特集2017.08-09

「無期転換ルール」にどう対応する?多様な雇用形態間の均等・均衡待遇のために「同一価値労働同一賃金」の導入を

2017/08/30
無期転換ルールの適用によって雇用形態の多様化はますます進むことが想定される。雇用形態間の処遇の均等・均衡を図っていくために「同一価値労働同一賃金」の考え方をどのように生かしていくべきだろうか。
禿 あや美 (かむろ あやみ) 跡見学園女子大学准教授

同一価値労働同一賃金が必要な理由

「働き方改革」では非正規の賃上げが話題になっていますが、本当に問われているのは「正社員」のあり方です。そのあり方を変えるためにも、「同一価値労働同一賃金」が必要だと私は訴えてきました。

正社員の働き方はこれまで、仕事内容が無限定で長時間労働であり、住む地域やキャリアも会社が決めるのが一般的で、働く人が自分の人生を自分で決められる余地が少ないものでした。「働き方改革」は、こうした正社員のあり方を見直すものにしなければなりません。

職場の雇用形態は近年ますます多様化しています。来年4月から「無期転換ルール」が適用されれば、正社員とは異なる無期契約の社員というカテゴリーも生まれます。このように雇用形態の多様化がますます進行する中では、多様な雇用形態間の処遇を横並びで比較検討する際のツールが必要です。

「同一価値労働同一賃金」は、「仕事内容」に根差した賃金です。多様な雇用形態であっても、「仕事内容」を比較の根拠にすることで、雇用形態に捉われない賃金制度をつくることができます。

「同一労働同一賃金」との違い

ILOは「同一価値労働同一賃金」を導入するためのガイドブックを発行しています。「同一価値労働同一賃金」導入のためには、一般に、職務分析と職務評価を行います。仕事内容を分析し、それに根差した賃金支払いを基準とします。査定などとも両立できます。

職務評価の項目は、「知識・技能」「負担」「責任」「労働条件」の四つで、この各項目にそれぞれ三~四つの二次的な評価項目が設定されています(図参照)。どの項目に比重を置くかで、評価が変わってきますが、仕事の「負担」や「労働条件」を評価項目に入れることで、現場の労働者の仕事が評価されるようになります。

図 国際労働機関(ILO)による職務(役割)評価項目
基本的な職務評価項目 二次的な職務評価項目 説明
知識・技能 職務知識 職務を遂行する上で必要な知識、専門的な知識・資格
コミュニケーションの技能 職務を遂行する上で必要な、顧客や利用者、職場の上司や同僚等と良好な関係をつくるための、口頭または文書によるコミュニケーションの技能
身体的技能 職務を遂行する上で必要な、手先の器用さ、手わざの良さ・正確さ、機械や器具等を操作する技能
負担 感情的負担 職務を遂行する上で、顧客等の感情に配慮し、自分の感情を調整したり、相手の感情の起伏を冷静に受け止め、自分の感情を抑制したりする際に生じる負担
心的負担 職務を遂行する上で要求される、集中力や注意力、同時進行で複数の仕事を行う、仕事の期限が厳しいなど、精神にかかる負担
身体的負担 重量物の運搬、無理な姿勢の維持など、職務を遂行する上で要求される身体にかかる負担
責任 人に対する責任 同僚や部下の育成や管理、人事評価、勤務シフトの作成や調整等に関する責任
物に対する責任 顧客情報の管理や秘密保持、土地や建物・備品等の維持・管理、顧客に提供する商品やサービスの創造・品質の維持・管理に関する責任
財務責任 利益目標の実現に対する影響、職務上取り扱う金銭や金権等の取り扱い範囲・頻度・金額、予算計画の作成や予算の執行など、金銭に関する責任
労働条件 労働環境 埃、騒音、有害な化学物質、不快な温度や湿度など、勤務する状況の不快さや危険などの物理的な環境
心理的環境 不規則な労働時間、深夜時間帯の勤務などが求められたり、仕事の重圧やプレッシャーがかかる状況で勤務する必要があったりするなどの心理的な環境
出所:厚生労働省「パートタイム労働者の納得度を高め能力発揮を促進するために」

