特集2017.05

日本人として向き合う在沖米軍基地問題沖縄県は国とどう向き合えばよいか吉田勝廣氏に聞く

2017/05/17
国は、辺野古新基地建設の強硬姿勢を崩さず、強引な手法で工事を進めている。沖縄県はこれにどう対応していくべきか。沖縄県の米軍基地問題に精通している吉田勝廣氏に聞いた。
吉田 勝廣 (よしだ かつひろ) 1994年から金武町長を2期務めた後、2002年から沖縄県議会議員を4期務めた。

─吉田さんが辺野古新基地建設に反対する理由をお聞かせください。

端的に言うと基地の過重負担です。沖縄には日本にある米軍専用施設の約70%が集中しています。それなのに、辺野古に新しい基地をつくるのはおかしいというのが基本的な姿勢です。

沖縄には米軍基地から派生するさまざまな被害があります。殺人事件や暴行事件、山火事や自然破壊─。

基地の存在が、沖縄経済の阻害要因になっているという理由もあります。基地は沖縄の主要産業である観光業の成長を妨げます。例えば、北部地域で言えば、きれいな海岸線が米軍の施設下に入っていますし、辺野古の海岸も開発可能性が非常に大きい場所です。また、物流ハブ機能にとっても、基地のある場所が重要な位置を占めています。

一方、基地の跡地は民間活用されて、経済振興につながっています。県のGDPに占める米軍基地関連収入はわずか5.7%です。

このような状況を踏まえると、基地は過重負担で被害をもたらすだけではなく、沖縄経済の阻害要因にもなっています。

─民意をどのように捉えていますか。

名護市長選挙や沖縄県知事選挙、国政選挙などで沖縄県民は辺野古への新基地建設にNOという意思を示してきました。また、「建白書」でも沖縄は、オスプレイの配備などの撤回を求めてきました。沖縄県は、こうした民意を受けて、国と交渉していくべきだと思います。

─国は強硬姿勢を崩していません。

私は金武町の町長を務めていた頃から約20年間、基地問題に携わっていますが、かつては小渕総理や梶山官房長官など、沖縄に寄り添おうとする閣僚や官僚がいました。橋本総理は、沖縄県民の頭越しに物事を決めないと明言し、県民の理解を得られない基地は存在できないと述べました。

いまでは、その態度が180度転換して、何が何でも基地を建設するのだと。その強引さに沖縄県民は我慢できないと訴えています。かつての稲嶺知事は沖縄県民にはマグマが潜んでいると言いました。強権的な国の姿勢が続けば、そのマグマはいつ爆発するかわかりません。

マグマが爆発すれば約143万人の沖縄県民が約2万5000人いるとされる米軍人と向き合うことになります。そうならないように政府は考えるべきです。

安倍総理は強引すぎます。沖縄県民の民意を大事にしていません。そういう環境の下でつくられる基地は、長い歴史の視点に立てば、絶対に長持ちしません。要するに合意がないからです。それは、「銃剣とブルドーザー」によってつくられた基地に対する反対運動を見ても明らかでしょう。

─国に対してどのように交渉をすべきと思いますか?

基本的には魔法の一手はないと思います。現場の皆さんと行政が一緒になって方向性を見いだして、民意を実現していくのが、県に与えられた使命だと思います。

翁長知事が言うように、保守・革新の時代ではなくて、沖縄のアイデンティティーを実現していくことが大切です。そのためには、沖縄の魂。沖縄で言う「ちむぐくる」(情け、心の優しさ)、「いちゃりばちょーでー」(一度会ったらみんな兄弟)、「ぬちどぅたから」(命は宝)という、ある意味では非武装の精神。それを世界や県外の皆さんに訴えてほしい。対話を通じて物事を解決していくということです。

─翁長知事は埋め立て承認の撤回も視野に入れています。

承認撤回のためには、相当な議論が必要です。大衆的な議論も考慮して検討してほしい。

「辺野古訴訟」で沖縄県が敗訴したといっても、その内容は埋め立て承認の取り消しを巡るもので、ほかにもたくさんの問題点があります。そのことを皆さんに理解してほしいです。

県としては、あらゆる手段を通して対応していくとしていますが、それは沖縄県民の民意を実現するためのものであって、政府に対峙するものであってはならないと思います。

─県民投票を実施すべきという意見も出てきています。

県民投票は、県民からそれを行うべきという声が盛り上がってきて行うものだと思っています。

─国との交渉の上で、世論喚起も重要になると思います。

皆さんに知ってほしいことの一つは、沖縄振興予算のことです。この予算が、沖縄県にだけ上積みされていると言われることがありますが、それは間違いです。この予算は、他県であれば各省庁に個別に計上する費用なども、内閣府沖縄担当部局が一括して計上する仕組みになっているだけで、その金額が交付金や補助金に上積みされているわけではありません。これは沖縄が米軍施政下に置かれていたため、各省庁に直接予算を要求する機会がなかったことなどを踏まえてつくられた仕組みです。

もう一つは、辺野古の新基地は、永続的に使われる基地だということです。これでは過重負担は解消されません。昨年12月にオスプレイが墜落したように、基地があることで起きる事件・事故が後を絶ちません。沖縄が強いられている現状を理解してもらいたいと思います。

そのためには、アメリカに対しても沖縄から直接訴えかけを行ってほしいです。日本を守るために駐留している米兵・米軍属による事件・事故が長年にわたり繰り返されています。そういうことをきちんと訴えていくことも大事だと思います。

─昨年4月にうるま市で起きた女性殺害事件の遺棄現場に毎週足を運んでいますね。

私は約30年間、議員や町長などを経験してきましたが、その間に事件・事故がたくさん起きました。被害者の方や被害者遺族の方とも接してきました。その都度、米軍などに抗議してきたけれど、それでもなお、このような痛ましい事件が起きてしまった。責任を果たせなかったという思いと、これ以上、犠牲者を出してはいけないという決意を込めて行っています。

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