特集2016.07

格差是正をもっと前へ「同一労働同一賃金」処遇全般を含めて雇用形態間における均等待遇の実現をめざす

2016/07/19
連合は6月17日に開催した中央執行委員会で「雇用形態間における均等待遇原則(同一労働同一賃金)の法制化に向けた連合の考え方」を確認した。政府での議論にどのように臨んでいくのか。連合の考え方を聞いた。
安永 貴夫 連合副事務局長

取れるものは取る

安倍政権が今年に入って「同一労働同一賃金」と言い始めた。私たち連合からすると、「どの口が言うか」という思いはある。昨年の労働者派遣法改正の審議で、民主党と維新の党などが提出した「同一労働同一賃金推進法案」を骨抜きにしたのは政権与党だからだ。最低賃金の引き上げに関しても「争点隠し」ではないかとの思いもある。だが、私たちとしては労働者の処遇改善のために、たとえ一歩でも前進して勝ち取れるものがあれば勝ち取っていくという姿勢で運動を展開していきたい。

「同一労働同一賃金」に関しては、本部内にプロジェクトチームを設置し、内容を検討し、6月17日の中央執行委員会で「雇用形態間における均等待遇原則(同一労働同一賃金)の法制化に向けた連合の考え方」(以下、「考え方」)を確認した。今回は、その内容を説明したい。

運動の経緯

連合はかねてから、雇用形態にかかわらない均等待遇原則を法制化すべきだと訴えてきた。この「考え方」は、これまでの主張を再確立したものだ。

まず、「考え方」の「はじめに」では、法律は労働条件の最低基準を定めるものであり、それを上回る労働条件は労使で決定するものという原則を記した。これは、今回の論議で均等待遇原則が導入されても、それを上回る取り組みには労働組合の役割発揮が必要だとする考え方に基づくものとなる。

また、今回の「考え方」は、雇用形態間の均等待遇に焦点を絞って考え方をまとめている。処遇格差の問題は、雇用形態間に限らず、企業規模間や業種間、男女間などさまざまに存在している。そのため、これらの課題に関しても連合全体で引き続き取り組んでいくことを確認している。

連合は2001年の第7回定期大会で「パート・有期契約労働法骨子(案)」を確認している。その後、2003年には「均等待遇の判断基準」を確認した。また、2013年には派遣労働者に関する均等待遇のあり方を確認している。今回の「考え方」は、2003年にまとめた「判断基準」を、法制化を意識して再確立したものとなる(「判断基準」は後述)。

現行法の問題点

「考え方」の中では、同一労働同一賃金という表現ではなく、均等待遇という表現を用いた。これは、労働条件は賃金だけではなく、さまざまな要素があることを考慮したことによるものだ。均等待遇という表現には、正社員化やキャリアアップ支援、教育や住宅などの社会保障も含めた議論が必要という思いを込めた。雇用形態間の格差問題は、均等待遇原則だけでは解決できない。繰り返しになるが、社会保障なども含めた幅広い議論が不可欠になると考えている。

「考え方」では、現行法の課題として、■労働契約法■労働者派遣法■パートタイム労働法─の課題を挙げた。このうち、労働契約法に関しては、(1)労働契約法20条の適用対象とならない「無期雇用の非正規労働者」などの保護策(2)不合理性を基礎づける事実の立証責任が労働者側にある問題(3)20条により無効とされた労働条件を補充する効力の問題─を挙げた。

また、労働者派遣法に関しては、均等待遇ですら配慮義務や努力義務規定にとどまっている問題。パートタイム労働法は、現行9条の適用要件の厳しさを挙げるとともに、8条が適用された裁判例がないことなどを問題点として挙げた。パートタイム労働法に関しては、「フルタイムパート」の問題もある。

基本的な考え方

こうした問題点を踏まえて、連合では次のように基本的な考え方をまとめた。

一つ目は、雇用形態間の均等待遇の実現については、同一企業内において、「均等」(同じにすること)と「均衡」(バランスを図ること)の両者を含めて、その実現をめざすということ。その対象は、賃金・一時金だけでなく、処遇全般を含めたものにするということ。これは、さまざまな判断要素に照らせば、労働条件を均等にすべきものもあるし、均衡を図るべきものもあるという意味である。

二つ目は、雇用形態間の合理的理由のない格差の禁止を狭義に解すべきではないということ。「同一労働同一賃金」を「同じ仕事であれば同じ賃金を支払うべき」と狭い意味で解釈すると、仕事が完全に同じでなければ対象外となる懸念や、職務給でなければ同じ賃金にはできないという誤解を招く恐れがあるからである。

