特集2026.01-02

みんなで賃上げ/格差是正へ
2026春季生活闘争へ向けて
「同一労働同一賃金」はどこまで進んだか
ガイドライン見直し案を活用し格差是正へ

2026/01/15
正規と非正規の雇用形態間格差は依然として残っている。「同一労働同一賃金」の課題は何か。ガイドラインの見直し論議の現状や、それを踏まえて労働組合に求められる役割などについて労働法学者に聞いた。
「同一労働同一賃金」の実現は道半ばだ(写真:チキタカtiquitaca/PIXTA)
緒方 桂子 南山大学教授

──「同一労働同一賃金」の成果は?

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、非正規雇用者と正規雇用者の賃金格差は縮小しています。正規雇用者の時給を100とした場合、2005年の非正規雇用者の時給は52.9(1274円)でしたが、2023年には60.6(1539円)になりました。格差はやや縮まっていますが、「微増」にとどまるという印象です。

他方、厚生労働省の「令和5年版労働経済白書」によると非正規雇用労働者に賞与を支払う事業所の割合は上昇傾向にあります。ただし、その増加幅は大きくなく、金額面でも正社員との差は依然として存在しています。

このように雇用形態間格差の是正に向けて一定の前進は見られるものの、期待されたほど劇的な改善には至っていないというのが現状における私の評価です。物価高の影響を踏まえれば、非正規雇用労働者の方が生活は厳しいといえます。

──課題はどこにあるのでしょうか。

非正規雇用をどう位置付けるのかという社会的なビジョンが欠けていることが課題だと考えています。例えばEUでは、有期雇用を制限した上で、パートタイム労働を「労働時間を短くしただけの働き方」と捉え、均等待遇の徹底を図ってきました。一方、日本ではパートタイム労働者が低賃金の担い手とされ、人件費削減の手段として利用されてきました。「非正規だから安くてよい」という前提のまま不合理な格差を是正しようとする発想では格差はなかなか埋まらないと思います。

──パート・有期法の課題は?

パート・有期法第8条には不合理な待遇差を判断する要素に関して、「当該待遇を行う目的に照らして」という文言が加えられました。

この文言は、次のような事例にはよく当てはまります。例えば、昼食時間を超えて労働する人に食事補助として支給される「昼食手当」の事例です。この目的に照らせば、同じ条件で働く非正規労働者に「昼食手当」を支給しないことは不合理だと判断されることになります。

一方、次のような事例もあります。こちらは正社員にのみ「寒冷地手当」を支払うことを認めた事例です。この事例では寒冷地手当の目的は、全国一律の賃金体系のもとで配置転換される正社員が、寒冷地に赴任した際の生活費を補助することだとされました。これに対し非正規労働者は、当該地域で採用されるため、その賃金には寒冷地手当の要素がすでに反映されていると説明されました。

このように、「当該待遇を行う目的」を企業側が説明できてしまえば、待遇差が正当化されやすくなる点にパート・有期法の課題があるといえます。例えば基本給に関して、正社員は長期雇用を目的としているから賃金が上がっていく職能給、非正規雇用は特定の職務を担うために職務給だという説明も肯定されやすくなります。

──パート・有期法の見直し論議の現状は?

2025年11月21日に厚生労働省の部会で「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直し案が公表されました。見直し案では、「当該待遇を行う目的」について、これまでより踏み込んだ表現が示されています。具体的には、「当該目的があることのみをもって直ちに当該待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではない」とされており、そこには「いわゆる『正社員人材確保論』のみをもって待遇差が不合理ではないと当然に認められるものではない旨を明確化するための記載を追記」とのコメントがついています。これは、雇用形態間の待遇格差について、主観的、抽象的な説明では足りず、客観的かつ具体的な実態に照らして合理性が認められなければならない、という点を念押しした内容です。この見直し案のまま実際に運用されれば、企業にとって説明のハードルが高くなる可能性があります。

このほかの注目点は、退職金の扱いです。法文上も、そしてこれまでのガイドラインにも退職金に関する記述がありませんでしたが、今回の見直し案に盛り込まれました。過去の最高裁判例には非正規雇用労働者に対する退職金の不支給を不合理な格差としない判断もありました。見直し案では、雇用形態間で仕事の内容などに大きな違いがないのに退職金を支給せず、代わりに給与を高くしているわけでもない場合、その扱いの差は不公平だと判断される可能性があることが示されました。この点もこれまでより踏み込んだ内容になっています。

また、雇用管理区分についても注目すべき変更が盛り込まれました。これまでは雇用管理区分を分けることで正規と非正規の待遇差を設ける手法がしばしば用いられてきましたが、見直し案では次のような考え方が示されました。

「事業主が、雇用管理区分を新たに設け、当該雇用管理区分に属する通常の労働者の待遇の水準を他の通常の労働者よりも低く設定したとしても、当該他の通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間でも不合理と認められる待遇の相違の解消等を行う必要がある」

これは、たとえ職務内容と切り離して雇用管理区分を設定した場合であっても、その待遇格差が不合理と判断される可能性があることを示しています。

さらに、待遇差に関する「説明」のあり方も注目点です。見直し案では、事業主が待遇差について十分な説明を行わなかった場合、その差が不合理であることを基礎づける事情として考慮されるとしています。これは裁判などの場面で労働者側に有利に働く可能性があります。

このほか、各種手当の取り扱いについても見直し案が示されており、今後の動向を注視する必要があります。

──労働組合はこれらをどう活用すべきでしょうか。

この見直し案がこのまま運用されれば、労働組合にとって実務的に活用できる内容になります。仮に修正が加えられるとしても、この段階で示された考え方は、春闘などでの要求づくりに十分活用できるはずです。見直し案を上回る考え方で要求を組み立ててほしいと思います。

その際に重要なのは、労働組合がどのようなビジョンを持って要求を組み立てるのかです。国の法律とは異なり、企業レベルの労使関係では、有期雇用に頼らず、必要な人材は正社員として雇用するという戦略を打ち出すことも可能です。長期雇用が必要な業務にもかかわらず、非正規雇用で代替している職場の実態などを見直し、キャリアパスなどの処遇体系を構築していく必要があります。

また、正規と非正規雇用を比べるためには「ものさし」が必要で、その際に職務評価などの手法を活用する必要が出てくるはずです。

労働組合は、ガイドラインの見直し案を使って企業に対して説明を求めてほしいと思います。その上で会社のパートナーとして、自社の将来の雇用ビジョンを労働組合側から積極的に提案してほしいと思います。

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