特集2017.05

日本人として向き合う在沖米軍基地問題沖縄は「へこたれんぞ」「くたばらんぞ」非暴力の運動を貫き通す

2017/05/17
辺野古新基地建設反対運動を推進する、「オール沖縄会議」の共同代表である稲嶺進名護市長に、現状の課題や今後の運動の展望などを聞いた。政府の強行的な手法に対して、運動を推進する人たちは、へこたれていない。
稲嶺 進 辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議共同代表
名護市長

─この間の沖縄県民の民意の変化をどのように捉えていますか。

2013年12月に当時の仲井真知事が辺野古の埋め立てを承認した頃から、沖縄県民の怒りは急激に高まってきたと思います。

その後、翁長知事が埋め立て承認を取り消し、裁判が行われましたが、福岡高裁の判決は国の言い分をそのまま引用したような、理解しがたい内容でした。最高裁もその判決をなぞるような判断を下しました。

三権分立で人権を守る最後の砦であるはずの裁判所がこうした判断を下したことに対して沖縄県民は、裁判所に対する不信感を高めるとともに、司法にすら圧力をかける政府の姿勢を見て、民主主義や地方自治への危機感を高めています。

─国は基地建設に対する強硬姿勢を強めています。

日本全体の民主主義・地方自治が問われていると思います。沖縄は日本の国土の一部であり、沖縄県民は皆さんと同じように日本国民です。にもかかわらず、基地が沖縄に集中しているのはおかしい。国防は国全体で考えるべき問題だと申し上げたい。

国が、地方や個人を力でねじ伏せるようなやり方は、今は沖縄だけに向けられているかもしれません。しかし、憲法解釈をねじ曲げた安保法制や「テロ等準備罪法案」の手法を見ると、それがいつ他の人々に向けられるかわかりません。これは日本全体の問題であると気付くべきだと思います。国のあり方が問われていると思います。

─反対運動が長引くほど、運動に対する求心力の持続が課題になりそうです。

沖縄に対する政府の強引なやり方は、今に始まったことではありません。沖縄は、薩摩の侵攻から力でねじ伏せるという国のやり方に翻弄されてきました。それでも、沖縄の人々は、心まで売ることはなかった。そういう運動が脈々と引き継がれてきました。それを若い世代に引き継いでいくことが運動の基盤を強固にすると思います。

力を振りかざす権力がこれ以上、出てこられなくなるまで、非暴力の運動を貫きたいと思います。

一方で、基地問題に無関心だったり、基地を容認する人もいます。そうした人たちに訴えたいのは、基地経済によって、沖縄の経済力は他府県並みに高められたかということです。普天間や辺野古はかつて基地の街として繁栄していましたが、今は軒並み衰退しています。基地経済がもう一度、街を救ってくれるかというと、そのようなことはありません。

また、国の振興策も投資された予算は一部に流れて、一時的な効果しかもたらしていません。沖縄の戦後、本土復帰後の歴史を振り返れば、こうしたことがわかります。基地に頼った経済は、数年後には「こんなはずではなかった」という後悔を招きます。容認派の人たちには、これらのことを伝えていきたい。

─経済の問題も避けては通れません。

「棚からぼた餅」を頼りにするのではなく、自分たちの力で頑張ることも大切だと思います。地域の力を取り戻すために市では、「ちばる(頑張る)地域提案事業」を展開して、住民の提案や行動を行政としてバックアップする事業に取り組んでいます。地域の力を生かすことが地域を元気にすることだと思います。

─国にはどのように対応を?

知事と同じように市長にも地方自治法上の権限が与えられています。30年後、50年後の自分たちの地域のことを考えて、どのように行動していくべきか、決断していくべきかという視点が求められると思います。

─鶴保沖縄北方相が4月11日、基地問題に関して「(反対の声を上げて)気持ちよかったねというだけで終わっていたのでは、これは意味もないですよね」と発言しました。

霞が関などでは、「沖縄を甘やかすな」という声もあると聞きます。このような発言が出てくるのは、そうした人たちが歴史を知らないからだと思います。

日本の敗戦後、サンフランシスコ講和条約で奄美以南の島は、米軍の占領下に置かれ、基地が集中するようになりました。国は、それを抑止力のために必要だと言ってきましたが、これは裏を返せば、沖縄に基地を押し付けたことによって日本は守られてきたということです。日本社会は、こうして沖縄に基地を押し付けている間に経済成長を勝ち取ってきました。だとすれば、沖縄は感謝されこそすれ、甘やかすという発想にはならないはずです。

東京を中心としたメディアは、沖縄の出来事を多く伝えません。これが、無関心層を生んだり、反対しても仕方ないという容認派を生んだりしているのではないかと思います。オスプレイが墜落してもすぐに忘れられてしまう。県外への発信をもっと考えないといけません。

─アメリカに対する働き掛けについては?

アメリカの議員にこの問題を働き掛けに行った当初は、「沖縄には2000人くらい人が住んでいるのか」と聞かれたこともありました。ショックを受けましたが、それくらい沖縄の問題が知られていない。このようになるのは、日本政府が事実を伝えていないからです。政府がやらないのならば、自分たちでやっていく必要があります。議員だけではなく、人権や環境問題に取り組んでいる団体などに働き掛けていくつもりです。

─翁長知事が埋め立て承認の撤回に言及しています。今後はどのような運動を展開していきますか?

あのような最高裁判決が出てしまったので、撤回という方法を取らざるを得ないと思います。これまでの裁判所の姿勢からすると、あまり期待できないところもありますが、撤回によって、埋め立てを認めないこと。国がこれだけ強引に強権を振りかざしても、沖縄は「へこたれんぞ」「くたばらんぞ」と強く見せることが大事だと思います。

力を持っている強い者との闘いでは、諦めないことが大切です。運動を脈々と続けることで権力を思いとどまらせる。社会正義が勝利をもたらすということを訴えていきます。

行政サイドとしては、現状の問題から目をそらしては必ず後悔してしまうことを訴えつつ、将来に禍根を残さないために、市民の皆さんの思いを受け止めて、実行に移していきたいと思います。

─全国の組合員にメッセージを

皆さんの応援が、自分たちは間違っていない、思いを一つにしている人たちがこれだけいるという、自信と励みになっています。これからも、同じ土俵にいる仲間という共通の思いで、力を貸してほしいと思います。

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