特集2017.08-09

「無期転換ルール」にどう対応する?「無期転換」活用は約6割
「適性を見て無期転換」には注意も必要

2017/08/30
独立行政法人労働政策研究・研修機構は、労働契約の改正状況への対応について経年的な調査を行っている。企業の動向はどうか、調査結果の概要を聞いた。
渡辺 木綿子 労働政策研究・研修機構調査部主任調査員補佐

調査の概要

労働政策研究・研修機構は、2013年と2015年および2016年に改正労働契約法への対応の概況を把握するアンケート調査を実施してきました。今回は2016年調査とインタビュー調査の概要を紹介していきます。

常用労働者を10人以上雇用している全国の民間企業3万社を対象に2016年10月5日~11月14日にかけて実施。有効回答企業は9639社。

無期転換ルール等の周知状況

労働契約法18条や20条の改正内容の認知度をたずねました。現在、有期契約労働者を雇用している企業(n=6490)に絞って回答を見ると、1000人以上の企業の9割は、「改正内容まで知っている」と答えた一方、49人以下では内容までの認知度は4割弱にとどまりました(グラフ1)。ウエイトバック集計すると、内容まで認知している企業は46.3%で、改正されたことも知らない企業は11.1%ありました。中小企業にまで内容の認知をいかに高めるかが課題です。

【グラフ1】無期転換ルール等の周知状況(有期契約労働者を雇用している企業)
JILPT「改正労働契約法とその特例への対応状況 及び 多様な正社員の活用状況に関する調査」結果

次に、法改正や改正内容を何で知ったかをたずねました。改正内容まで知っている大企業ほど、新聞やHP、弁護士・社会保険労務士からの情報提供、人事労務関係の冊子、セミナーへの参加など複数の媒体を通じて情報を得ていることがわかります。一方、小規模企業ほどセミナーへの参加率が低くなり、新聞報道やホームページ等での紹介と社労士や弁護士等からの情報提供に頼る傾向があることがわかりました。この点にてこ入れをし、違った角度から改正内容をアピールしていく必要があると言えます。

無期転換に関する企業の意向

フルタイムあるいはパートタイムの有期契約労働者を雇用している企業(定年再雇用や臨時労働者のみは除く)を対象に、無期転換ルールに関してどのような対応を検討しているのかをたずねました。その結果、「通算5年を超える有期契約労働者から、申し込みがなされた段階で無期契約に切り替えていく」と答えた企業が多くなりました(フルタイム29.1%、パートタイム35.0%)(グラフ2)。これは法定通りの対応です。

【グラフ2】無期転換ルールへの対応に関する企業の意向
フルタイム契約労働者 (有期契約労働者を雇用している企業)
パートタイム契約労働者
JILPT「改正労働契約法とその特例への対応状況 及び 多様な正社員の活用状況に関する調査」結果

これと同じくらい多かったのは、「有期契約労働者の適性を見ながら、5年を超える前に無期契約にしていく」という回答で、フルタイムは27.7%、パートタイムは19.1%でした。これに「雇い入れの段階から無期契約にする」の三つの回答を合わせると、何らかの形で無期転換を行っていく企業の割合は、約6割になります。法施行当初の13年調査に比べると、何らかの形で無期転換すると回答した企業の割合は大きく増加し、「有期契約が更新を含めて5年を超えないように運用していく」という企業の割合は低下しています。

一方で、対応方針が未定という企業も3割程度あります。その理由を聞くと、大規模企業ほど無期転換後の人事処遇のあり方が決まっていないという企業が多く、小規模企業では事業の不確実性を挙げる企業が多くなっていました。

ここで注意が必要なのは、これらの方針を選択する際の前提が、「その方針が適用されたときに対象となる人数が最も多いであろう方針」となっていることです。ですから、「5年を超えないように運用していく」と回答しても、すべての有期契約労働者を雇い止めするわけではありません。また、「有期契約労働者の適性を見ながら、5年を超える前に無期契約にしていく」というのも、適性を見た結果、無期転換されない人も生じ得る可能性を含めた選択肢になりますので、注意して見る必要があります。

無期転換後の処遇のあり方

これまでの調査で明らかになっているのは、無期転換後の処遇と無期転換の形態は連動しているということです。つまり、有期契約から既存の正社員に転換すれば処遇のあり方が変わるように、どのように無期転換するかで、その後の処遇のあり方も変わるということです。

何らかの形で無期契約にしていくと回答した企業に、どのような形態で無期転換していくのかをたずねました。その結果、小規模企業ほど「既存の正社員区分」に転換する割合が高く、大規模企業ほど「契約だけ無期へ移行」や「新たな正社員区分を設置」などの割合が高い結果となりました(グラフ3)。なお、パートタイムの有期契約労働者は、「契約だけ無期へ移行させる」の割合が圧倒的に高くなりました(45.6%)。フルタイムとパートタイムで無期転換ルールの効果が異なることを示唆しています。

【グラフ3】無期転換後の処遇のあり方に関する企業の意向
フルタイム契約労働者 (有期契約労働者を雇用している企業)
パートタイム契約労働者
JILPT「改正労働契約法とその特例への対応状況 及び 多様な正社員の活用状況に関する調査」結果

無期契約への移行パターン

無期転換ルールに関連する制度や規定をすでに整備している企業もあります。インタビュー調査で収集した事例で無期契約に移行するパターンを分析すると次のようになりました。

  1. ある時点以降、対象となる有期契約区分を一斉に無期転換するパターン
  2. 法定通りあるいは法定を上回るタイミングで無期転換申込権を順次、付与していくパターン
  3. (別段の定めを設けて)無期転換を事実上、(従来の)正社員登用制度に一致させようとするパターン
  4. 右記のいずれかの複合パターン

該当する事例では、3のパターンが多くなりました。中小企業の大半はこのパターンに入ると見られます。

このパターンは、労働契約法18条にある「別段の定め」(就業規則など)を設けて、無期転換後の処遇を既存の正社員と同じもの、もしくは正社員と有期の間の中間的な無期契約区分にすると定めるものです。その際に、就業規則に職種の変更や配置転換も含まれると、家庭の事情などで無期転換申込権を行使できないというケースも生じ得ます。これでは、従来の正社員登用制度と変わらない運用ということになり、労働契約法の趣旨を鑑みると、このパターンの広がりには注意が必要だと言えます。

無期転換労働者を選別する傾向

今回の調査では「有期契約労働者の新規採用時や契約更新時の判断のあり方」についても聞きました。その結果、「特段変更していない」と回答した企業が8割を超えました。「厳格化した」とする企業は、「緩和した」企業を上回りましたが、新規採用時で4.6%、更新時で5.4%にとどまっています。

一方、これまでの調査を経年比較すると、「適性を見ながら5年を超える前に無期契約にしていく」と回答した企業がやや増加する傾向も見られました。現時点では人手不足に対応するために5年より前に無期転換する企業が多いと考えられますが、適性を見極める中で結果として5年未満で契約満了に至るケースが発生し得る点には注意が必要です。

インタビュー調査では、これまで勤続を重ねてきた有期契約労働者には無期転換申込権を付与する一方で、新たに採用するパートタイム労働者には、通算4年半を超えた直後の契約更新判断を、これまでより厳格化していく企業もありました。新規に採用する有期契約労働者への対応が異なる恐れもあるため、引き続き動向を把握する必要があります。

無期転換ルールの今後

無期転換ルールには、良い面と警戒すべき面の両面があると考えています。

良い面としては、無期転換ルールの効果として正社員への登用制度が拡大していることです。無期転換ルールの導入により、(1)新たな正社員区分への登用や、(2)通算5年超えなどでの無期転換という選択肢が生まれ、また、(3)(本人が(1)や(2)を希望しなければ)有期契約の反復更新も広がろうとしています。

この現象は、「無期契約の多元化」だと考えています。これにより、無期契約イコール無限定な働き方という、契約区分と働き方が統合されていた概念の切り離しが進むと考えられ、働く人が多様な働き方を選択できるようになるためには、望ましい方向性だと考えます。

一方で、警戒すべき面として、現状で企業にとって有利な手段になり得るのは、有期契約労働者をできるだけ(正社員以外の)フルタイムの無期契約社員にしてしまうことです。そうすれば、同一労働同一賃金ガイドライン案にも当てはまりません。結果として、企業を事業別に分社化する動きも見られるかも知れません。また、雇用に対する規制を回避するために請負契約が広がっていく可能性もあり、労働組合としては注視していく必要があるでしょう。

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