トピックス2015.12

在沖米軍基地は重大な人権侵害
沖縄は「自己決定権」を訴え続ける

2015/12/22
安倍政権は沖縄に対する強硬姿勢を強めている。沖縄は今、どのような政治的状況に置かれているのか。歴史を踏まえて概観することで、沖縄に対する重大な人権侵害が見えてくる。
島袋 純 琉球大学教授

かつての自民党政権から変質した安倍政権

─安倍政権の強権的な態度をどう見るか。

安倍政権はかつての自民党政権と違う。沖縄族議員がいたころの自民党は、償いの心を持って情を通わせつつ沖縄と向き合っていた。稲嶺県政までは沖縄の意思をできるだけ尊重しようと話し合いをする姿勢が大前提だった。

ところが、守屋武昌氏が防衛事務次官になって以来、そうした態度は一変した。沖縄を「ゆすり・たかりの名人」だとし、金を与えれば言うことを聞くはずだという強硬路線に転換した。第一次安倍政権の姿勢は特にひどかった。沖縄の保守政治家の言葉にすら聞く耳を持たず、国民国家として沖縄に対しても情を通わせつつ国民統合を保つということすらしなくなった。

現在の安倍政権は、さらにこうした強硬路線を採っても国民の支持を失わないという自信があるのだろう。その意味では日本全体が沖縄の労苦に対して共感する姿勢が弱くなっていると言える。

これには中央大手メディアが「虚像の沖縄」を伝え続けている影響が大きい。メディアは今でも沖縄は基地がなければやっていけない、沖縄は分裂し賛成派も多いという情報を流し続けている。実際は多額の懐柔策により世論が割れさせられているに過ぎないのに。

─沖縄県民の思いは?

安倍政権は2013年4月28日に「主権回復式典」を実施した。沖縄は戦後一貫して日本の平等な主権者の一員として扱えと主張してきた。にもかかわらず、安倍政権は沖縄が日本の主権から切り離された日を選んで日本の主権回復の記念日として祝典を開いた。これは沖縄県民の主権を米軍の下に再び譲り渡すのと同じような強力なインパクトを与えた。

情の共有を自ら断ちきっているのは安倍政権の側だ。日本国内の他の地域と同じように沖縄を扱わないのは沖縄を植民地同様に扱うのと一緒である。主権者であることが認められず、国民国家の一員として統合されないのであれば、沖縄県民は自分たちでそれを引き取って再構成するしかない。ここ2~3年沖縄で独立論が高まっているのはそのためだ。安倍政権が辺野古のゲート前に警視庁の機動隊を投入するような弾圧を続けていけばいくほど、沖縄県民の人心はこの国から離れていくといってよい。

強制移住させた上での占拠
重大な人権侵害は明らか

─国際的な観点でこの事態はどう位置づけられる?

徹底した人権侵害だと言える。人々を強制移住させて土地を占拠して返さない。これ自体明らかな人権侵害だ。日本政府は沖縄だけに適用される特別措置法を制定しこの状態をずっと合法化してきた。憲法95条は、「一の地方公共団体のみに適用される特別法」に関して住民投票による過半数の同意が必要だと定めているがこの条文が沖縄で用いられたことはない。日本政府は沖縄に憲法すら適用しようとしていない。

沖縄の基地は人権侵害の上に成り立っている。このことが多くの人に共有されていない。これは不法介入というレベルではなく、沖縄の基地の存在そのものが人権侵害であるということだ。大手メディアなどは取り上げないが、これは非常に重要な論点だ。

─安倍政権は違憲の疑いが強い安保法制も国民の意見を聞かず、押し通した。

安倍政権が集団的自衛権行使容認の閣議決定をした同じ日に、大浦湾は立入禁止区域に指定された。安倍政権はこのとき海上保安庁を動員して反対派を排除した。だが、海上保安庁は反対派を逮捕する根拠法をもっていなかった。この行動は罪刑法定主義の根幹すら揺るがせるものだ。

自衛隊は、「日米防衛協力ガイドライン」に盛り込まれた「同盟調整メカニズム」のもとで米軍指揮下に入るようになる。米軍はアメリカ憲法やアメリカ議会の統制に基づいて行動するが、日本の主権者は米軍を統制することができない。自衛隊が米軍の指揮下に入ることは、日本の主権者が自衛隊を統制できなくなるということだ。これは戦前の「統帥権独立」と類似している。憲法や議会による立憲主義的な統制が自衛隊に対して利かなくなってしまう。

フォークランド紛争と尖閣諸島問題

─沖縄の現状を放置すれば全国民に影響が及ぶのでは?

