社畜ならぬ、バイ畜 大学生活を劣化させるブラックバイト問題
「あなたはなぜ、時給1000円くらいで、貴重な青春時代を犠牲にするのですか?」
私が常日頃、学生に対して抱く疑問である。やや感情的に言うならば、アルバイトが憎らしくてしょうがない。日々、ブラックバイト問題と向き合っている。
2015年4月から大学の専任教員になった。それまでも約5年にわたり非常勤講師として教壇に立っていたし、その前も企業の採用担当者などの立場で学生とずっと接していた。学生の経済事情が深刻になりつつあることは理解しているつもりでいた。しかし、いざ専任教員となり学生と毎日のように接してみて、ブラックバイト問題はここまで深刻なのかとショックを受けてしまった。
週に4~5回アルバイトをし、夜中まで働くと、時間も体力も余裕がなくなってしまう。今の大学は出席を厳しく取るし、毎回、課題が出される。自由で楽しいモラトリアム、いやレジャーランドとさえ言われた大学像はそこにはない。心身ともにぐったりした状態では集中して勉強など、できるわけがない。
私が衝撃を受けたのは、経済的に豊かな学生たちも週に5日、アルバイトをしてしまっていることである。なぜ、彼らはそこまでして働いてしまうのか?たいていは、脅されているか、おだてられているかのどちらかである。「お前がいないと、ウチの店はつぶれてしまうんだぞ。それでもいいのか?」などと説教をされると、責任感のある真面目な学生ほど強引にシフトを組まれてしまう。
学生たちはワークルールのことを恐ろしく知らない。担当している講義の中で、ワークルールを学ぶキッカケになればと思い、土屋トカチ監督の『ブラックバイトにご用心』の上映会を開いた。「残業手当は1分単位でOK」「制服に着替える時間は勤務時間」「バイトでも有給休暇を取れる」などの事実を彼らは知らなかった。別にこれは、学生の無知を責めても仕方がないと思う。そもそも学ぶ機会がないからだ。この映画を見て、この事実を知った学生はラッキーだったと思う。
ブラックバイト根絶は、簡単ではない。学生の経済事情は決して明るいわけではない。人手不足も慢性化している。産業構造の変化という問題もある。前述したような、ワークルール教育を実施することは有効であると私は考えるのだが、とはいえ、その知識を学生が得たところで異議申し立てを必ずするとは限らない。
やや牧歌的な論だということは重々承知しているが、ここは大手飲食チェーン、コンビニチェーンなどの本部がより本腰を入れて浄化に取り組んでもらえないものだろうか。ブラックバイトだと評判が立つと、人材も集まらない。労働者だけでなく、消費者からも逃げられてしまう。労働力の確保のためにも、本部が「ウチのチェーンは違う」と言えるよう、バイト環境の浄化に取り組むムーブメントが起きないだろうか。
最近では学習機会確保のための就活時期見直しが話題になっているが、就活以上にアルバイトは学業を阻害している。今、そこにある問題にもっと注目するべきである。18歳選挙権の時代だ。参議院選挙では、各党がこの問題の対策をマニフェストに盛り込むことを期待している。