三つ目は、「不合理な差とは何か」「同じ仕事とは何か」などという目安を示すことは有用だが、それらは産業特性や賃金制度の違いなどから、法令で一律に決められるものではないということ。そのため、職場の実情を踏まえ、労使の交渉・協議を経て、納得性のあるものとすることが重要だと訴えている。私たちはこの納得性について特に重視している。

四つ目は、今回の議論が、正社員の労働条件を引き下げるものではあってはならず、処遇格差の解消を理由とする労働条件の不利益変更は認められないとすること。労働基準法1条2項が定めるように、労働法を理由として、労働条件を低下させるようなことはあってはならないということだ。

求める法規定のあり方

こうした基本的な考え方の上に、求める法規定のあり方をまとめた。

この中では、労働契約法の中に雇用形態間の合理的な理由のない処遇格差を禁止する総則的規定を置き、関係法(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法など)も所定の見直しを行うとした。この総則的規定は、これに反する部分を無効とする強行規定とし、無効とされた部分を補完する「直律的効力」を持つものとして明記するものとした。

また、法律の実効性を高めるために、合理性の立証責任は使用者が負うべきものとした。政府がつくるガイドラインは法的根拠のないものとし、あくまで参考資料と位置づけるべきとしている。

こうした立法の上で、何が「合理的理由」の判断基準になるかについて連合は2003年に要素や基準の考え方を整理している。この中では、「合理的理由となるもの」として、■職務の違い(職務内容の難易度、労働の負荷、知識・技能、責任の度合い、など)■職務遂行能力の違い(キャリア、勤続、公的資格など)■成果・業績の違い─などを挙げた。

一方で「合理的理由とならないもの」としては、■学歴・性別■所定外労働の可能性の有無■兼業規制の有無■採用手続きの違い─などを挙げている。他方で、「一律に合理的な理由となると言えないもの」として、■配転・転勤の可能性の有無■雇用管理区分の違い─などを挙げた(表参照)。これらはあくまで目安である。これらの判断要素・基準を参考に労使で話し合い、賃金・処遇制度の納得性を高めていくことが重要になる。

これらに加えて、職場における労使交渉・協議に関する注意点として、非正規労働者の声を反映させた実質的な話し合いを行うことや、派遣労働者に関しては、派遣先労働組合の関与も求めていくことを盛り込んだ。

こうした均等待遇の実現に向けた取り組みでは、法の実効性を高めるために、就業規則で賃金規定を整備することや、適正な過半数労働者の選出などが重要になる。連合としては、これらの点も運動を展開するにあたって構成組織に活発な取り組みを要請していく。

表「合理的理由」の判断要素・基準

「合理的な理由」となるもの

  • 「職務の違い」
    • 職務内容の難易度
    • 労働の負荷
    • 業務に要求される知識・技能
    • 責任の度合い
  • 職務遂行能力の違い(キャリア、勤続等)
  • 成果・業績の違い

「合理的な理由」とならないもの

  • 学歴・性別
  • 所定外労働の可能性の有無
  • 兼業規制の有無
  • 雇用契約期間の違い
  • 採用手続きの違い

一律に「合理的な理由となる」と言えないもの

  • 労働時間、休日、夏季休暇など休暇設定の自由度
  • 配転・転勤の可能性の有無
  • 雇用管理区分の違い
連合2003年第19回中央執行委員会資料から抜粋

運動の実践

連合に対しては「正社員組合」という批判がある。だが、連合686万組合員のうちパートなどの組合員は100万人を超えている。この現状を踏まえれば雇用形態間の格差是正の取り組みは、連合として当たり前に取り組む課題である。近年では春闘での格差是正に力を入れており、今年の正社員の賃上げ率は昨年、一昨年に比べて下がったが、時給で働く労働者の今年の賃上げ率は昨年よりも高くなった。時給が上がった労働者は昨年約57万人だったが、今年は65万人に増えたと報告された。今後は、非正規労働者に対して賃金制度を導入していくことも重要な課題になる。

連合は、「協約から法律へ」という目標を運動方針で掲げている。これは職場で勝ち取った成果を社会全体に広げ、法制化していくという意味である。こうした均等待遇原則の実現は、労働者全体の労働条件向上のための重要な足掛かりになる。非正規労働者の組織化や正社員化などに総合的に取り組みつつ、雇用形態間の均等待遇に関して、職場における実績を積み重ねていきたい。

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