トピックス2016.10

「働き方改悪」との批判だけではなく戦略的に矛盾を指摘し、具体策を提起する

2016/10/21
労働側は、「働き方改革」で安倍政権の情報発信力の高さに溝を開けられている。政権の矛盾点を突き、具体的な改善案を提起する戦略が求められている。
嶋﨑 量 弁護士
日本労働弁護団事務局長

「改悪」叫ぶだけではダメ

安倍政権の「働き方改革」に対して、「改悪」「だましている」というレッテルを貼って論評すべきではないと思います。例えば「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金」「非正規労働者の処遇改善」などは労働側が従来、訴えてきたテーマです。それ自体、否定すべきものではありません。

今回の動きを労働側が「改悪するだけ」と訴えると、本来、労働側がつながりたいと考えている層からそっぽを向かれる懸念すらあります。安倍政権の訴えが政治的なアピールの側面があるとしても、今の働き方に問題があると考えている「普通の人」には、「働き方改革」は魅力的で前向きなメッセージとして伝わるでしょう。安倍政権の情報発信力の高さを指摘できます。

安倍首相は「非正規という言葉をなくす」と訴えます。ただ、「非正規という働き方をなくす」とは言っていません。ずるい表現だと思います。言葉をなくすだけでは、雇用間の差別はなくなりません。派遣も有期契約も請負も「普通の働き方」になるだけです。それでも、安倍首相の言葉はある種の期待感を抱かせます。私たちも対案を示しつつ情報発信力を高めなければいけません。

労働時間規制の矛盾

労働側には、労働者にプラスになる部分は素直に評価しつつ、矛盾点を指摘したり、具体的で実効性ある規制を提起したりする戦略が求められると思います。

具体的には労働基準法改正案が挙げられます。安倍政権は、36協定の上限規制を検討していると報道されています。しかし、政府が現在提出している労働基準法改正法案を労働政策審議会で議論した際、労働側が勤務間インターバル制度や労働時間の上限規制の導入を求めてきたのに反映させず、「定額働かせ放題」などの規制緩和だけを反映させてきた経緯があることを忘れてはいけません。少なくとも安倍政権が労働側の求めた上限規制を見送った経緯があることを、しっかり認識すべきです。

実効性ある長時間労働の是正策に関しては、野党4党が提出した「長時間労働規制法案」をもっとアピールすべきです。この法案には、勤務間インターバル制度や労働時間の上限規制、労働時間管理の法制化など、労働側が求めてきた項目が盛り込まれています。本気で長時間労働を是正するなら、野党案の方が間違いなく優れています。

安倍政権の「規制緩和」路線

同一労働同一賃金に関しては、安倍政権が労働者派遣法を改悪してきた点を指摘できます。安倍政権は、労働側の反対を押し切り、労働者派遣法の改悪で、不安定・低賃金な派遣労働が拡大する仕組みをつくりました。非正規労働者を増やしておきながら、今度は非正規労働者の底上げしようと訴えています。

安倍政権は旧民主党と旧維新の党などが提出した「同一労働同一賃金推進法案」を骨抜きにしました。昨年9月、つい最近のことです。もともとは、均等待遇に向けて法制上の措置をとる、としていたものを、法制上の措置を含む必要な措置にすればよいと変更しました。さらに施行後1年以内での措置を3年以内に延長させたのも政権与党です。同一労働同一賃金の実効性を弱めてきたのは安倍政権なのです。

これに対して、求められることの一つは、有期契約の「入り口規制」です。正当な理由がなければ有期契約を結べない仕組みの導入を求めるべきです。有期契約から無期契約に転換するだけで、労働者は権利を格段に行使しやすくなります。並行して労働契約法18条の「無期転換ルール」を実効性あるものにすることも大切です。

次に、労働契約法20条の雇用期間に定めのあることによる不合理な労働条件の禁止に関して、立証責任を使用者側に転換することも大切です。また労働者派遣法に関しては、恒常的な間接雇用の使用を認めた現在の仕組みを、少なくとも規制緩和前に戻すべきです。

旧民主党・民進党は、「労働契約法18条の無期転換ルール」「違法派遣での労働契約申込みみなし制度」などを実現してきました。これに対して安倍政権がしてきたのは、「派遣の実質自由化」「均等待遇の骨抜き」です。前者が、期間の定めのない直接雇用に導こうとするものに対して、後者はそれを緩和してきたのであり、実績をきちんと評価すべきです。

労働・雇用でこそ「野党共闘」を

安倍政権は、労働政策決定プロセスの見直しにも言及しています。労働者の声をより反映させることがねらいの一つとされているようです。しかし、果たして本当にそのようになるでしょうか。労働者派遣法や労働基準法の改正案は、労働政策審議会を通ってしまったとはいえ、労働側の委員はこれに強く反対してきました。安倍政権にとって「目の上のたんこぶ」であることは明らかです。にもかかわらず、労働者の声をさらに反映させたいと考えるでしょうか。労働側は一体となって強く警戒してほしいと思います。

安倍政権の提言は、組合員も含めて、魅力的な提言のように見えてしまうのではと危惧しています。労働側は、アピールの仕方をもっと研究・工夫していかなければなりません。

世論が求めているのは、いつも「景気対策」や「社会保障問題」です。これは雇用・労働の問題と密接にかかわります。流行の「野党共闘」にしても、働くことにかかわることでこそ、野党はもっと共闘を強調していくべきです。

「安倍政権」「民進党」の雇用・労働政策の実績比較
安倍政権
  • 労働契約法18条「無期転換ルール」の特例措置(規制緩和)の実施
  • 労働者派遣法の改正(恒常的な間接雇用の導入)→雇用の規制緩和
  • 「同一労働同一賃金推進法」の骨抜き
  • 労働基準法改正法案(定額働かせ放題、裁量労働制の拡大)の提出→規制の緩和
旧民主党・民進党
  • 労働契約法18条「無期転換ルール」の導入
  • 違法派遣における労働契約申し込みみなし制度の導入→直接雇用の促進
  • 長時間労働規制法案(勤務間インターバル制度、労働時間の上限規制、労働時間管理の法制化)の提出→規制による長時間労働是正
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