人手不足を乗り越える職場づくり
採用強化と離職防止のための職場環境改善能力主義から組織開発へ
発想を転換し人手不足を乗り越える
組織開発専門家
できる人材を探し求める企業
企業が新入社員に求める能力は今なお、主体性やコミュニケーション能力だとされています。ただ実際の現場では、何となく通じ合えそうな人や、大きな問題のなさそうな人が採用されているのが実情です。
複雑化し、不確実性の高い時代の中で企業は求職者に何を求めればいいのかわからなくなっています。そのため企業は、つぶしの利きそうなユーティリティプレーヤーを求めてしまいがちです。採用される側もそれを見抜いていて、自分に求められる能力を就活生に聞いたところ、汎用的能力だと思う人が最も多いという調査結果もありました。
ただ実際に存在するのは主体性や積極性のある人ばかりではありません。消極的で追従的な人も必ずいます。にもかかわらず、企業は何でもできる能力を持つ個人を探し続けています。
こうした現状に対して大切なのは、個人の能力を基準に人材を追い求めることではなく、組織の凹凸を従業員の組み合わせで埋めていく視点です。その組み合わせを行う責任は会社にあります。人と人、人とタスクを組み合わせて組織として機能させる。そうした組織開発の考え方への転換が求められています。
何が足りていないのか
人に相性がある以上、人間関係や仕事との間にミスマッチが生じるのは当たり前です。企業は新卒採用後のミスマッチをできるだけ避けようとしますが、数回のタッチポイントでそれを防ぐには無理があります。ミスマッチは起きて当然です。そこで大切なのは、ミスマッチの予防ではなく、それが生じたときの解消策です。双方向のコミュニケーションができれば、ミスマッチの解消は十分できるはずです。
ならば企業は何を基準に採用すればいいでしょうか。企業は採用のために組織に足りない機能を示しておく必要があります。車に例えれば、不足しているのはアクセルなのか、ブレーキなのか、それともボディなのか。そういった機能をあらかじめ示しておくことです。それができれば、人材はもっと探しやすくなります。例えば、採用試験の一環でSPIのような特性検査を行っているのであれば、それを良しあしの評価に使うのではなく、どの機能は発揮しやすく、どの機能は苦労しがちか? などの仮説立てに使い、補い合える組み合わせの模索に生かすのも有効です。
組織における機能に人材を組み合わせるという視点に立てば、人材はもっと探しやすくなります。現状のように「何でもできる万能な個人」を探し続けていては、いつまでたっても人手不足を解消できません。組織に足りない機能を明確にし、その機能を担い合うという発想に転換できれば、人手不足は採用をせずとも解消することすらできます。
個人の能力不足のせいにしない
採用後の対応も同じです。現状では、今いる従業員で仕事を担い合うという発想が欠けており、個人の能力不足の問題にすり替えられがちです。そのため、企業からは「採用したけど思ったよりも働きが悪い」という相談をよく受けます。よく話を聞くと、十中八九その不満を相手にフィードバックしていません。関係を悪くしたくないという思いからネガティブな情報を相手に伝えていないのですが、不満を相手に伝えないまま低い評価をつけるので、関係がさらに冷え込んだり、採用した人が退職したりします。仕事がうまく回らないことをこのように個人の能力のせいにしていると、次の人を探そうとしても同じことを繰り返してしまいます。大切なのは、組織に足りない機能を埋め合わせる視点です。
組織開発では、組織の凹凸を埋めながら、組織全体が機能するような実践を繰り返していきます。その実践にゴールはありません。個人の状態には揺らぎがあります。個人が組織にうまくかみ合うときもあれば、そうでなくなることもあります。その時々の組み合わせを考え続け、実践し続けることが組織開発の本質だといえます。
実践を繰り返す
最適な組み合わせのためには、日々の観察が大切です。例えば、「Aさんは、Bさんと一緒にいるときは発言が少なくなる」とか「Cさんがいるときは面白い人になる」とか、日々の行動を観察し、把握することが大事です。観察しただけでは忘れてしまうので「閻魔帳」をつけることをお勧めしています。
期間によって組み合わせを変えることもあります。3〜6カ月の短期のプロジェクトなら同質性の高いメンバーを集めたり、より長期で複雑なプロジェクトでは異質性や補完性を持つメンバーを追加したり、目的に合わせて組み合わせを変えていきます。新規事業開発のようなプロジェクトで、そうした組み合わせを試してみることも一案です。
また、組織開発を実践するためには、職務や成果を定義する必要があります。それらを明確にするためにも、各メンバーの仕事の棚卸しをするワークショップの開催をお勧めしています。
もちろん、メンバーを頻繁に動かせないこともあります。人を動かせなくても関係性を変えることは可能です。例えば、外向性の高い上司と内向性の高い部下の組み合わせだったら、互いの性質を理解した上で、どういう意図で行動しているのかを互いに伝えることができれば、歩み寄りはできます。このようにメンバーの入れ替えはできなくても、関係性を変えることは可能です。組織開発ではこのような形で実践を繰り返していきます。
能力主義から組織開発へ
人手不足が深刻化する中で組織開発への追い風が吹いていると思います。
能力主義は、人を選別する方向のツールです。能力主義的な考え方の背景には、「できる人」の意見は聞くけれど、「できない人」の意見は聞かないという選別主義的な考え方が潜んでいます。人手不足が進む中で時代に逆行する考え方ともいえます。「この人がいい」「あの人がいい」とえり好みする余裕はなくなってきています。
これに対して組織開発は、能力による序列を認めません。組織全員の意見を聞いて、それに序列をつけるのではなく、組み合わせの中で生かせばいいという考え方に立ちます。能力主義では、一部の人の声しか聞きませんが、組織開発では組織にいる全員の声を拾い上げ、その組み合わせによって機能する組織を生み出していきます。
このように考えれば、本当に人材が不足しているのかどうかが見えてきます。人手が不足しているのではなく、組織に足りていない機能が見えていないだけかもしれません。個人の能力を基準に人材を追い求めるのではなく、組織を機能させるために人材を組み合わせるという視点が大切です。
不確実性が高まる中で、労働組合も企業も将来に対する不安を抱いています。まずは互いの不安を開示し合うことが大切です。その際、すべてのメンバーの声を聞くことが欠かせません。その包摂の鍵は労働組合にあるかもしれません。