「無期転換ルール」にどう対応する?同一労働同一賃金と無期転換ルールの関係は?
雇用形態間の均等・均衡待遇をどう図るか
無期転換ルールと同一労働同一賃金
有期契約労働者が無期契約への転換を申し込めるようになる「無期転換ルール」と、有期・パート、派遣労働者と正社員との格差を是正する「同一労働同一賃金」は、法的に言えば別の問題です。
2018年4月から適用が始まる無期転換ルールでは、有期から無期に転換する際に、特段の合意がなければ、無期転換する労働者の処遇は有期契約時のままでよいとされています。無期転換ルールを定めた労働契約法18条の規定は、無期転換後の処遇内容を問わず、無期契約への転換を促しているものと言えます。
一方、同一労働同一賃金の関連法は、法改正が順調に行われれば、2019年度に施行されます。この法改正では、正社員と有期・パート、派遣労働者との間の均等・均衡待遇が問われます。
この同一労働同一賃金と、労働契約法18条で無期転換した労働者の関係を整理してみましょう。法的に言うと、無期転換した労働者の中でフルタイムの労働者は、今回の同一労働同一賃金の対象から外れます(無期契約のパート労働者は適用対象)。無期転換したフルタイム労働者と正社員との処遇格差は、今回の同一労働同一賃金では法的に問われないということです。同一労働同一賃金ガイドライン(案)は、有期・パート等と正社員との均等・均衡待遇を図るもので、無期フルタイム同士の処遇格差を規制するわけではないからです。
均等・均衡待遇をどうするか
たとえば法的には次のようなケースも想定されます。18年4月に有期契約時の処遇のままで無期転換するフルタイム労働者が出てきます。その翌年に同一労働同一賃金ガイドラインが適用され、有期契約労働者の処遇が改善される。このような場合、無期転換したフルタイム労働者よりも有期契約労働者の方が、処遇が高くなる場合があります。こうした対応でも、直ちに法律違反になるわけではありません。
けれども、法的な観点とは別に、人事労務管理上の問題は残ります。無期転換したフルタイム労働者の処遇をどう扱うかは、企業の労使で話し合わなければなりません。
このように、無期転換ルールの適用によって、▼正社員▼有期・パート、派遣労働者▼無期転換したフルタイム労働者─という類型が生まれてきます。そのため、同一労働同一賃金を検討する際に、それぞれの処遇について、誰と比較して均等・均衡を図ればいいのか、という質問を受けます。
結論から言うと、比較対象者という考え方がミスリーディングです。今回の同一労働同一賃金で問われているのは、誰と比べるかではなく、正社員に適用されている制度を他の雇用区分の社員にどう適用するかの問題だからです。
たとえば、ある会社が業績への貢献に応じて正社員に賞与を支給しているとします。この場合、会社業績に貢献しているのは正社員だけではありません。有期・パート、派遣労働者も会社の業績に貢献しています。こうしたケースにおいて、有期契約労働者などにも賞与を支給すべきというのが、今回の同一労働同一賃金の考え方です。正社員Aさんと有期契約社員のBさんを比べるというより、正社員にその制度が適用されている理由を問い、合理的な理由がなければ、同じ制度を有期契約社員などにも適用するということです。法的な適用対象にはならないものの、無期転換したフルタイム労働者にもこの考え方を当てはめることはできるはずです。
企業労使ですり合わせを
その上で、社員の役割が異なれば、異なる制度を適用するということもあり得ます。たとえば、基本給です。ある会社の基本給は、正社員については経験や能力を重視する制度になっているとします。一方で有期契約社員に関しては、長期的なジョブローテーションや転勤などを考慮した人事労務管理ではないので、職務を重視した制度を適用している。このような場合、正社員と有期契約社員との間で異なる実態があるのであれば、違う制度を適用することも可能です。ただし、この場合でも、役割等の違いに応じた額の基本給とすること、いわゆる均衡待遇が求められます。
無期転換したフルタイム労働者がこのような場合、どのように位置付けられるかについては、前述のとおり、法的には規定はありません。今回の同一労働同一賃金の法改正は、あくまで有期・パート、派遣労働者と正社員の均等・均衡待遇を図るものです。
このため、法律の立て付けから言えば、無期転換での対応の方が人事労務管理における企業の裁量の幅が広くなると言えるかもしれません。ただし、バランスの取れた処遇にしなければ、企業が望む人材を確保できないという問題が生じるでしょう。
18年4月の無期転換ルールの適用から、19年度の同一労働同一賃金の法改正まで1年間の期間があります。企業労使でのすり合わせが重要です。
裁判所が同一労働同一賃金ガイドラインに基づいて均等・均等待遇を考慮する際、不合理性の判断には、有期・パート、派遣労働者の意見を労使協議でどれほど反映したのかが、判断要素の一つになります。その意味において労働組合による組織化は重要だと言えます。
二極分化した働き方を変える契機に
無期転換に当たっては、無期転換前の雇い止めが懸念されていますが、労働契約法19条の雇い止め法理により、雇い止めが違法となる場合も想定されます。企業は雇い止めをする理由を数字やデータなどを用いて、説明できるようにしなければなりません。その意味では、有期契約の段階からの査定や評価を取り入れる企業が増えるかもしれません。
また、有期契約労働者や無期転換するフルタイム労働者を別会社に転籍させて、均等・均衡待遇の対象から外してしまうという動きも出てくるかもしれません。しかし、こうした対応は、法の適用を免れるための脱法行為であるとして、裁判所が同一労働同一賃金の規定を類推適用する可能性も十分に考えられます。
同一労働同一賃金のポイントは、正社員の処遇の引き下げによって均等・均衡を図ろうとするものではありません。そのような対応は法の趣旨に反するものとして違法になる可能性があります。
今回の同一労働同一賃金の目的は、非正規労働者の処遇改善だけではなく、その背景に成長と分配の好循環という、経済政策的な要請もあります。賃金を引き上げ、消費の拡大を通じて、経済成長をもたらそうという考え方です。賃金のパイを大きくする、労働分配率を高めることが法改正の大きな目的です。
今回の法改正では「賃金原資は一定」という考え方はとっていません。賃金原資を増やすこと、そのために生産性を高め、サービスや製品に価格転嫁することが求められています。労働組合には、賃金原資の増額を正面から訴えることが期待されています。
今回の「働き方改革」がめざすのは、正規・非正規で二極分化していた働き方を変えていくことです。低賃金で不安定な非正規雇用と、重い負担と長時間の拘束がある正社員という二極分化の働き方から、有期やパート、派遣でもきちんとした処遇を受けられること。それにより、働く人たちが自分の人生に応じて、多様な働き方を選択できる社会になっていくことを期待した改革であり、そのスタートです。
今年から2019年までの3年間は改革の年になります。労使には大改革になるという覚悟を持って取り組んでほしいです。