特集2017.12

「賃上げ」へ動く労働条件の趣旨、目的、性格を分析
同一労働同一賃金ガイドライン案を生かす

2017/12/14
「底上げ・底支え」「格差是正」に向けて、非正規雇用労働者の処遇改善が欠かせない。労働組合は「同一労働同一賃金ガイドライン案」をどのように生かせるか。棗弁護士に聞いた。
棗 一郎 日本労働弁護団幹事長/弁護士

ガイドライン案の読み方

政府は昨年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、ガイドライン案)をまとめました。ガイドライン案は、今の時点では法的な効力はありません。政府が提出しようとしている「働き方改革関連法案」が成立すれば、それを基にガイドラインとして正式に機能することになります。

とはいえ、裁判所はガイドライン案をすでに意識しているとは思います。雇用形態間の不合理な労働条件を禁止した労働契約法20条は、それだけでは抽象的です。具体的な指針を示すガイドライン案が法的な効力を持つようになれば裁判所も無視できません。

ガイドライン案は、個々の労働条件ごとに「基本的な考え方」と「問題となる例」「問題とならない例」を示しています。

基本給に関しては、「労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合」「労働者の業績・成果に応じて支給しようとする場合」「勤続年数に応じて支給しようとする場合」「勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合」の四つの例を示しています。例えば、職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、正社員と同じ職業経験・能力を蓄積している有期・パートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分について、同一の支給をしなければならないと示しています。

こうした基本的な考え方を踏まえて、ガイドライン案は「問題となる例」と「問題とならない例」を示しています。労働組合としては、それぞれの例の「問題とならない例」をシビアに検討して要求を組み立ててほしいと思います。ガイドライン案が示す「職業経験・能力」「勤続年数」などの項目に沿って、正社員の基本給がどのように構成されているのかを分析するといいでしょう。

抽象的な理由ではダメ

労働契約法20条は、立法趣旨でも通達でも、個々の労働条件ごとに不合理性を判断すると述べています。そのため、賃金、一時金、手当、休暇など個々の労働条件の支給の趣旨、目的、性格を分析し、それに照らして不合理な労働条件になっていないかをチェックすることがとても大切です。

ポイントは、それぞれの労働条件について正社員との差がある場合、その理由は具体的でなければいけないということです。ガイドライン案は「『将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』という主観的・抽象的な説明では足りない」と、注意を促しています。差がある場合は、具体的な実態に照らして説明する必要があります。

例えば裁判所は、各種手当などを正社員に支給するのは、長期にわたって働いてもらうためのインセンティブだと説明します。しかし、実態を見ると、無期転換ルールの施行もあって、長期雇用される有期・パートタイム労働者はたくさんいます。これでは、正社員だけに各種手当を支払う理屈は成立しません。このように個々の労働条件の趣旨、目的、性格を分析し、実態に沿って検討していくことが大切です。

また、処遇差を比較する際に、正社員の誰と比べるかを検討することも重要です。経営層・管理職と比べるのではなく、同種の業務に就いている人と比べるべきでしょう。

当事者の要望を聞く

賞与や各種手当・休暇などの労働条件は、取り組みやすい分野だと言えるでしょう。まずは、どの制度が正社員にあって、有期・パートタイム労働者にないか一覧表をつくってみる。その中で、どの制度が求められているのか、有期・パートタイム労働者に実際に要望を聞き、春闘ではその中でどの制度を要求するのか、労使関係を踏まえて検討し、絞っていく。そうした闘い方がいいでしょう。

私が担当した裁判では、有給の病気休暇を勝ち取ったことが当事者の労働者に一番喜ばれていました。また、これまでなかった賞与を獲得した組合の事例も聞いています。要求に当たって、当事者の意見を聞くことは組織拡大にもつながる大切な取り組みです。

さらに、無期転換した社員の処遇改善も今後の課題です。ガイドライン案は、有期・パートタイム労働者などと正社員との不合理な格差を是正するもので、無期転換した社員は是正の対象になっていません。しかし、有期・パートタイム労働者の処遇が改善し、無期転換した社員の労働条件が従前のままではアンバランスです。労働組合は、処遇改善のあり方を検討してほしいと思います。

法を上回る取り組みを

労働契約法20条に関連する裁判所の判断は現時点では抑制的であると言えます。労働者側勝訴の事件もありますが、労働者側敗訴の事件の方が多いです。

しかし、裁判所の判決とは法の求める最低限のラインに過ぎません。労働組合は、ガイドライン案などを用いた労使交渉を通じて、法を上回る労働条件を引き出すことができます。労働組合が法の成立と裁判所の判断に先行した取り組みを展開することが極めて重要です。そうした取り組みが労働組合の社会的意義を高めていくと言えるでしょう。

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