特集2024.12

人手不足を乗り越える職場づくり
採用強化と離職防止のための職場環境改善
比重高まる60歳以上の就業
長期的な視点で処遇の見直しが必要に

2024/12/16
働く人に占める60歳以上の割合が高まっている。その割合は今後も増えることが見込まれる。就業人生の延長に伴い、長期的な視点で処遇のあり方を見直す必要がある。
田口 和雄 高千穂大学教授

質・量ともに高まるニーズ

人手不足を背景に高年齢者に対するニーズは、質・量の両面から高まっています。まず量的な面では、働く人に占める高年齢者の割合が高まっていることが重要です。これは職場における高年齢者の役割が高まることも意味します。

働く人に占める60歳以上の人口割合は、1990年の11.5%から2020年には21.2%まで増えました。今後もこの割合の上昇が見込まれます。

60歳以上の就業率は、高年齢者雇用安定法の改正とともに伸びてきました。高年齢者の雇用確保措置の義務化が施行された2006年の60〜64歳の就業率は52.6%でした。その後、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止された2013年には58.9%になり、70歳までの就業機会確保措置が施行された2021年には71.5%まで上昇しました。また、60歳代後半の就業率は同時期に34.6%→38.7%→50.3%と上昇しています。

年金受給開始年齢と関係もあり、65歳までの定年延長の広がりが見込まれる中、60歳代前半の就業率はさらに伸びると予測できます。さらには70歳までの就業機会の確保が努力義務化されたことから、60歳代後半の就業率も高まっていくと考えられます。働く人の中で60歳以上の比重が増していくことを認識する必要があります。

定年前世代にも影響する処遇

質的な面では、以前は高年齢者の割合が少なかったため、主に年金受給開始までの福祉的な活用が中心でした。しかし、高齢者の数が増加するにつれて、企業側も戦略的な活用が求められるようになり、より積極的に高年齢従業員を活用する方向へとシフトしています。

このことは、処遇のあり方にも関係しています。高年齢者が少ない段階での福祉的活用では、期待される仕事の役割も限定的だったため定年再雇用後などの処遇の引き下げも受け入れられてきました。しかし、高年齢者の数が増え、期待される役割や仕事内容が変化するようになると処遇と実際の活用との間の不一致に対する不満が生じるようになります。

こうした課題は、高年齢従業員のモチベーションだけではなく、定年前の従業員のモチベーション低下にもつながります。定年後の処遇の引き下げは、定年前の従業員にとっても長期的な視点でモチベーション低下の要因となるためです。

このように、高年齢者の労務構成における比率が高まると、その処遇のあり方は組織全体にも大きな影響を与えるようになります。

「分離型」から「統合型」へ

これまでの人事管理においては、定年前の正社員と定年後再雇用された契約社員の処遇を別々に管理する「分離型」が主流でした。この「分離型」では、定年再雇用後の処遇を一律に引き下げることが一般的でした。

しかし、定年前と変わらない働き方を求められるケースが増えると、処遇の公平性の観点から労働条件の見直しを求める声が高まり、「統合型」の管理方式に移行する企業が増えています。

そこで課題として浮かび上がるのは、会社への貢献度とそれに見合った賃金のあり方です。これまでの日本的雇用慣行では、キャリア前半の若手・中堅期の賃金は実際の貢献度より低く、キャリア後半のベテラン期の賃金は貢献度より高くなる賃金カーブを描くことが一般的でした。これは、入社から定年までを通じて、長期的に見て貢献度と賃金がバランスすることを意図した仕組みでした。

一方で、定年再雇用後の処遇では、それまでの貢献をいったんリセットし、再雇用後の貢献度に応じて処遇を決定する短期的な視点が採用される傾向があります。この仕組みでは、従業員の貢献度と処遇がその都度一致することを重視しており、定年前の長期的な賃金カーブとは異なる考え方が取られています。

働く側からするとこれまで積み上げてきた長期的な貢献が反映されず、同じ仕事をしているのに、賃金が下がることに対して不満が生まれます。こうした課題に対する一つの対応策として、どの年齢であっても会社への貢献度と賃金が見合う仕組みへと変えることが挙げられます。この変化を象徴するのが、年功的な職能給から役割給への移行です。60歳以降の人事管理で「統合型」への移行が進めば、こうした処遇の見直しが広がると考えられます。

職務開発や職務再設計が必要

ここまで見てきたように、高年齢労働者の比重が高まる中で、今後は60歳以降も会社に貢献することが大前提となります。働く側としては自身の仕事内容の棚卸しやキャリアパスを描く一方で、会社としても60歳以降の従業員にどのような役割を期待しているのかを明確化する必要があります。会社としてはそのためのキャリア支援や、60歳以降の職務開発や職務再設計が重要になります。

高年齢従業員にとって、先端技術へのキャッチアップは難しい場合があります。しかし、豊富な経験やノウハウを生かし、後進の育成やサポートなどで活躍できる場合があります。従業員の特性を生かした役割を設定することで、組織全体の成長に貢献することができます。

多様な従業員集団の一つ

高年齢の従業員が増えると職場の多様化が進みます。特に65歳以上の場合、健康面での個人差が大きくなります。企業としては、高年齢従業員のそうした個別性に対処する必要があり、健康管理と健康情報の取り扱いが課題となります。

ただし、これは高齢者特有の課題ではありません。企業内では共働きで育児、介護を担う従業員が増加しており、従業員の多様性が高まっています。従来のように転勤が可能なフルタイム正社員だけで従業員集団が構成される時代ではなくなり、多様な働き方に対応する必要が求められています。高年齢の従業員への対応も、その一環として捉える必要があるということです。

労働組合も同様に、従業員の個別化への対応を求められています。従業員の多様化が進む中で、ライフスタイルの多様化や処遇の個別化が進んでおり、労働組合としてもこれに対応する必要があります。こうした個別化の動きに対して、従業員一人ひとりのニーズにどう向き合うかが問われています。個別化をキーワードに多様な従業員の声を反映できるかが労働組合の今後の課題になるといえそうです。

特集 2024.12人手不足を乗り越える職場づくり
採用強化と離職防止のための職場環境改善
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー