日本人として向き合う在沖米軍基地問題「辺野古訴訟」の問題点はどこに?判決の問題点と国の強行手法を解説
私人を装った沖縄防衛局
辺野古沿岸を埋め立てるためには、公有水面埋立法に基づく知事の埋め立て承認が必要です。沖縄県の仲井真知事は当初、承認に反対していましたが、2013年12月に埋め立てを承認しました。
その後、2014年11月に新基地建設反対を公約とした翁長知事が誕生しました。翁長知事は翌年10月、第三者委員会の報告書に基づいて埋め立て承認を取り消しました。
国は、この承認取り消しに対して、次のような対応をしてきました。
一つは、沖縄防衛局が行政不服審査法に基づく承認取り消しに対する審査請求と、その結論が出るまでの間、処分の効果を止めるための執行停止申し立てを行いました。これに対して埋立法を所管している国土交通大臣は2015年10月、執行申し立てを認め、承認取り消しの効力を停止する判断を下しました。国はこれにより工事再開が可能になりました。
ここで問題となるのは、沖縄防衛局が国土交通大臣に対して申し立てをしたことです。行政不服審査法に基づく審査請求や執行停止申し立ては、国民の権利を守るための制度であって、行政機関は利用できないというのが通常の理解です。にもかかわらず、沖縄防衛局は私人を装って、国から国民を守るための制度である行政不服審査法に基づく審査請求を利用して国土交通大臣に申し立てた。これは、原告と裁判官が同じ裁判のようなもので、明らかにおかしい行為です。
翁長知事は2015年12月に国地方係争処理委員会に審査の申し立てを行いました。しかし、国地方係争処理委員会がこの申し立てを認めなかったため、翁長知事は執行停止決定を取り消すための訴訟を起こしました。
強引な代執行手続き
もう一つの問題は、国土交通大臣による代執行手続きです。
代執行手続きは、「代わりにやる」ということ。ここでは国土交通大臣が、翁長知事に代わって承認取り消しを取り消す手続きをするということです。
1999年の地方自治法の改正により、国と地方は対等であると位置付けられました。そうした大前提から、代執行手続きは、例外中の例外の手続きとされています。今回の場合は、沖縄県民がまったく納得していない状態で、国は代執行手続きを始めました。これはさすがに無理筋だと私も何度も主張してきました。国は代執行手続きを行うために2015年11月、福岡高裁那覇支部に翁長知事の承認取り消しの取り消しを求めて提訴しました。
この二つの訴訟に対して福岡高裁は2016年3月、和解勧告を行いました。その内容は、国と沖縄県がともに訴訟を取り下げ、地方自治法に定めのある是正の手続きにのっとって解決するというものでした。
この和解は成立しました。国側としても、代執行手続きや行政不服審査法に基づく審査請求は無理筋だと判断したのでしょう。これは私の推測ですが、裁判所は強硬な代執行手続きなどを採るより、地方自治法に基づく是正指示を利用した方が、国は勝てると助言したのかもしれません。
「辺野古訴訟」の問題点
その後、国土交通大臣は2016年3月16日、翁長知事に対して承認取り消しの取り消しを求める是正の指示を地方自治法に基づいて行いました。翁長知事はこれに対して国地方係争処理委員会に審査を申し出ました。
この申し出を受けた係争処理委員会は、国と沖縄県の協議による解決が必要だとする決定を出しました。しかし、その後、国は翁長知事が是正指示に従わないのは違法だとして、不作為の違法確認訴訟を福岡高裁那覇支部に提訴しました。
この訴訟がいわゆる「辺野古違法確認訴訟」です。この訴訟に対する福岡高裁の判決はとてもひどいものでした。裁判所が国の意向を忖度したというより、国に成り代わって下したような判決でした。その内容を説明していきましょう。
福岡高裁の判決は、まず、普天間基地の危険除去のためには辺野古新基地建設が唯一の選択肢だと断定しました。だから辺野古の埋め立ては合理的であり、仲井真知事の承認は違法ではないから、それを取り消した翁長知事の行為は違法であると判断したのです。
この判決のおかしさは、辺野古移転を唯一の選択肢としたこともそうですが、審理の対象をすり替えたことにあります。この裁判は本来、翁長知事の承認取り消しの違法性を審理するものでした。しかし、福岡高裁は仲井真知事の承認に違法性はないと判断しただけで、翁長知事の行為の違法性は審理しなかった。承認と承認取り消しは別個の行政処分です。この裁判では、翁長知事の行為の違法性を問わないと筋が通らないのです。
少し専門的な話になりますが、承認や承認取り消しなどの行政処分には、裁量行為と非裁量行為があります。裁量行為は、裁判所から基本的に尊重されます。なぜかというと、裁量行為とは政策的・専門的判断が必要な行為だからです。そのため裁判所はその行為に裁量権の逸脱・乱用がない限り尊重します。
