「働き方改革実行計画」への連合の対応
関連法案の議論にこう臨む
「働き方改革実行計画」への評価
政府は3月28日、「働き方改革実行計画」をとりまとめました。今回は「実行計画」に対する連合の評価をお話しした上で、今後の法改正に向けた動きと連合の考え方を説明していこうと思います。
同一労働同一賃金や労働時間の上限規制の導入は、連合が長年訴え続けてきた課題です。こうした政策が社会的に議論され、「働き方改革実行計画」として結実したことの意義は大きいと考えています。
政府は昨年12月、同一労働同一賃金に関するガイドライン(案)を示しました。課題は整理されていましたが、現場を知っている私たちからすると、さらにブラッシュアップする必要があると考えています。例えば、ガイドライン(案)は、扶養手当や退職金のことには触れていません。今後はこうしたことを検討する必要があります。
次に長時間労働の是正に関してです。罰則付き時間外労働規制の導入に労使が合意したことは、労働基準法70年の歴史において大改革であることは間違いありません。加えて、「時間外労働の限度基準」の適用除外業務である自動車の運転業務や建設事業を規制対象とする道筋がつけられたことも前進だと捉えています。
こうした合意に至ったのは、働き方改革実現会議の中の議論だけではなく、全国過労死を考える家族の会や民進党の国会議員などの人たちが、国会内外でアピールしてきたことが後押しとなって実現したものと考えています。
今回の実行計画は大きな節目であることは間違いありません。とはいえ、ようやくスタート台に立ったところに過ぎません。この実行計画に魂を注入し、次の見直しに向けて仕込みを始めることも今から取り組んでいかなければなりません。
同一労働同一賃金にかかわる法改正
次に、法改正にかかわる動きを説明します。
同一労働同一賃金に関して「実行計画」は、パートタイム労働法と労働契約法、労働者派遣法の三つの法律の改正を図るとしました。
実行計画は、「ガイドライン案に記載していない待遇を含め、不合理な待遇差の是正を求める労働者が裁判で争えるよう、その根拠となる法律を整備する」ことを盛り込んでいます。連合は、その実効性が担保されるように訴えていきます。
議論のポイントの一つは、労働者に対する待遇説明の義務化です。「実行計画」は、パート労働者などからの求めがあった場合、その労働者と比較対象となる労働者との待遇差の理由などを説明する義務を事業者に課すことにしました。連合は、働き方改革実現会議の議論の段階から、その待遇差の合理性の立証責任を使用者が負うべきであると主張してきました。法改正への議論にあたっても引き続きこのことを訴えていきますが、説明義務が盛り込まれること自体は、労働者が裁判で待遇の不合理性を立証する観点から重要なものです。そのため、説明義務違反に対する制裁措置の法定化や、説明義務が適切に履行されなかった場合には、それが司法判断で不合理性を基礎付ける重要な要素となるという解釈をとるといった履行確保措置の導入を訴えていきます。
時間外労働の上限規制
次に時間外労働の上限規制に関してです。実行計画では上限規制のルールを次のようにしました(表)。
報道では表中(3)の「単月100時間未満」が強調されてしまいました。しかし、時間外労働の上限規制は、あくまでも「これ以上働かせてはならない」という水準です。「ここまで働かせてよい」という誤解を生じさせないことが極めて重要です。
連合と経団連は、「特別条項」を適用する場合でも、上限時間水準までの協定を安易に締結するのではなく、月45時間、年360時間の原則的上限に近づける努力が重要であるとすることで合意しました。実行計画では、この点に鑑みて、労働時間の延長を短くするため、労働基準法に新たに指針を定めることとしています。この指針に関して連合は、時間外労働の削減に向けた労使の自主的な努力義務を規定することが必要だと訴えています。
「36協定」への理解を促す
上記の(4)に関して、時間外労働が月45時間を超えない月に関しては、休日労働を含まないとする「抜け穴」があると指摘されています。連合は労働条件分科会の中で、「休日労働」を悪用させないよう訴えています。
また、ここで言う「休日労働」は、あくまで「法定休日」のことです。企業別労働組合などでは、「法定休日」と「法定外休日」をまとめて、「休日労働」として労働協約を適用しているケースもあると思いますが、法的には要件が変わってくるので、正しい理解を周知していくことが大切だと訴えています。
さらに、これまでの議論で明らかになったのは、36協定の周知が不足していることです。36協定の存在を知らない使用者も少なからず存在し、こうした事態を変えていくことがとても重要だと考えています。具体的には、法令の周知指導の徹底・強化のほか、労働基準監督官の増員も求めていきます。
また、36協定の締結当事者である「過半数代表者」の約4割で不適切な選出が行われているなどの実態にあります。時間外労働規制の実効性担保のためには36協定の適正化が必要であり、過半数代表者の選出手続の厳格化・適正化等を求めていきます。
このほかにも重要な課題があります。時間外労働規制の実効性の担保のためには、労働時間を適正に把握することが不可欠です。管理監督者やみなし労働時間が適用される労働者を含むすべての労働者の労働時間を適正に把握する仕組みが必要です。
今回、適用除外とされた新技術・新商品開発などの研究開発業務に従事する労働者ですが、その範囲を安易に拡大させないことが重要です。研究開発の部署にいるだけで、指示を受けながら働いている人を当てはめるべきではありません。
今後の取り組み
同一労働同一賃金に関する法改正も、時間外労働の上限規制に関する法改正も6月上旬まで労働政策審議会で議論していく予定です。秋の臨時国会での法案提出が想定されています。
一方で、政府は、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大を含む労働基準法改正法案を国会にすでに提出しています。これらの制度は、長時間労働を助長しかねないことから、その是正が不可欠との立場で臨んでいきます。
今後に向けては、政府や政党への要請行動や、36協定に関するウェブ上などでの情報発信などを行い、連合の求める政策の実現をめざします。
働き方改革はスタート台に立ったばかりです。現場の労使が知恵を絞って、働き方を変えていくことが何よりも大切です。