トピックス2017.04

トランプ大統領の「分断統治」で代表性が問われるアメリカの労働組合

2017/04/18
アメリカの労働組合は、トランプ大統領にどのように向き合っているのか。トランプ大統領の誕生の背景にある、米・民主党と労働組合の衰退などを識者が読み解く。
篠田 徹 早稲田大学社会科学総合学術院教授

今年1月にアメリカにトランプ大統領が誕生してはや2カ月。この間イスラム系渡航者の入国制限、メキシコ国境での壁建設、国防費の増額、オバマケアの廃止など、選挙公約の実現に向けて忙しかった。だがそれには司法による差し止めや与党の一部の造反が立ちはだかり、オバマケア廃止の頓挫など、トランプ政権の政策実現力に疑問を投げかける声も出始めている。

ではこのトランプ政権に対してアメリカの労働組合はいかなる対応をとっているのだろうか。政権の行方次第で今後の動きに変化が起こる可能性はあるが、とりあえず今まで(3月末)のところをまとめておこう。

分断される労働組合

トランプ大統領は労組にとって手ごわい相手であることは確かだ。トランプ大統領が強調する「アメリカ第一主義」は、今のところ雇用の面で労働者にポジティブなアピール力を持つ。国内企業には事業所の海外移転に対して罰金的な課税で挑もうとする一方、外国企業にはアメリカ国内での雇用増を強く求める。当然こうしたトランプ大統領の姿勢に、製造業を中心に労働者は歓声を上げる。大統領選挙中ヒラリー候補を応援した関係労組も指導者は歓迎の意を示す。

他方で公共セクターの役割を限定し、そこへの資源投入を減らす一方、代わりに民間セクターの力を大いに活用しようとする姿勢も明らかだ。これは最近打ち出された予算の骨格に如実に表れ、当然公共セクターの労組は強く反発している。

もっとも公共セクターの役割に関して、トランプ大統領は選挙中からアメリカの老朽化したインフラの再生に巨額の投資をする姿勢を明らかにしており、これには当然、建設関係労組が歓呼の声を上げ、大統領の支持基盤の一角を成す勢いだ。

その中でトランプ大統領はオバマ政権で止まっていたカナダからアメリカへのパイプラインの建設に再びゴーサインを出した。当然、建設関係労組は仕事が増えるとこれを大歓迎するが、このパイプラインは環境運動とその経路にあるアメリカ原住民のグループが強く反対し、またこれと連携する主に公共セクターの組合もこの決定を非難する。

要するにトランプ政権の手ごわさは、労働者を組織する産業によって利害の異なるアメリカ労組にくさびを打ち込み、敵味方に分断するところにある。

民主党の求心力低下

この点で、最近のオバマケア廃止とそれに代わる法案が、与党共和党の一部造反もあり撤回に追い込まれたことは、労組の分断状況に多少の変化をもたらすかもしれない。一つは、温度差はあれ、オバマケアの廃止を支持しない点で、いまのところ労働界は一致した動きを見せており、法案撤回はその動きにある程度自信と正統性を与えよう。

ただ労働界にとってより影響があると思われるのは、この法案撤回によるトランプ政権の政策実現力への期待値の低下だと思う。というのもそれは製造、建設業労組のトランプ政権へののめり込みに多少ともブレーキをかける一方、この先の保険として、いずれの労組にも労働界の分裂は避ける方向に力が向くと思われるからだ。

もっともトランプ政権の求心力の低下は、すぐさま民主党への期待値の上昇や支持拡大にそのまま結びつきそうにない。

今回の選挙で民主党は、下院議員の3分の1がニューヨーク、マサチューセッツ、カリフォルニアの3州に集まるという、いわば「地域政党」になってしまった。また全体に高齢化が進み、次世代リーダーが育っていない。

