トピックス2016.04

地域と共闘する労働組合がサンダース氏を支えている

2016/04/20
アメリカ大統領選の予備選でバーニー・サンダース旋風が巻き起こっている。躍進を支えているのは、若者や草の根で活動してきた人々だ。労働運動はどうかかわっているのか。
高須 裕彦 一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センタープロジェクト・ディレクター

アメリカ民主党の予備選でバーニー・サンダース候補が躍進している背景にはアメリカの深刻な貧富の格差があります。

アメリカにおける所得格差は、1950年代から70年代まで、トップ10%の所得に占めるシェアが35%以下で推移してきましたが、2000年代に入るとそのシェアが45~50%を占めるようになりました。要因の一つは80年代以降に進められた新自由主義的政策です。80年に70%だった所得税の最高税率は88年には28%にまで引き下げられ、市場では企業優遇の規制緩和が進められました。

08年にリーマン・ショックが起きると、住宅ローンを抱えた人々は自宅を売却したり、失業に追い込まれたりし、悲惨な目に遭いました。けれども、その危機を招いた張本人の金融機関は多額の税金で救済され、経営陣には巨額のボーナスが支給されました。こうした一連の出来事に市民たちは怒ったのです。

11年9月の「ウォール街占拠運動(オキュパイ・ウォール・ストリート運動:OWS)」は、運動の大きな発火点となりました。従来のリベラル系や左派系の運動に捉われないこの運動に、高校生や大学生の若者たちが大挙して参加しました。その特徴は、直接民主主義を取り入れたこと。あらゆる運動課題で活動してきた人たちが延々と議論を積み重ね、連帯が広がりました。OWS自体は、2カ月後に強制排除されてしまいますが、その運動は全米に拡大していきます。

運動を支える若者たち

OWSの掲げた「私たちは99%」というスローガンは、仕事を失い没落するミドルクラスの労働者の心を捉えました。14年にはピケティの『21世紀の資本』が大ヒット。オバマ大統領は「チェンジ」を掲げて当選しましたが、改革は中途半端に終わってしまった。こうした中で今回の大統領選挙は迎えられました。

サンダース氏と共和党のトランプ氏が躍進したのは、中産階級の没落に対して、彼らが体制の変革を主張しているからです。トランプ氏は、白人男性の仕事を奪っているのは移民だとして移民排斥などを訴え一定の支持を得ています。一方でサンダース氏は、格差問題に焦点を当て、富を独占する政治・経済システムの変革を訴えています。彼は、最低賃金の15ドルへの引き上げや国民皆保険制度の導入、大学までの授業料無償化、累進課税の強化─などを公約に掲げています。

サンダース氏を支持しているのは、40代以下の若年層で、特に若い学生が彼の人気を支えています。アメリカの学生たちは学費ローンで多額の借金を抱え、社会に出る入り口から困難な状況に直面します。苦しい現実の変革をサンダース氏に期待しているのです。

運動面でも大学生が大きな役割を果たしていると感じます。社会的問題に関心のある大学生の多くは、在学中に、市民運動やNPO、労働組合などでインターンを経験します。そこで貧困問題や労働問題に接するわけです。彼/彼女らは卒業後も、それらの団体の専従者になるなどして活動を続けます。米国は、市民活動やNPO活動に対する財団などからの寄付が日本とはけた違いに大きい国です。それにより多くの学生たちが活動家やオルガナイザーとして再生産されています。そうした人々がサンダース氏を支えています。

労働組合はというと、全国レベルでは、クリントン氏支持が多いですが、地域の支部レベルではサンダース氏支持の組合もあります。米国のナショナルセンターであるAFL-CIOは2月段階でクリントン支持かサンダース支持かを決定しませんでした。これまでの大統領選からすれば前代未聞だと言えるでしょう。

最低賃金とサンダース旋風

もう一つ、サンダース氏躍進の背景に、最低賃金引き上げ運動の流れがあります。12年10月にウォルマートの労働者たちがストライキに突入しました。続いて11月にはニューヨークのファストフード労働者たちもストライキに突入します。後者のストは、ニューヨークの移民やマイノリティの人々を支援する地域のコミュニティー団体と、「全米サービス業従業員組合」(SEIU)、そこにOWSの活動家たちが合流して、「Fight for $15」というキャンペーンを展開しています。両者の運動は時給15ドルを求めて全米各地でストライキを展開し、昨年11月10日にも全米270都市でストライキを実施しました。

これまでに、ウォルマートが今年2月から時給を10ドルに引き上げ、マクドナルドは全店舗の10%を占める直営店の労働者の賃金を昨年7月から約10ドルに引き上げました。また、ニューヨーク州はファストフード労働者に限定して最低賃金を15ドルに引き上げていくことを決定し、ロサンゼルス郡・市は、最低賃金を段階的に15ドルまで引き上げることを決めるなど、最低賃金引き上げの動きが広がっています。

こうした目覚ましい実績は、労働組合が地域の社会運動やコミュニティー・グループと強固な共闘関係を築いてきたことの成果です。SEIUなどの全米規模の産別労組は、「ヒト・モノ・カネ」で最低賃金引き上げ運動を支えてきました。80年代以降、弱体化してきた労働組合は、90年代から「生活賃金条例」(日本の公契約条例)制定運動などをつうじて、地域との共闘関係を積み重ねてきたのです。そうした運動の経験が最低賃金の引き上げに結びついています。

前述したように労働組合は全国レベルではクリントン氏支持なのですが、このように地域で運動をつくってきた現場の担い手たちがサンダース氏を支えています。OWSや「Fight for $15」などはすべてつながっているのです。

当事者を可視化する

アメリカの経験から日本は何を学べるでしょうか。アメリカの最低賃金引き上げ運動では、最低賃金水準で働く当事者たちによる「ストーリー・テリング」という手法が用いられました。彼/彼女らは顔を出して自分たちの働き方や苦しい生活の境遇を語りました。それにより問題が「可視化」されるのです。日本ではかつての「年越し派遣村」、いまでは「保育園落ちたの私だ」がそうした「可視化」に当たります。そうした運動を組織的に下支えするのは労働組合です。

その点、アメリカの労働運動はダイナミックに変化しています。アメリカの労働組合は、戦略を立てながら、資金や人材を柔軟に配分する決断力を持っています。問題の当事者が運動に参加し、地域のさまざまな社会運動やNPOなどと連携しているアメリカの労働運動から日本が学ぶべきことは多いはずです。

(3月8日インタビュー)

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