イギリスとアルゼンチンが争ったフォークランド紛争は、イギリスにとってサッチャリズムの強化にとても役立った。紛争は国民を一致団結させ、新自由主義政策を推進させる道具となったからだ。その半面、スコットランドは新自由主義政策に苦しめられ、そこから主権回復運動が発生した。

安倍政権は、サッチャーを見習ってか、尖閣諸島だけの限定戦争を想定しているようにすら見える(安倍首相は04年に下村博文氏を英国に派遣。視察団はフォークランド紛争の成果を強調する報告書を作成している)。尖閣諸島周辺で小競り合いでも起きれば、軍事力の強化や憲法改正に弾みがつくと考えているのではないか。

しかし、実際に紛争が起きれば、先島諸島に住む10万人の住民の避難場所はどうするのか。沖縄県全体の観光は壊滅する。そればかりでなく、物流もストップし、経済は完全に破壊され、避難すらできず人々は餓死していくことさえありえる。もちろん日本本土にも大きな影響が及ぶ。中国との貿易がストップすれば、日本経済は大ダメージを受ける。フォークランド紛争でイギリスが被った貿易被害額とは比べ物にならないことは明らかだ。それでも穏やかな予測だと思う。沖縄と日本本土は、フォークランド諸島と英本国の距離と比べれば同じ地域内といってもよいほど至近距離にある。万が一軍事紛争が起こるとして、中国が尖閣諸島だけに、あるいは沖縄だけに攻撃を限定する、との見方はあまりにも楽観的ではないのか。

歴史に翻弄されてきた沖縄の自己決定権

─基地建設を阻止するには?

一つ目は、アメリカ議会や連邦政府内の委員会、NGO・労働団体といったあらゆる団体に働きかけて、アメリカ国内で建設断念の流れをつくること。

二つ目は、県知事や市長が持つ権限を使い続けること。

三つ目は、キャンプシュワブのゲート前や、カヤック隊の人数を増やしていくこと。

四つ目は、国連機関に沖縄に対する人権侵害を訴えていくこと。

この中で「自己決定権」という概念が重要になると考えている。ポツダム宣言8項は沖縄を日本本土と切り離して扱うと書いた。これは沖縄が明治以降、日本政府に強奪された土地であるという理解に基づく。その後、沖縄は米軍統治下に置かれたが、その際にアメリカの信託統治領になる形はとられなかった。信託統治は、敗戦国によって植民地として強奪された土地を戦勝国がしばらく管理し、その地域の独立を前提としている。そこで沖縄の自己決定権を認めると基地を自由に使えなくなる恐れが生じてしまうからだ。

アメリカには沖縄を独立させる考えはなかった。そこでアメリカは沖縄の主権は日本政府にあるとして、沖縄の基地使用を日本政府に認めさせる形をとった。それにより沖縄の基地に関することは日米2国間での話し合いで解決することができるようになった。

こうした経緯を踏まえて国連などには、アメリカも辺野古について、さらには在沖米軍基地について、当事者であるとし、沖縄の自己決定権の論理を訴え続けていく。沖縄の自己決定権を前提としない日米間の交渉は認められないことを世界的に認めさせていく。

─全国の運動との共闘は。

日本国民が安保法制の問題点を理解すれば、全国各地でオール沖縄のような運動が広がっていくはずだ。「島ぐるみ会議」でも全国でキャラバンを展開していきたい。

─他人の人権侵害を無視すれば、自分の人権を侵害されるようになる。

立憲主義を支える市民は、人権を守る権利と義務がある。アメリカの独立宣言には、人権侵害に立ち向かうのが人民の権利であり義務であると書いてある。人権が侵害されている以上、私たちは立ち上がらないといけない。

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