10人でケアしている。
同施設の介護主任である三田賢人さんは勤務13年のベテラン。食事や排せつ、入浴などの介護業務全般と職員の勤務表作成など事務的な業務を担っている。
介護業界の大きな課題の一つになっているのは人手不足。あいハート須磨でも「人手不足を実感しています」と三田さんは話す。背景にあるのは、職員の退職と人材採用の難しさだ。育児世代の職員が夜勤や早出が難しいという理由で退職したり、腰痛といった肉体的な理由から退職したりする職員がいる一方で、新規の人材採用が難しいため、人手不足感が高まっている。その結果、配置基準に対してぎりぎりの人員になっているため、人が足りない時間帯は、休日出勤や残業で対応しているという。
「介護業界ではどの事業者も人手不足。求職者は少しでも良い条件の職場を選べるような状況になっています。そのため施設側も賃金や休日などの処遇でアピールしなければ人が集まらない状態です」と明かす。
処遇改善が難しい現実
とはいえ、処遇改善には難しさもある。介護事業者の経営は、介護報酬によって左右される面があるからだ。三田さんは労働組合の役員として施設と労使交渉を重ね、手当の改善などを実現してきたが、ベースアップは難しい状況だと語る。「政府の施策もあって処遇は少しずつ上がっていますが、他の業界と比べればまだ低いです。処遇が上がれば介護業界に興味を持ってくれる人も増えるのではないでしょうか」と三田さん。最近は採用強化を施設に求めている。
賃上げが難しい背景には、新型コロナウイルスの感染拡大もある。新型コロナウイルスは、介護事業者の経営にダメージを与えた。感染状況を心配してショートステイの利用者が減ったり、コロナ感染に伴う入院によって特別養護老人ホームの利用者が減ったりするなど、介護事業者の経営を直撃した。その一方で、現場は感染対策に追われた。感染対策は、インフルエンザも含めて今も続いている。三田さんは、「コロナ前の生活を取り戻すところまではいっていません。少しでも早く落ち着いてほしい」と話す。
介護の実態を共有する
介護労働者の処遇改善のためには、その必要性が社会に広く知られる必要がある。そのためにも介護労働の実態が社会にもっと知られる必要がある。三田さんが伝えたいのは、親の変化を受け入れることの大切さだ。
「ご家族の中には、久しぶりに会った親の状態が以前とは異なり、不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、人は少しずつ変化していくものです。特に施設を利用している高齢者の場合、老化が進んだり、病気が進行したりして、以前と状態が変わることがあります。ご家族からすると元気だった頃のご両親を思い浮かべてしまうかもしれませんが、老いとともに変化していくこともあります。私たちはその中でしっかりケアを提供しています。そういうことも知ってもらえれば」と語る。
介護のケアは、利用者が老いなどの変化に直面する中で生活の質を高めるためのものだ。三田さんは、「利用者がケアを受ける中で、自分でご飯が食べられるようになったり、トイレに行けるようになったり、そういう少しの変化でも見られるようになるとやりがいを感じます」という。
介護労働には、肉体的にも精神的にもさまざまな大変さがあり、その中にやりがいもある。介護労働者によるケアがあるからこそ、利用者の生活の質が維持・向上する。その大切さを社会全体で共有することが重要だ。