10年前の新入社員はどうなった?働き方改革を振り返ってみる
私が玩具メーカー時代に採用にかかわった若者たちと再会した。彼らも、社会人10年目。皆、活躍している。その会食に参加したうちの一人は、同期だけでなく全社を見渡してみてもスピード出世しており、この春からは香港に赴任するそうだ。
約10年前の、私が採用担当者だった頃を思い出してみた。時代の空気感が現在と驚くほど似ている。当時は空前の売り手市場でリクルートワークス研究所が毎年発表している新卒求人倍率は2.14倍。東京ドームで合同説明会が開かれていた。各社とも採用にお金をかけていた。内定者接待も豪華で、グランドハイアットなど高級ホテルの宴会場を使う企業もあった。
各社の訴求ポイントも現在と似ている。どの企業もグローバル展開、新規事業展開、そして今でいう働き方改革だった。日本経済が低成長の時代に入る中、国内の市場だけではやっていけない、希望は海外と新規事業だとあおられていた。特に玩具業界にとっては、日本社会で進む少子化は、致命的な現象であり、これらに活路を見いだそうとしていた。
働き方においては、女性にとって働きやすい環境かどうかが論点となっていた。厚生労働省の「くるみんマーク(子育てサポート企業として認定された企業の証し)」が話題となっていた。特に「くるみんマーク取得企業を選ぶように」と就職指導していた大学もあった。女子学生に対して、働きやすさを訴求する企業が続出し、しまいには、女子学生限定で、東京ドームで合同説明会が開かれたほどだった。
あれから約10年。相変わらず日本企業にとってこれは大きなテーマであり続けている。もちろん、それぞれの言葉の意味、重さも以前とは変化している。とはいえ、これらに対する取り組みは不十分で何らかの壁があったとも言えないか。
当時、私は採用担当者として、「これからウチは国境、世代、分野を超えて、エンタメを仕掛けていく。多様な社員が活躍する企業だ。一緒に働かないか」と若者に熱く語りかけ、口説いていた。私は嘘つきになってしまった。言っていたほどはうまくいっていない。海外売上比率はむしろ下がってしまった。新規事業で当たったものはほぼない。女性社員は増えたし、生え抜きの女性役員が登場するなどした。外国人社員も増えた。ただ、まだまだこれからだ。ラッキーなことに(そして、皮肉なことに)、この先は厳しいと思われていた本業の子ども向け玩具はむしろ絶好調だ。もっとも、キャラクターの変身グッズに関連するパーツを何個も売るような、親御さんの財布からしぼりとるような厳しい商売になっているようにも見えるが。
ついつい前へ前へと進んでしまう世の中だ。今後の取り組みも結構だが、これまで何がダメだったのかを振り返るべきである。
私は彼らを「だまして」採ってしまったかもしれない。しかし、嘘から出るまこともある。海外赴任する彼は、海外シェアアップへの決意を固めていた。他の人も午後9時までには会社を出る生活を実践していた。彼らが会社と社会を変えていくことを信じたい。