特集2025.03

中小企業の春闘はここから
〜「格差是正」「底支え」へ
すべての加盟組合が知恵を出し合い
適正な価格転嫁・適正取引の徹底へ

2025/03/14
情報労連は2018春闘から「価格転嫁」などの表現を用いて、「公正取引の推進」「適正な価格転嫁」を企業側に求める運動を展開している。情報労連の取り組み内容を報告する。
青木 哲彦 情報労連政策局長

取り組みの背景

連合が掲げる「未来づくり春闘」は4年目となりました。「未来づくり春闘」とは、経済成長や企業業績の後追いではなく、産業・企業、経済・社会の活力の原動力となる「人への投資」を起点として、ステージを変え、経済の好循環を力強く回していくことをめざすものです。

2025春闘では、「賃金も物価も上がらない」という社会的規範(ノルム)を変えていかなければなりません。その転換の大きな要素の一つが、賃上げの広がりと格差是正です。2024春闘では、33年ぶりの5%台の賃上げも、生活向上実感はなく、依然として実質賃金の向上は実現できていない状況です。また、日本全体の経常利益の6割を大企業が占めていることからも、労働者・取引先・地域社会など幅広いステークホルダーと共存共栄できる関係づくりが期待され、格差是正と分配構造の転換が必要となっています。そのためにも、適正な価格転嫁・適正取引を徹底することにより、全体の賃上げの実現につなげていくことが求められています。

この取り組みについては、労働組合としても、受発注双方の立場から自社の取り組み状況を点検し、適切な価格転嫁・適正取引を促すことにより、自社の労働者のみならず、取引先や地域社会なども含めた幅広いステークホルダーと共存共栄できる関係づくりをめざしていくものであります。

しかしながら、価格転嫁の全体的な状況は不十分であり、日本銀行の「企業物価指数」や「短観」などによると「輸入物価の上昇は峠を越えたが価格転嫁は道半ば」と言われています。また、前述の2024春闘の結果においては、大手と中小との賃上げ状況の格差が広がっており、しっかりと賃上げ原資を確保させるためにも適正取引と価格転嫁が必要となっています。公共サービス(医療・福祉、通信料など)においても価格転嫁が必要ですが、料金決定のプロセスに政府等による決定や認可と届け出が必要となることからも価格転嫁が十分に進んでおらず、それらの対応も必要です。また、賃上げの環境整備の側面のみならず、安定的な通信や情報サービスの提供を維持していくためにも重要な取り組みです。

情報労連の取り組み

情報労連で「価格転嫁」等の表現を用いたのは、2018春季生活闘争からです。当時の第48回中央委員会では、月例賃金改善において、「『サプライチェーン全体の付加価値の適正分配』を意識し、『公正取引の推進』『適正な価格転嫁』を企業側に求めます」と春闘方針を掲げています。

また、2021春季生活闘争方針からは、「すべての加盟組合は、対置する企業の『パートナーシップ構築宣言』への参画および『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配』につながる取り組みの推進に向けて、労使で協議します」としてきました。「パートナーシップ構築宣言」とは、2020年に、経団連会長・日商会頭・連合会長および関係大臣で構成される「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」で導入され、事業者がサプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄をめざし、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するもので、現在、約6万社(2025年2月17日時点)が宣言しています。

情報労連の具体的な取り組みについては、サプライチェーン全体の成長・発展に向けた取り組みに対する要請行動として、2022春闘から「パートナーシップ構築宣言」への参画や実効ある取り組みなどの要請を行ってきました。その結果、2020年の取り組み開始時には4社のみであった情報労連加盟組合に対置する企業の参画数は、2024年11月時点で136社となっています。

今後については、この「パートナーシップ構築宣言」の内容が現場段階までしっかりと浸透し履行されているのかを、労働組合としてチェックを行いつつ、実効性を高めていくことが必要です。2025春闘においては、2024春闘で要請行動を行ったNTTグループ・通建大手3社・KDDI等に対し、適正取引・価格転嫁の取り組み状況等について意見交換を行っています。また、2025春闘の具体的な取り組みとして、連合の「取引適正化・価格転嫁に関するチェックリスト」を活用し、各加盟組合の労使において、受発注双方の立場から自社の取り組み状況を点検することとしました。

すべての産業の発展に向けて

中小企業庁が毎年9月・3月に下請け企業に対する価格転嫁等の取り組み状況についてアンケートを行っている「価格交渉促進月間フォローアップ調査結果」では、情報通信・情報サービス部門については、価格転嫁率が調査開始時の2年前に比べて上昇しているものの、2024年9月の調査では、情報通信が24位、情報サービスは23位と全業種の中においては低位にあります。この要因については、(1)通信料金などユーザーへの価格転嫁の困難さ、(2)コストに占める労務費の割合の高さ、(3)多重下請け構造・個人事業主の存在──等、業界特有の課題によるものではないかと推察しています。

しかし、情報通信・情報サービスについては、DXやAIなどあらゆる業種の企業と連携して事業を展開している産業であり、これからもっとすそ野が広がっていくことが想定されます。このような業界特有の課題を解消していかなければ、人手不足が叫ばれる中、あらゆる産業の発展に寄与できなくなることも危惧されます。

情報労連は、その情報通信・情報サービスを中心に幅広い業種の加盟組合が集まっています。情報労連に集う加盟組合の皆さんと知恵を出し合い、“適切な価格転嫁・適正取引の徹底”をしていくことが、働く仲間の環境を少しでも良くしていくことにつながります。そのことがひいては社会全体で互いに認め合う「暮らしやすい社会」の実現にもつながっていくと考えます。

また、価格転嫁と賃上げ率の関係を見ても、受注側企業の価格転嫁率が高いほど、賃上げ率も高い傾向となっています。2025春闘において、すべての加盟組合の賃上げを中心とした積極的な要求を確立するとともに、各労使で「取引適正化・価格転嫁」について点検活動を行い、大企業と中小企業がともに成長できる持続可能な社会を構築していきましょう。

特集 2025.03中小企業の春闘はここから
〜「格差是正」「底支え」へ
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー