トピックス2016.08-09

野党共闘に成果「リベラル勢力」再起動のカギは労組復活にあり

2016/08/17
参議院議員選挙の結果をどのように読み解けばよいか。「野党共闘」に対する評価や今後の政治動向の展望などを識者に聞いた。
五野井 郁夫 高千穂大学教授

─野党共闘に対する評価は?

十分機能したと考えている。改憲勢力は無所属を含めると3分の2に達した。だが、自公で3分の2をとらせないという野党共闘の当初の目標は達成した。1人区は3年前の31議席中2議席から32議席中11議席に躍進した。目に見える成果があったと評価してよい。

2人以上の選挙区でも候補者を絞り込めば野党候補が勝てる選挙区が複数あった。野党共闘を深化させればさらなる躍進も可能だ。今後も続ける必要がある。

東北や沖縄の1人区では野党候補が勝った。これらの選挙区の有権者が、今の政府が自分たちの方を向いていない、今の政治では暮らしが破壊されていくと感じていることの表れだろう。

有権者には、勝てる見込みのある候補に投票する傾向もある。勝利した選挙区はそのための努力をいとわなかった。厳しい言い方だが、民意はそれを見ている。有権者に本気度を示せた選挙区が議席を勝ち取ったと捉えている。

─野党は憲法より経済・社会保障をもっと訴えるべきという意見もあった。

どちらも重要だと思う。自民党は街頭演説とテレビとで話題を使い分けていた。野党もそうした「二段階戦術」をとった方がよい。

社会保障や経済政策に関して、野党は具体的な数値にもっと踏み込んで政策を提示すべきだ。例えば、「最低賃金1500円」や「保育士の賃金10万円アップ」のように、ディーセント・ワークを目に見える形で示すことが大切だ。業界団体と交渉し、リアリティーをもって有権者にアピールすることをやってほしい。

憲法については、マス・メディアが報道時間を抑えたこともあるが、テレビなどでの露出時間がもう少し必要だった。アウェーなメディア環境下で野党が訴えた内容は全体として評価している。

─野党が左傾化して、無党派層の票を逃したという意見もある。

1人区でこれだけ躍進したのだから、その意見には妥当性がない。

共闘は、票の足し算であって思想的に染まることではない。自公連立政権を見ればそのことを理解できるはずだ。

野党共闘を後押ししたのは市民だ。大半の市民は政党間のポリティクスに興味はない。市民は現在の政治情勢に危機感を感じたから、野党共闘を後押しした。その危機が過ぎ去れば、共闘を解消すればいいだけの話だ。

共闘によって票を食い合ってしまうという見方も考え過ぎだろう。本来、民進党と共産党の支持層は異なる。最終的に、共産党が国民の大多数の支持を得るようなことは難しいのだから、民進党や連合は、野党共闘でより魅力的な政策をアピールすれば、支持基盤を強化できる。

そして連合の支持基盤は、自民党とも共産党とも別のところにある。だが現在、連合の姿勢が見えづらくなっている。連合は自分たちの支持基盤がどこにあるのかを見つめ直し、旗幟を鮮明にすべきだろう。組織の中での葛藤は十分理解するが、それでは市民社会へのアピールが弱いと言わざるを得ない。市民社会にアピールできないことで労組の影響力が低下していることも否めない。厳しい言い方になるが、連合は自分たちが誰によって評価されているのかを再確認してほしい。

─何をすべきか。

人々は何であれ変化のある方向をめざそうとする。悪い変化ではなく、労働者にとってよい変化を労働組合が積極的に示していってほしい。

具体的には地域活動にもっと積極的に参画すべきだ。ようするにドブ板である。人手不足の町内会や自治会の行事に労働組合がもっと関与してほしい。与党はそうした活動をやっている。イギリスやフランスの労働組合も地域活動に積極的に加わっている。日本の労働組合がかつて有していたそうした機能を取り戻してほしい。地域活動は基礎レベルの民主主義だ。そこから固め直す必要がある。

─今後の政治動向の展望は?

改憲問題は安倍総裁の任期延長と、公明党の動きがカギとなる。今回約24%が野党に入れた公明党内の護憲派に対するアプローチも必要になってくるだろう。

経済問題では、2020年の東京オリンピックが一つの山になり、落ち込む懸念が強い。関連工事受注が終わる18~19年以降は景気が冷え込むと見てもよい。中国の「爆買い」などのような外需だけに頼る構造も持続可能性がない。

安倍政権は景気回復をアピールしているが、政権の政策による結果をきちんと検証する必要がある。要は公共事業の発注による旧来型の成長モデルから抜け切れていない。オリンピック景気頼りになっている。私が自民党の政策担当者だったら、自分たちが政権に就いている間に予算を使いたいだけ使い、かつての政権交代時にやったようにそのツケを次の政権に引き渡すだろう。

私たちは政権・与党の責任を明確にする必要がある。「介護難民」も安倍政権のみならず、1970年代以降の自民党政権が失敗してきたことのツケだ。その責任が明確にされないことで、厳しい労働環境や生活環境が自己責任によるものだとされてしまっている。リベラル勢力再起動のカギは、政府・与党の責任を明らかにし、人びとの抱える困難が自己責任ではないとしっかりと示すことだろう。

リベラル勢力は、市民のために行動すべきであって、組織の維持を優先してはいけない。組織防衛のために行動すればいずれはジリ貧になる。遠回りかもしれないが、市民に寄り添って行動することで多くの支持が集まってくる。今回の選挙でそのことが見えてきたはずだ。

野党共闘とはいえ、すべての選挙で候補者を強引に一本化する必要はない。だが、近い将来行われる可能性のでてきた国民投票の際に、広く共闘できる程度の信頼関係は残しておくべきだ。

リベラル勢力にとって労働組合による組織票の掘り起こしは絶対に必要だ。リベラル勢力にとっての組織票は事実上、労働組合票しかないからだ。リベラル勢力の再起動は労働組合の復活にかかっている。それゆえ皆さんの力の発揮に強く期待している。

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