「賃上げ」へ動く所定労働時間の短縮で確かな働き方改革を実現
味の素労働組合の要請の真の狙いは?
きっかけは08春闘
〈味の素「労働時間を1日20分短縮」〉─などの見出しでニュースが報じられたのは2016年3月。基本給を変えずに所定労働時間を短縮し、実質的な賃上げを実現した取り組みに注目が集まった。味の素労働組合の前田修平事務局長に取り組みの背景などを聞いた。
「働き方改革の一つのターニングポイントは08春闘だった」と前田事務局長は振り返る。労組はこの年、100円のベースアップと時間外割増率の引き上げを要求。ベアは勝ち取ったものの、時間外割増率の引き上げはゼロ回答だった。だが一方で、会社と「労使ワーク・ライフ・バランスプロジェクト」を立ち上げることで合意。前田事務局長は「働き方を見直して一人ひとりのワーク・ライフ・バランスを向上させたい、という趣旨は会社に伝わった」と話す。
以降、「味の素グループ ワーク・ライフ・バランスビジョン」の策定、育児休職の一部有給化やテレワーク、時間単位有休、長期休暇取得を目的としたワーク・ライフ・バランス休暇(3日)などのさまざまな制度拡充、意識啓発のための会社説明会や職場ワークショップ等の取り組みを労使で進めてきた。
所定労働時間短縮の真の狙い
労働組合は2014年春闘を機にあらためて生産性運動を積極的に展開した。前田事務局長は、「日々、生産性向上に取り組むことは当然だが、業績が厳しい時こそ、組合側からさらに主体的に生産性運動に取り組むことで個人と会社の成長に貢献することが必要と考えた」と振り返る。この運動で、組合員一人ひとりに行動宣言を掲げてもらって執行部への提出や個人目標への反映を進めた。組合員から厳しい声もあったが、対話を積み重ねて運動の必要性を訴え続けた。結果として、14春闘と15春闘で、1000円と2000円のベースアップを勝ち取ることにもつながった。前田事務局長は「16春闘を含めて、常に生産性向上にこだわって地道に取り組み続け、会社とも議論を重ねてきたことが大きかった」と話す。
こうした取り組みを経て労働組合は16春闘で所定労働時間の短縮を要請した。前田事務局長は要請の背景をこう話す。
「所定労働時間の短縮の真の狙いは、働き方改革を組合員だけではなく、経営・管理職も巻き込んだ全員の取り組みに進化させ、確かな働き方改革を実現すること」
加えて、所定労働時間を短縮したことで、年収維持の観点から非正規社員の時給アップも実現した。また、会社の2017ー2019中期経営計画にも働き方改革に関する取り組みが盛り込まれたことで、働き方改革がグループ全体の取り組みへと進化した。
長年の労使協議の結果
団体交渉の結果、会社側は1日20分の短縮を回答。今年4月から所定労働時間は7時間35分から7時間15分になった。会社はさらに所定労働時間を2020年に7時間にすることも目標に掲げている。
16春闘後も働き方改革の取り組みが進められている。全職場で組合員・管理職・経営それぞれが働き方に関する課題を話し合う「職場座談会、職場課題検討会」を開催したほか、テレワーク制度の拡充や、会議時間の短縮、ペーパーレス化、「どこでもオフィス」の導入、始業終業時刻の前倒し(本社は始業8時15分、終業16時30分に。水曜日は17時消灯)など、さまざまな改革に着手した。
こうした取り組みの結果、2017年4~9月の総実労働時間は前年と比較して約25時間減少している。
前田事務局長は「長年の労使の真剣な議論やひたむきな運動が今の取り組みにつながりつつある」と話す。注目の取り組みの背景には労使で積み重ねた議論があったことを強調したい。