格差是正をもっと前へ「同一労働同一賃金」職務評価の導入こそ格差是正の国際スタンダードだ
「非正規」が低賃金の理由
なぜ「非正規」の賃金は低いのか。背景には「非正規」なら低賃金でかまわないという社会の認識があります。「非正規」は「正規」と賃金の決まり方が違うから低賃金でよいというのです。「正規」は、長期勤続を前提に配置転換を繰り返しながら、さまざまな仕事を覚えていき、その中で賃金が上がっていきます。けれども「非正規」は、「正規」とは違い仕事に合わせて人を雇うやり方なので、「正規」の賃金より低くてもよい─。「非正規」の低賃金が是認されるのは、こうした雇用慣行があるからという理由に過ぎません。
新古典経済学によれば「非正規」の賃金は、外部労働市場のメカニズムによって決まっているとされます。しかし、これは間違いです。人手不足にもかかわらず、パートやアルバイトの賃金は、それを解消するほどに上がっていません。市場メカニズムが働けば、「非正規」の賃金が上がっていくという考え方自体が誤っているのです。
国際標準の格差是正法
賃金格差を是正するために用いられるのが「同一(価値)労働同一賃金」であり、それは国際標準では職務評価制度のことを指します。なお、「同一労働同一賃金」は「同一価値労働同一賃金」の一部に過ぎないというのが、国際標準の理解です。
「非正規」の人たちにアンケートをとると、「仕事に比べて賃金が安すぎる」という意見が常に多数を占めています。「同一(価値)労働同一賃金」とは、このことを理論的に言っているに過ぎません。「仕事に比べて賃金が安すぎる」という場合、その仕事の内容を職務評価によって分析し、賃金と見合っているかどうかを比較するのです。賃金格差を是正する方法は、職務評価制度を用いる方法が国際標準です。というより、これしかありません。
雇用形態間の格差を是正する場合に、「非正規」の処遇をすべて「正規」に合わせるべきという意見があります。つまり、「非正規」の「正規」化です。けれども、それは理論的にも現実的にも実現可能性がありません。一部の「非正規」が「正規」化するだけで、格差は残り続けます。賃金格差を是正するためには、職務評価を導入していくことがやはり求められます。
職務評価の導入方法
職務評価は、「労働環境」「負担」「責任」「知識・技能」の大ファクターを、それぞれ小ファクターに分類し、それに対してウェイトや評価レベルを決めるという方法で実施します(表1参照)。
こうしたファクターは、ILOがガイドラインとして出しているもので、実際には業界や企業に合わせてファクターやレベルを調整する必要があります。よく勘違いされますが、完成した職務評価制度がどこかに用意されているわけではなく、実際には業界・企業に合わせた制度をつくる必要があります。「職務評価を実施しよう」と経営者が思い立っても明日から導入できるわけではないのです。
職務評価は日本企業ですでに導入されています。「役割給」を設計する際に職務評価が必要となるからです。事実上、日本企業の正社員も賃金決定の要素が職務基準に移行しつつあります。ホワイトカラーの専門性が高くなっているため、以前のように配置転換を繰り返すゼネラリストを育成することは難しくなっています。そのため職務を限定する動きが進みつつあるのです。こうした流れの上に「同一(価値)労働同一賃金」の議論をのせるべきだと主張しているわけです。
職務評価はこのように実態として導入されつつありますが、それを「非正規」も含めて実施している事例は、私たちが地方自治体で実施した事例一つしかありません。つまり、民間ではいまだないということです。
また、現在行われているコンサルタント企業による職務評価も、「責任」「知識・技能」が評価の中心となっており、「労働環境」「負担」といった要素がほとんど考慮されていません。雇用形態間の格差を是正するには、「労働環境」「負担」のファクターを考慮する必要があります。「非正規」の比重が高いのは、これらの要素だからです。
職務内容の「見える化」
日本で職務評価を導入する際に、「残業時間」や「転勤の有無」を小ファクターとして加えてもよいと考えています。「この仕事にはこれくらいの残業がある」「転勤の可能性はこれくらいある」ということを点数化するわけです。こうした要素を加えることで「正規」の点数は高くなるでしょう。
そうであっても「非正規」を職務評価の対象にすると、「正規」と「非正規」の格差は是正されます。なぜなら、現在の「非正規」の賃金が現状では低すぎるからです。多面評価の中に、「残業」「転勤」という二つのファクターを増やしたところで、それが極端に評価されるわけではありません。全体として雇用形態間の格差は職務評価の導入によって是正されます。
また、「残業」「転勤」を評価のファクターに用いることで、それらの内容が働く側に見えるようになります。職務内容が「見える化」すると、職務と賃金の関係が明らかになり、働き方の規制につながります。
「非正規」も含めて職務評価を導入すると、「非正規」の処遇が改善され、人材の定着率が向上するはずです。それは企業の社会的なアピールにもなります。こうした効果は「正規」にも及びます。「正規」の側は、それらの効果を見越して、例えばその年の定昇分を格差是正の原資に使うような「連帯」を示してもよいはずです。もちろん、そのことは「正規」にとってのメリットにもなります。
労働組合に実践を期待
現在の政府の議論を見ていると、「手当」や「付加給」が議論の中心になっているようです。そのこと自体は格差是正に必要なことです。ただし、「同一(価値)労働同一賃金」で問われるのは、あくまで「基本給」であり、職務評価であることは強調しておきたいと思います。
ここまでの職務評価制度の話は、同一企業への導入が中心で、広くても同一業界での導入にとどまります。企業規模間格差の是正は、職務評価の導入では直接是正されないと言えます。なぜなら同一(価値)労働同一賃金の取り組みは、一つの経営体における人事管理の中で、労働者の均等待遇を実現しようとするものだからです。
このことを企業横断的に展開していくのは労働組合の役割です。たとえ別の会社でも、「こういう仕事なら、このくらいの賃金」という相場をつくるのは労働組合の役割なのです。企業横断的な取り組みを展開するためには、労働市場の流動化や教育・住宅などの社会保障の普遍化といった前提条件も求められるでしょう。まずは、その土台となる職務評価について、資金と機会を提供して、業界レベルで職務評価のモデルとなる制度を導入することが何より大切です。私はその実践を労働組合に期待しています。