理不尽がまかり通る職場を「体育会気質」と呼んでいいのか
電通の過労自死の件に関して、鬼十則に代表される同社の「体育会気質」が問題視されている。この言葉の意味と、実態について考えてみよう。
「体育会」と聞くと、嫌な思いがこみ上げてくる。一つは中学時代の部活動のことだ。バレーボール部だったのだが、練習が過酷な上、上下関係が厳しかった。顧問の先生からの体罰もあれば、ヤンキー風の先輩から怒鳴られたり、暴力を振るわれたりすることもあった。
会社でも似たような体験をしたことがある。営業部にいたことが何度かあるが、体育会どころか軍隊的な気質だった。年次や役職の差は電通報道であるとおり、海よりも深かった。エレベーターに乗る順番、食事で箸をつける順番まで厳格に決まっていた。日常的に部署内で怒号が飛び交っている。自分にも矢が飛んできたがそれだけでなく、周りで後輩が叱られ、こき使われている様子を見るだけで、精神的に疲れてしまった。パワハラだけでなく、常に緊張感がある風土自体、精神的につらいものである。この手の話をすると「私も経験した」「そんなものはどこにでもある」という声が出る。組織がきしんでいると感じる瞬間である。
もっとも、これを簡単に「体育会気質」と形容していいのか。体育会系の学生を取材したことが何度もあるが、現在は極めて科学的、紳士的である。試合や練習は動画の録画が行われ、徹底した分析が行われる。作戦会議が何度も開かれる。練習や食生活も科学的な手法が用いられており、筋肉など身体能力を向上させる工夫がされている。
よく体育会を象徴されるものとして上下関係が挙げられる。たしかに今でも存在するものの、幹部は部員のモチベーションを考えている。学年、役職を悪用して怒鳴りつけるようなことをせず、むしろ褒めることに力を入れる。叱り方も工夫する。よく体育会を物語る光景として、激しい飲み会などがあるが、それは弱い部の道楽だ。本気で勝つことにこだわっている部は、少なくともシーズン中は飲酒禁止だ。健康管理もそうだし、酔った勢いでの暴力などの不祥事を避けるためである。
体育会系の部署としてよく挙げられるのは営業部である。しかし、ここでも科学的な手法が導入されている。商談の効率化、ノウハウや営業ツールの共有、受注率や顧客訪問の最適化など営業の生産性を上げるための取り組みがされている。叱るマネジメントはモチベーションを下げてしまう。いかに褒めるかなどの工夫がされている。
つまり「体育会」や「営業部」も変質しているのである。もう昭和ではない。スポーツにしろ、営業にしろ、気合いと根性、厳しい上下関係、理不尽なやり方では勝てない。
上下関係が厳しく、理不尽なことがまかり通る職場を「体育会気質」などと表現するのは、もうやめよう。それは単なる「パワハラ職場」だ。このような職場マネジメントは時代に合わなくなっているし、過労死などを誘発する可能性もある。
職場の改革に向けてこういう職場を「体育会気質」と形容することをまずやめ、今どきの優れた体育会からむしろ学ぶべきである。