特集2016.07

格差是正をもっと前へ「同一労働同一賃金」「同一価値労働同一賃金」へ「基本給」に踏み込んだ議論を

2016/07/19
男女間の賃金格差を是正する概念として用いられてきた「同一価値労働同一賃金」の実現へ向けて、どのような議論の展開が必要なのか。『同一価値労働同一賃金原則の実施システム』の著者である浅倉むつ子教授に聞いた。
浅倉 むつ子 早稲田大学教授

「同一価値労働同一賃金」とは?

「同一価値労働同一賃金」とは、男女間の賃金差別を是正する概念として使われ始めました。古くは1919年のILO憲章に、「同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認」という言葉が用いられています。

その内容は、1951年に採択された「ILO100号条約」に反映されています。100号条約は、同一価値の労働について性別にかかわりなく同一の報酬を与えなければならないという内容で、1967年に日本も批准しています。ただし、ここでいう「同一価値の労働」とは、今で言う「同一労働」「類似労働」に似たものでした。

異なる職務の価値を職務評価を用いて比較しなければならないという考え方は、1970年代以降に本格化したのだと思います。フェミニズムや労働組合が、この時期になって性に中立的な職務評価の導入に本格的に取り組み始めたのは、男性と女性の職務が分離している実態があったからです。男女の仕事が、同一でも類似でもない状況が一般的である中、仕事の価値を比較するために、職務評価の手法が用いられなければならないとされたのです。

今日の「同一労働同一賃金」とは?

一方、日本政府が「一億総活躍プラン」で取り上げている「同一労働同一賃金」は、正規/非正規の雇用形態間の格差に着目したもので、男女間の賃金格差に触発されたものではありません。この点で、そもそもの発想の起点は異なっていると言えます。

また、現在の議論では、異なる仕事を比べて評価するということは、あまりなされていないようです。同一あるいは類似の労働を比べる場合でも、それらをどのようにして比較するのか、比較する際の基準は何かという議論も、ほとんどないように思います。

とはいえ、日本政府は最近まで、雇用形態間の差別、特に賃金を含む差別の是正に正面から取り組むという姿勢を示すことはありませんでした。どちらかというと、正規/非正規の格差問題は国家が介入するよりも労使交渉の問題だという発想が強かったと思います。ところが、今年に入ってからそれが突然に転換したのです。

このこと自体は、正規/非正規間の著しい格差問題が政権にとっても命取りになるのではないかと気づいて、政府がこれを社会問題として取りあげざるをえなくなった結果なのだと思います。ですから、これ自体を、私は積極的に評価しています。ただし、これが単なるスローガンにとどまらないように、どうしたら内実を伴う政策にすることができるのか、正念場を迎えているといえるでしょう。

「基本給」にも踏み込む

政府レベルでは、仕事内容を比較する際の基準については深く検討しないまま、現在のところ、賃金の性質・目的に着目した合理性の有無について議論されているようです。例えば、賃金には職務に応じて支払う性質のものもあれば、従業員という立場に応じて支払う性質のものもあります。こうした賃金の性質のうち、「職務に応じて支払うもの以外の賃金」に関して、合理的な理由がなければ、同じ職場の労働者に対して同じ賃金を支払うべきだという方向で議論が進んでいるようです。例えば、通勤手当や慶弔休暇手当などはこれに該当します。こうした手当は職務に関係なく、同じ職場で働く労働者であれば、そこに差を設けることは合理的ではないと判断できるからです。私もこれに反対ではありません。

しかし一方、職務との関連性が高い賃金部分はどうでしょうか。諸手当ではなく「基本給」については、あまり議論はないようですが、職務内容の差を反映した賃金である場合には、その内容の違いに応じて賃金の差も認められる、という方向は出されるようです。議論が欠けているのは、「職務内容の差」を測定する基準について、です。もしこの差を「反映する賃金」であるのなら、職務評価に踏み込むことは避けられないのではないでしょうか。この点は、男女間でも、正規/非正規間でも、今後、格差是正を進めていく上で大切です。

そうはいっても難しいのは、日本の場合、企業の多くが職務に応じた雇用管理をしていないことです。日本企業は、人材活用の仕組みの中で、正社員には将来のキャリア蓄積を期待して、担当する職務を変えていきます。それに対して、非正社員の職務は時間が経過しても変わりません。そのように人事管理上、正規/非正規を区別して取り扱っているからこそ、ここまで大きな格差が生じているのです。このような差別的状態の中で、どうしたら正社員の仕事内容と非正社員の仕事内容を比較できるのか。そこが難しいため、日本では格別の工夫をする必要があるのではないでしょうか。

もっともシンプルな解決策は、正社員にも非正社員にも、同一の賃金制度を適用することです。そうすれば、勤続年数や労働時間によって得られる賃金は異なるにせよ、問題はほぼ解消するでしょう。いかなる賃金制度を採用しようとも、従業員には等しく同一の制度を適用すべきである、というわけです。もちろん、男女間ではこれは鉄則です。男女別の賃金制度自体が性差別だからです。

しかし、職種別賃金や職掌別賃金が許されるように、正規/非正規という雇用形態別賃金が必ずしも違法とはいえないために、異なる賃金制度下にあっても、「合理的な差異」を超える格差は違法となる、という議論が登場せざるをえないことになります。

「合理的な理由」とは

政府の議論では、同じ労働であっても違いを正当化する「合理的な理由」があれば、賃金格差は認められる、とされているようです。

私も基本線で、この考え方に反対はしませんが、「合理的な理由」の中に、将来の「配置の変更の範囲」を含むことには反対です。このような要素を含んだままでは、これまでのように(企業による)キャリア展望の有無が基本給格差の合理的理由となってしまいます。人材活用における企業の期待の違いによって処遇の差が認められるのであれば、企業は裁量によって期待しない人材を平等処遇の対象から外すことができることになります。

これに対して「職務評価」を導入するべきという私たちの考え方は、ILOが提唱する「得点要素法」を導入すべき、というものです。これは、(1)「知識・技能」(2)「責任」(3)「負担」(4)「労働環境」という4つの要素に基づいて、職務を点数化して評価するものです。

実際にこれを職場で実施するためには、労使が関与して、従業員を対象にヒアリングを行い、職務分析・項目の抽出を行い、要素ごとに得点配分をして職務を評価するというプロセスをたどります。

非正規差別は女性差別でもある

労働組合は、このような職務評価に責任をもって関与すべきではないでしょうか。急激な制度改革は難しくとも、賃金が「職務」に応じて支払われるという原則のほうが、男女間でも正規/非正規間でも格差を減らし、人々の納得が得られる賃金制度だといえるのではないでしょうか。

私たちは、まだ男女の処遇格差が解消されたとは考えていません。非正規労働者の低賃金問題は、女性差別と根は同じだと思います。それゆえ、労働基準法4条に同一価値労働同一賃金の原則を導入したり、男女雇用機会均等法の間接差別の規定を見直したりすることも、とても大切だと考えています。非正規の女性が正規の男性労働者との賃金差別を間接性差別として訴える可能性はなお大きいと考えます。

付言しておくと、職務評価の手法を実際に導入したとしても、雇用形態間の格差がすべて解消するわけではありません。職務評価の結果、職務の内容が点数化され、その内容の差が見えるようになるだけです。賃金格差の是正は、その結果に基づいて、みんなの合意を得ながら、無理のない方法で進めていけるはずです。

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