特集2017.05

日本人として向き合う在沖米軍基地問題南西諸島への陸自配備の狙いは?背景にある陸上自衛隊の「リストラ問題」

2017/05/17
防衛省は石垣・宮古島などの南西諸島への陸上自衛隊配備を進めようとしている。対中国を念頭に置いた動きだが、どのように読み解けばいいだろうか。
植村 秀樹 流通経済大学教授
専門は国際政治学、安全保障論。著書に『暮らして見た普天間─沖縄米軍基地問題を考える』(吉田書店)、『自衛隊は誰のものか』(講談社現代新書)など多数

自衛隊の「南西シフト」

防衛省は2013年の新防衛大綱で「南西地域の防衛態勢の強化、防衛力装備を優先する」という「南西シフト」を打ち出し、宮古島、石垣島などに陸上自衛隊の配備を進めようとしている。自衛隊は元々、航空自衛隊が宮古島にレーダーサイトを持っているだけだった。それが対中国を念頭に、「南西シフト」と「海空重視」の戦略を採るようになった。

これには二つの要素があると考えている。一つは、中国の動きをけん制する狙い。もう一つは、陸上自衛隊の新しい存在意義を示すという狙いだ。

自衛隊は元々、ソ連が北海道に侵攻してくることを想定して主力部隊を北海道に置いていた。しかし、米ソ冷戦が終結したことで、陸上自衛隊は規模の縮小が続き、加えて、「南西シフト」で「海空」が重視されるようになった。今回の陸上自衛隊の南西諸島への配備計画は、こうした中で陸上自衛隊が自分たちの新しい仕事をつくるというニュアンスもある。「新しい仕事」を見つけないと「リストラ」されてしまうからだ。

陸自配備の必要性

このような陸上自衛隊の配備が防衛上、本当に必要なのかきちんと見極める必要がある。最も気掛かりなのは、地域の問題だ。今回の配備計画では、石垣島や宮古島に地対艦ミサイルや地対空ミサイルの部隊が配備されることになっている。これは、防衛上の必要性というより、シンボル的な意味合いの方が強い。私は、むしろこの「前線」へのミサイル配備が相手の強硬派・軍拡派に口実を与えることにもなりかねないと考えている。南西諸島という「前線」にミサイル部隊などを配備することは、相手の喉元に銃口を突きつけるような姿勢にも受け取られかねない。また、緊張度が高い地域で偶発的な事態を招いてしまわないとも言い切れない。そうした地域にあえて陸上自衛隊を配備する必要性については、陸上自衛隊の新たな仕事づくりという側面を割り引いて考える必要がある。

地理的には一歩引きながら、一方では、九州・沖縄全域を守備範囲にして、演習やパトロール、情報収集を強化し、万が一の時には対応できる姿勢を示し、抑止効果を発揮する方が、外交・軍事の視点からすれば合理的であると考えている。

もちろん、国民を守ることは政府の義務だから、中国の脅威に対応する必要はある。住民の不安を払しょくするために、すでに対応を強化している海上保安庁の行動に加えて、自衛隊の対応も求められるだろう。レーダーサイトなどによる情報収集も不可欠だ。こうした対応はある程度、理解できるとしても、陸上自衛隊の配備が本当に必要なのかは、国民は監視の目を持っておくべきだろう。

「沖縄戦」の不安

自衛隊が配備されたとはいえ、自衛隊が、南西諸島の島が万が一にも敵国に占領された場合に対応できるかといえば、まったくそうはなっていない。仮に島で戦闘が起きた場合、自衛隊は住民を避難させる必要があるが、そのような避難計画は整備されていない。住民を島に残したまま戦闘が始まれば、かつての沖縄戦のようになってしまう。自衛隊の内部文書にも、南西諸島への対応が整備されていないことがはっきり書かれている。自衛隊が配備されることで、攻撃の対象になるという住民の不安はその通りだと思う。一方で、自衛隊の配備を容認する声があるのも事実で、世論が割れている。

自衛隊配備を容認する人たちの中には、自衛隊配備による経済効果に期待する声もある。だが、原発立地自治体と同じように補助金に頼る自治体運営は後戻りが難しい。北海道の陸上自衛隊も同じで、ソ連崩壊後から規模の縮小が図られているが、地域の事情もあって、うまくいっていない。軍事的合理性が重視されているとは言い難い状況だ。

基地を一度置いてしまうと、それをなくすことは難しい。小さい島だけあって自衛隊の配備が住民に与える影響は大きい。与那国島は人口約1500人のところに約150人が配備されている。石垣・宮古島の人口はそれぞれ約5万人程度だが、影響は無視できないだろう。

将来の配備転換なども含めて、どこにどれくらいの部隊を配備するのが合理的なのか。資源の分配として、日本全体で考える問題だ。専門家でも容易に答えの出せる問題ではないが、そのような視点で問題を捉える必要があると思う。

陸上自衛隊の南西諸島への配備は、普天間基地の海兵隊移転とは直接的な関連性はない。沖縄の海兵隊は、南西諸島を防衛するために配置されているわけではなく、米国の世界戦略のために配備されているからだ。

安倍政権は国家安全保障会議を創設し、国家安全保障戦略をつくったが、その内実は米軍との関係強化をうたうものばかりで、非軍事・外交分野では目新しいことは何も書かれていない。災害救助の合同訓練を近隣諸国と実施するなど、信頼醸成を図る方法もあるので、検討していくべきだ。

南西諸島への自衛隊の配備計画
参考:朝日新聞2017年3月27日朝刊
特集 2017.05日本人として向き合う在沖米軍基地問題
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