今回の埋め立て承認という行政処分は、典型的な裁量行為です。そのため、その処分に裁量権の逸脱・乱用がなければ、その判断は覆せないことになる。従って、今回のように仲井真知事の埋め立て承認を審理の対象にすれば、その行為は尊重されることになり、翁長知事が勝訴することは難しくなります。
ですが、翁長知事の承認取り消しを審理していたらどうでしょう。翁長知事の裁量権が尊重されて、国が敗訴した可能性は非常に高くなります。私は裁判所が意図的に審理の対象をすり替えたのではないかと考えています。この判決の考え方に立てば、裁量行為の職権による取り消しはほとんどできないことになってしまいます。この訴訟の最大の問題点はここにあります。
最高裁は、この福岡高裁判決をそのまま認める判決を2016年12月に下しました。ですから、高裁判決への批判はそのまま最高裁判決にも当てはまります。私は福岡高裁の判決には重大な誤りがあるので、破棄されるべきだと考えています。これらの判決で辺野古の問題が解決したとするのは間違いです。
承認撤回と県民投票
翁長知事は埋め立て承認の効力を将来に向けて撤回することを視野に入れています。承認の取り消しと撤回は別個の行政処分ですから、最高裁があのような判決を下しても、撤回を行うことは当然可能です。
翁長知事が承認を撤回すれば、取り消しの時と同じような訴訟に発展するでしょう。その際、裁判所は今度こそ翁長知事の行為を審理しなければなりません。
その裁判で最も大きな問題となるのは、撤回には、相手側、この場合は国の不利益を上回るだけの公益上の必要性が求められるということです。国の政策といえども、国と地方は対等であるという大前提の上では、国は地方の同意がない施策を強引に進めることはできません。私は、それを示すために県民投票を実施すべきだと思います。この間の選挙で民意は十分に示されているという意見もありますが、選挙での民意が無視されてきた経緯を踏まえれば、裁判で負けてしまう可能性があります。県民投票という新しい形で民意を示すことにより、綿密に論証しなければなりません。
この県民投票は、住民の直接請求により行うべきです。労働組合の皆さんに期待するのは、この運動を支えることです。沖縄県外の皆さんもこれを日本全体の問題だと受け止め、沖縄の運動を支えてほしいと思います。
2013年12月27日 | 仲井真知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認 |
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2014年11月 | 県知事選で翁長知事が当選 |
2015年10月13日 | 翁長知事が埋め立て承認を取り消し |
2015年10月14日 | 沖縄防衛局が国土交通大臣に承認取り消しの審査請求と執行停止を申し立て |
2015年11月17日 | 国が福岡高裁那覇支部に承認取り消しの取り消しを求める訴えを提起 |
2015年12月25日 | 翁長知事が執行停止決定の取り消し訴訟を提起 |
2016年3月4日 | 福岡高裁那覇支部で国と沖縄県の和解が成立 |
2016年3月16日 | 国が翁長知事に承認取り消しの取り消しを求める是正の指示 |
2016年7月22日 | 国が翁長知事に対して不作為の違法確認訴訟を提起 |
2016年9月16日 | 福岡高裁那覇支部で沖縄県側が敗訴 |
2016年12月20日 | 最高裁で沖縄県側の敗訴が確定 |
最高裁で敗訴したから移設を認めるべき?質問に沖縄県が回答
沖縄県は今年4月17日、沖縄の米軍基地の疑問をわかりやすく解説する『沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Book』を発行した。Q&A形式で基地にまつわる疑問に回答している。
「辺野古訴訟」にかかわる項目では、「沖縄県は最高裁判所で敗訴したのだから、辺野古移設を認めるべきではないのですか」との質問に対して県は次のように回答している。
「この訴訟では、前知事の埋立承認処分が適法であり、現知事がその承認を取り消した処分が違法であることは確認されましたが、この判決が確定したからといって、辺野古に新基地を造るかどうか、普天間飛行場を辺野古に移設するかどうかといった大きな課題に決着がついたわけではありません」
その上で「この最高裁判決は、数ある知事権限の一つについて判断が示されたに過ぎません」とし、辺野古新基地建設に関する知事の権限は、その他にもいくつもあるため、県は公有水面埋立法や沖縄県漁業調整規則に基づく手続きなどの手続きが申請された場合は、法令にのっとって適正に審査を行い、対応していくとしている。
冊子ではこのほか「米軍基地と引き換えに沖縄振興が図られているのではないですか」「沖縄県が、辺野古への移設を反対すると、普天間飛行場の危険が放置されるのではないですか」などの質問に回答している。
冊子は沖縄県のウェブサイトで公開されている。