特集2024.12

人手不足を乗り越える職場づくり
採用強化と離職防止のための職場環境改善
激しさ増す国際人材獲得競争
職場と地域の魅力アップが不可欠

2024/12/16
少子高齢化が進む中で、外国人労働者へのニーズが高まっている。国際的な人材獲得競争が進む中で、職場と地域の魅力を高めることが必要だ。
鈴木 江理子 国士舘大学教授

人手不足と外国人労働者

外国人労働者が必要とされる理由は、大きく2つあると思います。一つは、「外国人だから必要」ということ。もう一つは「労働者が不足しているから必要」ということです。

前者は、観光産業、多様性を生かしたイノベーション、市場の海外展開など、言語や宗教、生活習慣や行動様式など文化的な「違い」を評価した需要です。

後者は、日本人だけでは充足できない場合です。技能実習制度(2027年に育成就労制度に移行)や特定技能制度は、後者を満たす制度だといえます。農業や漁業、建設業や製造業、介護業など幅広い分野で求められています。少子高齢化が進行すれば、外国人労働者へのニーズは一層拡大すると考えられます。

技能実習制度「発展的解消」の意味

こうした中、目的と実態の乖離や人権侵害を長く批判されてきた技能実習制度がようやく見直され、育成就労という新しい制度が創設されることになりました。新制度では、同一機関で1〜2年の就労、技能と日本語試験の合格など一定の要件を満たせば、自己都合による転籍が認められます。

条件付きとはいえ転籍が可能になったことは重要です。職場に不満があったり、他によい条件の職場があれば、労働者は移動します。それは労働者として当然の権利です。したがって、労働者を引き止めたいと思うのであれば、受け入れ機関には努力が求められます。けれども、原則、転籍が認められていない技能実習制度の下では、受け入れ機関はそのような努力をする必要に迫られません。

転籍できるようになると、そうはいきません。労働条件や職場環境を改善して離職防止に取り組む必要が出てきます。それは外国人労働者のメリットになるだけでなく、日本人労働者の確保にもつながります。長期的には企業の魅力を高めることになるはずです。

いまなお残る差別

差別の問題はいまなお根強く残っています。在日コリアンの時代から続く深刻な問題です。就職差別だけでなく雇用差別もあります。同じ仕事なのに賃金が日本人よりも安かったり、きつい仕事ばかりを任されたり、いじめなどのハラスメントもあります。

こうした差別に対して外国人労働者は声を上げづらい状況に置かれています。特に技能実習生は、転籍できないことなどを背景に、その声を奪われてきました。加えて、言葉の壁や日本の労働関連法を知らないといった問題もあります。次の仕事を見つけられなければ我慢して働かざるを得ません。新制度のもと転籍が制度上可能になったとしても、実効性を高めるための支援が求められます。

激しさ増す国際的な獲得競争

外国人労働者の獲得競争は、国内に限りません。労働力不足が懸念されるのは日本だけではなく、韓国や台湾、シンガポール、さらには中国も日本以上の低出生率に直面しています。労働力確保を巡る競争は今後ますます厳しくなっていきます。

そのため日本の魅力をどう高めるのかが問われます。外国人労働者が就労先を選ぶ基準は賃金だけではありません。例えば、求められる語学レベルや移動コストも重要な選択基準の一つです。受け入れ側からすれば語学レベルは高い方がよいですが、条件を厳しくすれば移動のハードルが高くなってしまいます。移住にかかるコストも大きな影響を与えます。民間のマッチングに依存する技能実習制度では、あっせん料が高くなりがちです。二国間協定による韓国の雇用許可制度の方が移動コストが安くなるので、外国人にとっては魅力的です。

さらに家族帯同の許否や永住取得までの期間、生活の利便性や治安の良さなども選択基準になります。日本の場合、新制度のもとで家族と一緒に暮らすためには、原則8年間(育成就労3年、特定技能1号5年)という長い期間が必要です。

家族帯同については、技能実習制度の見直しを検討する有識者会議でも議論されましたが、子どもの教育や医療などの受け入れ環境整備の観点から、家族帯同を認めないことになりました。現在の技能実習生の7割以上が30歳未満の若者で、家族を形成する年代です。「労働力」を求める一方で、8年間も単身で働くことを強いるのは、あまりに身勝手ではないでしょうか。

諸外国との競争という点では、日本を第1志望として選んでくれる外国人労働者を増やすことが重要です。そのためには、受け入れ制度や環境をどのように整備していくかが今後の課題です。

職場と地域の魅力を高める

技能実習生に「依存」している地域の多くは、高齢化と人口減少が進行しています。外国人労働者とその家族は、住民として地域を支えてくれる可能性のある人たちです。短期的にはさまざまな課題や負担があるとしても、長期的に見れば決して負担ではないはずです。

その意味で、いま問われているのは、職場の魅力だけではなく、地域の魅力を高めていくことです。仕事の場と生活の場の両者が魅力的にならなければ、地方自治体は転籍に伴う人口流出という不安を払拭できないでしょう。

職場の魅力を高めるためには、労働条件の引き上げが重要ですが、それ以外の魅力を高めることも大切です。例えば、職場におけるコミュニケーションでは、日本語だけではなく、やさしい日本語やルビふりなどの配慮が求められます。そのような取り組みは、外国人労働者にとって、対等な仲間として受け入れられているのだというメッセージになります。

地域にもできることはたくさんあります。ある自治体では、技能実習生に対してバディ制度を設け、日本人が伴走役となり、困ったときに相談できる仕組みを整えています。高校生と技能実習生が交流を行っている地域もあります。

大切なのは、外国人労働者が職場や地域で、「自分は受け入れられている」と感じられる環境を整えることです。そうした環境があれば、たとえ賃金が他の地域よりも低くても、定住する可能性が高まります。制度によって労働者を縛り付けるのではなく、彼・彼女たちが自らの意志で地域にとどまることを促す取り組みが重要です。交流することによってマジョリティーの意識も変わっていきます。制度の見直しも大切ですが、ソフト面の対応も欠かせません。

労働組合への期待

外国人の労働環境の改善は、日本人の労働環境の改善にもつながります。労働組合は国籍にかかわらず働く仲間という意識を持ち、地域におけるヨコのネットワークを形成していく必要があります。外国人が直面しているさまざまな問題を自分事として受けとめ、ともに闘うことが重要です。

社会的・経済的な格差を放置すれば社会は分断します。技能実習制度のような、対等な権利が保障されていない労働者を生み出す制度は、格差や差別を拡大します。ファクトを客観的に捉え、デマを防ぎ、ヘイトスピーチには毅然とした対応が必要です。

特集 2024.12人手不足を乗り越える職場づくり
採用強化と離職防止のための職場環境改善
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー