「無期転換ルール」にどう対応する?無期転換ルールの法的ポイントは?
雇い止めや転換後の処遇見直しなど解説
無期転換ルールの要件
民主党政権下での労働契約法の改正は、有期契約労働者の保護を図る、戦後初の画期的な立法でした。18条は「名ばかり有期契約労働者」の雇用の安定を図り、19条は有期契約の雇い止め法理を法定化し、20条は正社員との著しい労働条件の格差是正を図ることを狙いとしたものです。
労働契約法18条の特徴は、無期契約に転換するかどうかの選択を労働者に委ねていることです。有期契約の上限を法的に5年とし、すべての労働者を無期契約に転換させる制度ではないことに注意が必要です。
「無期転換ルール」の適用要件は次の二つです。
(1)同一の使用者との間の有期労働契約を更新して通算5年の契約期間を超えること
(2)現に締結している有期契約期間内に労働者が無期転換の申し込みをすること─です(図1参照)。最も早い場合では、来年3月31日を超えると無期転換申込権が発生することになります。
【図1】
契約期間が1年の場合の例
契約期間が3年の場合の例
違法となる対応は?
無期転換ルールを巡って、次のような対応を取ることは、法や施行通達などで違法とされています。
クーリングの悪用
一つ目はクーリング(労働契約法18条2項)の悪用です。これは、有期契約Aとその次の有期契約Bの間に、契約がない期間が6カ月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約Aは、無期転換申込権の要件となる通算契約期間に含まないというルールです(図2参照)。
【図2】通算契約期間の計算について(クーリングとは)
空白期間…有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、契約がない期間が6カ月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません。これをクーリングといいます。
上図の場合のほか、通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があればそれ以前の有期労働契約は通算契約期間に含めません(詳細は厚生労働省令で定められています)。
このクーリング制度を使用者が悪用する懸念があります。例えば、有期契約とその次の有期契約の間に派遣や請負の形式で6カ月以上働かせて、その後、再び有期契約を締結し、通算期間を清算するという方法です。
しかし、就業実態が変わらないのに、無期転換権の発生を免れる意図で労働契約の当事者を形式的に第三者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、「同一の使用者」との労働契約が継続しているものと解されます(施行通達27項イ)。
また、労働者派遣法(40条の9)では、派遣先が当該派遣先を離職した労働者を離職後1年間は派遣労働者として受け入れることを禁止しているため、クーリング期間に派遣形態を利用することはできません。
無期転換申込権の放棄
例えば、「賃金を上げるから転換権を放棄しろ」というように、無期転換権申込権を事前に放棄させることは、労働契約法18条および公序良俗に反し無効です(施行通達28項オ)。
では、無期転換申込権が発生した事後はどうでしょうか。いったん発生した無期転換申込権を行使するかどうかは労働者の自由意思に委ねられています。このため理論的には労働者が任意で放棄することは可能です。しかしながら、無期転換を放棄することは労働者にとって何もメリットがありません。労働組合としては放棄させないという方針で臨むべきでしょう。使用者が圧力や強制により放棄させた場合は、労働者の真に自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかどうかを慎重に判断すべきことになります。
雇い止め
労働者が無期転換権を行使したことを理由とする解雇は違法です。また、他の理由で雇い止めをしようとしても、労働契約法19条の適用があるため、客観的合理性・社会的相当性を欠いた雇い止めは無効となります。無期転換権を行使する段階まで問題なく働いてきた有期契約労働者が、その権利を行使した途端、雇い止めになる正当な理由は考えづらいため、労働契約法19条によって無効になる可能性が高いと言えます。
無期転換後の処遇
無期転換後の処遇は、法律上、別段の定めがある場合を除いて同一となっており、従前の有期契約時のままでよいとされています。
ただし、別段の定めがあるときはこの限りでないとされており、ここには労働協約、就業規則、個別の合意も含まれると解されています。ここで労働協約が挙げられているのは、労働条件の引き上げに、労働組合がかかわることが期待されているからです。
一方で、就業規則や個別合意で使用者が労働条件を引き下げようとする場合も考えられます。労使の合意がなければ労働条件を変更できないのが労働契約法の原則(労働契約法3条1項、8条、9条)ですから、使用者が一方的に不利益変更することはできません。不利益変更に応じなければ、無期転換させないという個別合意は、労働契約法18条違反です。
問題は、就業規則に基づく不利益変更です。この場合は、労働契約法7~9条の規定に基づいて有効性が判断されます。労働契約法10条では、変更後の就業規則の労働者への周知、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合などとの交渉状況などが問われます。厳しい合理性の要件で判断すべきと言えます。
会社が無期転換した労働者を対象にした就業規則をつくり、その中に職務範囲や勤務地の変更が含まれていたらどうでしょう。労働者はそれを受け入れるべきでしょうか。
この場合、従前の労働契約で、職務や勤務地などが明確に限定されていれば、労働者の合意がない限り、不利益変更はできないことになります(就業規則の効力が及ばない)。しかし、そうではない場合はどうでしょう。職務内容の変更が従前に何回かあったというのであれば、その変更の範囲の合理性が問題となります。私の考えでは、賃金その他の給付が無期転換前から上がっていないのに、業務内容だけ増えたり、責任も重たくなったりというのでは、合理性は認められないでしょう。職種の変更は、その合理性がさらに厳しく問われると思います。
配置転換も、従前の契約が明確であれば、使用者が一方的に変更することは許されません。単に就業規則に「就業場所の配置転換を命じることがある」と規定されていたら、どうでしょう。この場合、その労働者の抱える家庭の事情や個人的な事情で、勤務場所を変更できないという合理的な事情があれば、配転は権利濫用として無効になるでしょう。
「選別」強まる懸念
「無期転換ルール」が適用される前の雇い止めの大量発生が懸念されましたが、最近の調査を見ると無期転換を活用したいと考える企業が増えています。
しかし、その一方で、企業が無期転換する人を「選別」するという問題も生じています。例えば、会社が1年前に契約社員への人事評価制度を突然導入し、その制度に基づいて下位の人を雇い止めするという事例です。
この場合、雇い止め法理を法定化した労働契約法19条の当てはめを検討することになります。19条では、(1)無期契約と異ならない状態で契約を反復更新してきたか(2)契約更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか─が問われます。(2)については、▼雇用の臨時性・常用性▼更新の回数▼雇用の通算期間▼期待を持たせる言動や制度・運用があったか─などが問われます。
この条文を先ほどの事例に当てはめると、これまで有期契約を反復更新した実績があり、担当業務の能力適正などに問題がなく、更新してきたのであれば、無期転換ルールを回避するための雇い止めであることが強く疑われます。
しかし、さらに難しいのは、事例のように突然評価制度を導入するのではなく、契約の当初からそうした制度が導入されている場合です。最初の契約から有期契約の上限が決まっていれば、それを覆すことは難しくなります。ただし、この場合でも、労働契約法19条を当てはめた検討を行います。しっかりした運用が行われていなければ、19条の当てはめも可能です。このように、安易な雇い止めは許されないことを労使はともに認識しておくべきでしょう。