【第1編】母親になる前に ~女性の「ライフコース」がみえていますか~「ケアメン」の裏側
「家事育児はもっぱら妻が担い、仕事は夫がやります」ということならば、その先には介護があります。介護研究のパイオニアの春日キスヨさんは膨大なインタビューから、女性の正直な気持ちと男性への憤りを的確に描いています。
「いったいなぜ、ほかの誰でもなくこの私が介護しなければならないのか?!」これは現代の介護者の多くがしばしばとらわれる問いである(『家族の条件 豊かさのなかの孤独』岩波現代文庫)。
一方で介護者4人のうち1人が男性介護者で、いわゆる「息子介護」の場合が多くを占めます。ただし、難病患者、障害者、若年認知症など、現実には子どもから高齢者まで範囲が広いので、男性の介護者が登場するのもうなずけます。いずれにせよ、男性介護者は非常に目立ちます。立命館大学の津止正敏さんは、女性介護者とは呼ばないのに、男性介護者と呼ぶ不思議さを改めて指摘しています(『ケアメンを生きる 男性介護者100万人へのエール』クリエイツかもがわ)。
しかし、夫がケアメンであっても妻は手放しでは喜べない状況です。夫が自分の親を介護しているその時、あなたは夫を援助する立場になります。介護は一人でなんかできません。夫は家事や育児をしてきましたか。一人で介護ができると思いますか。
夫は介護で疲労困憊です。ですから、ケアメンの介護とは、妻のあなたを巻き込んでこその営みです。尊敬に値する夫ですが、世間では異端児扱いでしょう。「なんでそんなの嫁がやらないのだ」と言われますし、そう言われるのが嫌だから秘密にしたり、ぎりぎりまで白状しないでしょう。
夫は介護で疲労をためながら、思うように仕事ができないとか、見通しが立たないとか、不安でいっぱいです。精神的な負担が大きく、イライラする人もいるし、徒労の果てに病気になっていく人もいます。こうしてあなたに出番が回ってきます。
さあ、少しずつ女性の本当のライフコースが見えてきましたか。
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。