トピックス2017.07

解雇の金銭解決制度は不要
制度導入は労働市場に悪影響

2017/07/21
厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が5月29日に報告書を取りまとめた。検討会は、解雇の金銭解決制度などを1年半にわたって議論してきた。検討会に参加してきた村上陽子・連合総合労働局長に話を聞いた。
村上 陽子 連合総合労働局長

制度の導入は必要ない

「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」

厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が5月29日に報告書をとりまとめた。検討会は1年半かけて、「解雇無効時における金銭救済制度」などを検討した。検討会は、労働者が金銭の支払いを請求できる権利を実体法に規定する案などを提示して、解雇無効時における金銭解決制度を検討したが、コンセンサスを得るには至らなかった。連合は5月30日に事務局長談話を発出。検討会が提案した「いずれの制度も、法技術的にも政策的にも、多くの課題があるのは明らかである」とし、新たな制度の導入は必要ないとした。

【図表】例3 実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払いを請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組み
出所:厚生労働省

今回検討された「解雇無効時における金銭救済制度」(図表)は、そもそも必要ないというのが連合の基本的な考え方です。日本の解雇規制は厳しいと主張する人がいますが、必ずしもそうではありません。多くの解雇事件が、訴訟や労働審判制度などで和解したり、調停したりしています。とりわけ労働審判制度では、全体の申し立て件数のうち85%が訴訟に移行せず解決しています。この中で職場復帰する場合もあれば、金銭で解決することも多くあります。このような実態からすると新たな制度の導入は必要がないというのが連合の訴えです。

むしろ新たな制度の導入により、現在機能している制度に悪影響を及ぼすことも懸念されます。例えば、解雇無効の判決が出ても、解雇をお金で買う風潮が広がることや、使用者がリストラの手段に金銭解決制度を利用することなどです。たとえ、金銭解決が労働者の申し立てのみを要件としていても、使用者が労働者に対して、「裁判を提訴しても、解決まで1年以上かかる。もし今、解雇予告に応じた場合には、裁判で解決した場合の5割の金額を支払う」などと提示するように、企業のリストラの手段に使われかねないということです。解雇権濫用法理が崩れてしまいかねず、連合は強く反対しています。

救済につながらない

使用者団体の意見も一つではありません。解決金の基準をつくるべきという意見もあれば、解決金の下限などが定められれば経営への影響は大きいとか、訴訟コストが増加すると懸念する経営者もいます。

また、経済学者からは、学術的な観点から基準を設けられるはずだと訴える人もいます。ただ、これは現場を預かる側からすると、制度の設計次第では生身の労働者に大きな影響が生じるため、慎重な対応が必要だと訴えてきました。

金銭解決制度の導入が、労働者の救済につながるという意見もあります。しかし、現状で労働者がなぜ泣き寝入りしているかというと、裁判を起こすのが大変だからです。今回、検討された案は、裁判での解雇無効の判断が必要であり、訴訟を起こす手続きなどはこれまでと変わりません。これでは問題の解決につながりません。泣き寝入りを減らしたいのであれば、裁判を起こしやすくする支援制度を充実させるべきです。また、先ほども述べたように、現状の制度でも労働者は職場復帰を求めることも、金銭解決で和解することもできます。新しい制度が必要な理由が見当たりません。

金銭解決制度の導入が、非常に低い解決金額で泣き寝入りしている労働者を救うことになるという意見もありました。しかし、解雇の事案は多様です。現在の実務では個別事案に応じて金額が決められており、一概にルール化することは難しいのが現状です。下限額によっては、現在の解決金額の水準を引き下げることにもなりかねません。

労働局によるあっせんの事案では、訴訟に比べて低額の解決金しか得られないことも問題視されました。これに関しては、あっせんの仕組みを改善して、不当な解雇であると認められるような事案では、裁判や労働審判のように事実認定しなくても、一定の金額の目安を示していくなどの検討はできると思います。さらには、労働委員会の活用も検討できるはずです。

不当な解雇を助長する恐れ

「解決金の上限・下限を定めると、金銭的予見可能性が高まる」との意見もありました。しかし、そもそも労働者の側にそうしたニーズは必ずしもありません。「いくら払えば解雇できるのか」ということを知りたいのは、使用者側のニーズです。不当な解雇をしておきながら、いくらで解決できるのかを知りたいという理屈はおかしいのではないでしょうか。

労使のせめぎ合いの中で、解決金の水準を設けようとすれば、高い水準になるとは必ずしも言えません。仮に下限額を設定したとしても、低い水準であれば、現在の和解の水準がその下限額に引き寄せられる懸念もあります。下限であっても設定すべきではないと考えています。

労政審での議論は不要

今回の検討会では、コンセンサスを得ることができませんでした。そのことは報告書にも記載がある通りです。この段階で、制度を導入するという結論にはなりません。労働政策審議会で報告を受けることはあっても、制度の導入を前提とした議論をする必要はありません。導入ありきの動きに連合は反対していきます。

検討会での議論は、専門的な内容が多かったので、今後は多くの人に解雇紛争の実情などをわかりやすくアピールする資料などを展開していきたいと考えています。制度の導入論者には、労働者の救済につながると訴える人もいますが、そうではないことを訴えていきます。前述のように訴訟手続きの支援策を拡充したり、解雇予告手当の日数を増やしたりする方が、労働者の救済につながることもアピールしていきます。

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