これは民主党の人材の新陳代謝で済む問題ではない。その背景にはこの四半世紀ほど共和党の州組織が進めてきた「固定票で勝てるシステムづくり」がある。

アメリカの選挙区割りは10年ごとの国勢調査に基づき州議会が行う。共和党はこの間各地の州議会で着々と多数派を握り、そのたびに選挙区を自党の支持基盤に合わせて変形させ、今や下院の共和党優位はこの先10年以上は揺るがないといわれる。そしてこの共和党の支持基盤は白人であり、その中に労働者も含まれる。

人種による分断

また今回の選挙で共和党は州議会の多数派や州知事の数で、民主党に対して圧倒的な優位に立った。これらの州でこれまでも、そしてこれからもっと進められるのが、「労働権(right to work)」法の導入だ。これは事実上の組合排除法でこれがすでにかつての組合の金城湯池であった中西部の共和党州にも広がる。

この法律と共和党の圧力にさらされている州で、これまで労働界で強固な地盤を誇り、新自由主義や経済のグローバル化の波を直接受けていなかったこれら組織が今、人員を大幅に減らしている。

その結果、民間に比べて働きやすく白人労働者以上に大きく依存していた非白人であるマイノリティーの職場が失われる一方、民営化や予算カットで、組合のみならずそのサービスそれ自体がなくなることで、マイノリティーの生活環境は悪化していく。

これは労働界にとって打撃である。というのも今やアメリカ労組の過半が公共セクターにあり、そこでは民間セクターに比べマイノリティーが占める割合が大きい。

この非白人が集住する都市部の選挙区に彼らを集め、白人が住む郊外や田舎で選挙区をつくり、人口が減っても白人が選出する議員の数は減らさない。非白人が雇用やサービスで依存する公務をカットする。そして民主党を支持する非白人の組織基盤であった労組をなくす。

そして今回の選挙で、この動きに白人労働者が加担する構図がはっきりしたわけだが、それに対する見返りはあまり期待できない。インフラ整備やパイプラインの建設は一時的であり、ウォールストリートの経営者たちが経済閣僚を占めるトランプ政権が、これら白人労働者のもろさをもたらした経済のグローバル化の動きを逆回転させるには限界がある。

民主党・労組ブロックの限界

こうしてみると今回の選挙ではっきりしたのは、これまでアメリカの労働者の支持を労働組合を通じて民主党にもたらすシステムがいよいよ限界にきたことだ。

第二次大戦後のアメリカの労働政治の基本は、大恐慌以後に労組の組織化を民主党が助け、その見返りに労組が民主党を支持するというブロック政治だった。そしてこのブロックは、1960年代前半の公民権運動で労組がマイノリティーに手を差し伸べ、そこを組織化したことや一部がベトナム反戦運動にも関与したことで、地域的にも人種的にも階層的にも広がった。

この民主党リベラルとの広範な提携は、70年代初頭に白人労働者の保守派を「物言わぬ多数派」として取り込み、ニクソンが大統領選挙に勝利したことでほころびが生じる。このブルーカラー層を中心とした白人労働者の共和党志向は80年代のレーガン時代にもっとも顕著となる。

だが、レーガン政権は大規模公共投資で雇用を一時的に増やすが、それは一過性で、新自由主義と経済のグローバル化で保守的労働者が働き住む地域の産業空洞化は加速した。

その後、民主・共和両党の関心は郊外の新中間層へ集まり、この保守的労働者層は再び「忘れられた」。この彼らに再び時代のスポットライトを当てたのがトランプ戦略だったわけだが、今度はそれが民主・労組ブロックの終焉につながるかもしれない。

ただ、トランプ大統領の誕生が労組に一番衝撃だったのはおそらく、たくさんの組合員や労働者が労組の声に耳を傾けなかったことだろう。確かにこれまで労組が動員できる票は組合員の7割前後が精いっぱいだった。それでも前は組織人員がもっと多く、分布も広かった。この間組織率が減退したアメリカで、労組は労働者の代表といえる状況から遠ざかった。そして今度は、労組が組合員を代表しているかという疑問符が膨らみ始めている。

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