現在、政府で検討されている「同一労働同一賃金」の法律の枠組みでは、これができません。というのも、パートタイム労働法を改正しないため、結果、その範囲内でしか考えられていないからです。この法律では、正社員とパートタイム労働者を比較する際に、仕事内容と責任とともに、人材活用の仕組みが処遇差の合理性を説明する際に用いられます。問題は、人材活用の仕組み、つまり、転勤と配転です。過去に転勤・配転があったかだけではなく、将来も含めて転勤・配転の予定があるかを、企業が説明しさえすれば、正社員とパートタイム労働者の処遇差が合理化されることになっています。同一労働同一賃金と言いながら、仕事以外の要素、つまり企業への拘束度で処遇差を合理化するものになっているのです。これは突き詰めれば企業に強く拘束されることの「当たり前化」につながります。

「無限定正社員」の温存

一方、私の調査結果では2000年以降、正社員に対する海外も含めた転勤の強制性が高まっています。経済のグローバル化などが背景にありますが、パートタイム労働法の枠組みがそれを後押ししている側面もあります。

政府が現在検討している「同一労働同一賃金ガイドライン案」も、この枠組みを維持したままです。ガイドライン案には、新卒採用の正社員が入社後に店舗勤務した際に、ベテランのパートタイム労働者からアドバイスを受けながら同じ仕事をしていても、定期的な配置転換等が正社員に予定されていれば賃金差があっても問題とならない、としています。

このように、多様な雇用形態間の処遇差を説明する法的な枠組みの中に、転勤・配転のような「仕事」以外のものが紛れ込んでいることが問題だと思います。

あくまで仕事基準に

転勤や配転を法的に禁止すべきというわけではありません。均等・均衡待遇を考慮する法的基準に、転勤や配転といった要素があることが問題です。

こうした人材活用の仕組みの基準を維持したままでは、企業への拘束度の高さが、相対的に高い賃金の理由とされます。正社員はより一層、長時間労働・配転・転勤有の無限定なものに純化していき、それ以外の雇用形態の社員の処遇は低く据え置かれる。無期転換が今後行われると、職場の労働者はより多様化します。その中で、純化した正社員にはワーク・ライフ・バランスは贅沢なものとされ、女性の活躍は今まで以上に難しくなります。企業への拘束度で賃金差を説明すると、「働き過ぎ」への競争が起こります。そうした課題に向き合うためにも、人材活用の仕組みという基準を排し、仕事に根差した「同一価値労働同一賃金」の導入を進めていくべきだと思います。

では、仕事に根差した「同一価値労働同一賃金」において、転勤や配転をどう評価すればよいでしょうか。あくまで例に過ぎませんが、転勤の有無にかかわらず、同一価値の仕事をしていれば同じ処遇にする。その上で、転勤が生じた場合に付加的な賃金を支払うとか、転勤を昇進の要件にするなどの対応が考えられるのではないでしょうか。こうした場合でも、基本的な処遇はそろえておくということです。

現在の働き方改革の議論で気になるのは、転勤・配属の有無がリスクプレミアムとして、処遇の上積みの理由となっていることです。しかし、有期契約労働者は契約更新ごとに雇い止めのリスクを背負っています。それなのに有期であることが低処遇の理由になっています。リスクの考え方がとても恣意的です。

高年齢者雇用を考える上でも同じことが言えます。定年再雇用後に同じ仕事をしていても急激に賃金が下がるようなことがどこまで許されるのか。「仕事」にモノサシをつくることでこうした問題への対処もできるようになるはずです。

社会保障の充実とセットで

パート労働者や有期契約労働者のことだから自分たちには無関係ということではなく、正社員のあり方が常に比較対象になっていることを意識してほしいと思います。

今回の「働き方改革」では、正社員のワーク・ライフ・バランスや住む場所やキャリアの決定権などがほとんど考慮されていません。正社員が無限定な働き方のままで社会が維持できるのか、そのような生き方が幸せなのか、正社員の人たち自身が自分たちの人生をどう考えているのかが強く問われています。

最後に、「同一価値労働同一賃金」に関して、社会政策の観点から付け加えておきたいと思います。たとえ「同一価値労働同一賃金」を導入したとしても、中間層を支える社会保障制度や労働者への支援がなければ格差は拡大します。とりわけ日本は、住宅費や教育費なども賃金でまかなう社会です。今後は、職業訓練や失業手当の拡充などの積極的労働市場政策の役割がさらに重要になります。労働組合の運動も、賃上げだけではなく、そうした社会制度の拡充と合わせて取り組んでいく必要があると言えます。

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